昨今若者の間で広まる「界隈」という言葉。インターネット空間上を通して広まったこのフレーズは、いま若者たちのゆるい繋がりを表すものとして、注目を集めている。この「界隈」の誕生は、現代の文化においてどのような意味合いを持っているのか。本連載ではインターネット上の若者集団をウォッチし続けてきたメディア研究者の山内萌が、さまざまな場所で生まれる「界隈」の内実を詳らかにしていく。
今回取り上げるのは、おしゃれに飾り付けたバスルームを映した動画、通称「ぽこぽこ界隈」。なぜ、このような動画が働く女性たちの間で広まっているのだろうか。
社会人女性の美容系ルーティーン動画
白やピンクがかったフィルター越しに浴室が映っている。バスタブにお湯を張り、SABONのハートスプーンでバスソルトをすくって入れ、さらにキュレルの入浴剤を入れて保湿を補う。バスタブにステンレス製のトレーを設置して、その上にシャンプーとトリートメント、ヘアマスク、SABONかダヴのボディスクラブ、火を灯したキャンドル、そして水分補給のスタバのタンブラーを置く。これらが取り囲むのは、中央に置かれた長風呂のお供iPad。その様はさながら祭壇のようで、一日働いて染み付いたケガレを払うための、清めの空間が完成する。
これは、「ぽこぽこ界隈」と呼ばれる動画の一例である。Tik Tokで検索してヒットする動画を見てみると、画面の真ん中に白い文字で「社会人vlog」「おふろルーティーン」といったタイトルがつけられている。ハッシュタグも「#社会人の日常」「#美容」「#自分磨き」など、働く女性による日常の美容実践の動画であることが強調されている。そして最大の特徴は、動画のBGMにぽこぽことまるで水が沸騰して泡立っているかのような音が使われていることだ。これが、ぽこぽこ界隈と名付けられた由来である。
ぽこぽこ界隈の動画を見ているのは、彼女たちと同じ社会人女性から中高生までと幅広い。コメント欄には「自分も大人になったらこんな素敵な女性になりたい」と彼女たちに憧れる若年層もいれば、「どこからこんな財力と体力が出てくるのか」、「自分には真似できない」と驚いたり、なかには嫉妬に近い感情を表明する同世代らしき女性たちもいる。ぽこぽこ界隈は、若い女性たちの憧れと羨望の対象となっている。
ぽこぽこ界隈のルーティーン
ぽこぽこ界隈系の有名アカウントは少なくともTikTokで10万フォロワー以上、YouTubeで1万以上のチャンネル登録者数を獲得している場合が多い。これらのアカウントの投稿動画を見る限り、現在ぽこぽこ界隈と名指されているタイプの動画は2023年後半あたりから投稿され始めていたことがわかる。
彼女たちの動画は基本的に一人称の構図で、顔はほとんど映らない。その代わりに、立派なジェルネイルが施された指先が画面に入り込む。新作コスメ、洋服、インテリア雑貨、スキンケア、美容室、エステ、個室サウナ。膨大な量と金額のモノ消費・コト消費が軽快な音楽とともに次から次へと映し出される。コスメの箱やグラスをジェルネイルの先でかたかたと叩いたり、クリームを手に取るねちっとした音を聞かせるなど、ASMR動画的な要素もある。
彼女たちの動画には様々なパターンがあるが、多くのvlogに共通する流れを描写してみたい。動画はたいてい朝起きる場面から始まり、この時着ているパジャマはジェラートピケである。そして朝一番に彼女たちが行うのは水分補給で、多くの場合がスターバックスのストロー付きの特大タンブラー(しかも海外限定品。通販で6000円から7000円程度で手に入る)に水を入れて飲む。次にメイクの準備に取り掛かるが、ここでは流行の韓国コスメを使いつつ、間にやや高いデパコスが挟み込まれる。クレ・ド・ポーボーテの下地とディオールのハイライトは特に登場率が高い。
休日vlogだとここからお出かけパートが始まる。彼女たちが真っ先に向かうのは大人ガーリー系ファッションブランド、スナイデルだ。ぽこぽこ界隈の女性たちのほとんどはスナイデルの服を着ている。細身のシルエットに肩出し、花柄で胸元や肩がフリルになっているワンピース。彼女たちの服装の特徴はざっとこんな感じである。ジェラートピケに寄って想定外のパジャマや部屋着(すでに自宅に何着もある)を購入する流れも定番である。
洋服を買った次はコスメで、主に2000円前後の韓国コスメをPLAZAやLOFTで購入する。FrancfrancやTHREEPPYで食器や小物を購入する日もある。「美容day」と銘打たれている動画は、美容室でヘアカラーをしたりピラティスに行ったりエステに行ったり個室サウナに行く。こういったお出かけの合間にも彼女たちは水分補給を欠かさない。スターバックスの新作、タリーズのヨーグルト&アサイーなどが選ばれる。
用事を終えて帰宅すると、無印良品の蒸籠を使った蒸し野菜などヘルシーな手作り料理で夕食を済ませる。そしていよいよバスタイムである。これは冒頭の通りだ。お風呂からあがったらアヌアの化粧水と美容液、パックでスキンケアを抜かりなく行い、リファのヘアオイルとドライヤーでヘアケアを済ませ、一日を終える。
上記のように一般的な動画の傾向を記述できるほど、ぽこぽこ界隈の動画にはパターンがある。起床、メイク、外出、買い物、お風呂、スキンケア、就寝。この規則正しいルーティーンが、白やピンクを基調とした画面の中でキラキラと実行されている。
ショート動画は欲望の代理
ぽこぽこ界隈が見せる日常は、ひとつひとつの商品や利用施設の金額でみれば一般的なOLでも手が届く。しかしこの動画を真似して、コスメや洋服、インテリアをすべて買い揃えようとすることは難しいことが推察される。視聴者の中には「◯◯ちゃんみたいになりたい」と、彼女たちの動画内の行動を真似しようとする者も少なくないが、その試みは大抵の場合うまくいかない。少しでも商品の金額をケチると貧相になってしまうし、なにより画面の中には隙なく「かわいい」を散りばめた、ある種のセンスが必要な空間演出が施されている。だから簡単には真似できないし、その失敗の悲哀をネタにした動画も投稿されているくらいだ。
視聴者の女性たちは、なぜ真似できない生活の短尺の動画を視聴することに時間を費やすのか。それは、ショート動画に備わった経験の代理という性質にある。そもそもメディアというものは、人々の欲望を媒介する装置だ。テレビで人気俳優が美味しいと紹介した店に行きたくなる、雑誌でモデルが身につけていたバッグが欲しくなる。メディアに触れるたびに、私たちは欲望が疼くのを感じる。
しかしショート動画は、従来のメディアと少し様相が異なる。バズっているショート動画の多くは、大食い、激辛、高級飲食店や最新スポットのレビューなど、自分ではできないチャレンジをしてくれる動画ばかりだ。しかもそのチャレンジをしているのは芸能人ではなく、自分たちとなんら変わらない、元々はただの素人だった人々だ。毎日の生活に追われて時間もなく一般的な給与水準で普通に働いている人間からすれば、こういった到底真似できない経験を、自己同一化しやすいYouTuber(しかし彼らは有名な場合大金を稼いでいるのだが)が紹介している動画を見ることで、日常で発散できない自分の欲望を少しでも満たすことができる(もちろん、欲望が増幅されることもあるが)。
たとえば、YouTubeやTikTok、Instagramでは不健康なほど大量なチーズやマヨネーズ、香辛料をトッピングしたジャンクフードやインスタントフードを食べる動画が流行っているが(健康キャンセル界隈)、これは深夜のドカ食いの欲望を代理していると言ってよい。その点でぽこぽこ界隈は、女の子がいつかやってみたいと思う衝動買いの欲望を代わりに発散してくれているのだ。そうした意味では一見異なるようでいて、ぽこぽこ界隈に代理される「衝動買い」の欲望は、深夜のドカ食いにも近いのかもしれない。
ぽこぽこ界隈は、2024年に話題となった「風呂キャンセル界隈」と対で言及されることが多い。仕事から疲れて帰ってきて何もする気力が起きず、風呂に入ることをキャンセルしてしまう人たちが世の中には一定数いることが、風呂キャンセル界隈によって可視化された。ぽこぽこ界隈の動画でも、「これで風呂キャン回避してる」とお気に入りのバスグッズを紹介する場面が度々ある。お風呂上がりには「癒やされたのでまた1週間乗り越えるっ」というキャプションがつくこともある。彼女たちの「意識高い」ルーティーンは、日常で失われた気力を再び養い、明日また仕事に向かうための儀式と言ってよい。
これはバスタイムに限られない。ちょっと水を飲むのにスタバのタンブラーを使ってみるのも、Francfrancの食器で朝食を食べるのも、ジェラートピケのパジャマを着るのも、そうやって「かわいい」をルーティーンの中に配置することで、毎日を生きていくためなのだ。
少女でいるための泡
1980年代の少女文化、特におまじないブームに注目して、キャラクター商品など少女向けの雑貨であるファンシーグッズが少女たちの生活環境を構成し、少女マンガ的なフィクションの空間を生み出していると指摘したのは大塚英志である。この空間は現実から切り離された、いわばバーチャルリアリティのようなもので、少女たちは呪具としてのファンシーグッズを周囲に配置しておまじないを唱えることで、外部から遮断されたケガレのない空間を作り出していた、というのが大塚の分析だ。
対して、おまじないが少女的なモチーフによるファンタジーな空間を提供しながらも、外部から完全に切り離されていたわけではないことを、少女向け占い雑誌『マイバースデイ』の分析から橋迫瑞穂は指摘している。おまじない、相談コーナー、美容やファッションなどのライフスタイル情報などを掲載した同誌は、これらの情報を駆使して困難な学校生活に適応し、理想の「白魔女」になるための努力を「魔女っこ」である読者少女たちに促していた。
ぽこぽこ界隈に占いやおまじないの要素が直接あるわけではないが、毎日を生きていくためのルーティーンをストイックにこなす彼女たちは、清めの儀式を粛々と行う魔女のようでもある。先述したように、コメント欄には視聴者から「女子力高すぎて憧れる」「将来こうなりたい」といった憧れと羨望の言葉が寄せられている。
大塚の議論に戻ると、1980年代以降、消費社会が進展する中で、目まぐるしく変化する消費のトレンドに追いつくためには、少女時代に好きだったファンシーグッズをいつまでも大事にしているわけにはいかない。そんな時代の要請の中で、少女たちは自己の内面を仮託したはずの「かわいい」を断念してきた。それは少女の時代に作り上げた少女マンガ的世界観を社会の要請によって手放すことであり、傷をともなう経験である。
それに比べると、「かわいい」を画面いっぱいに構築するぽこぽこ界隈は、「社会人OL」という成熟した女性でありながら、「かわいい」を好む少女という、相反する記号を両立させている。彼女たちが好むのは、ピンクで甘めでガーリーでありつつ、大人の女性でも持っていて違和感のないデザイン。外に出かける時は大人が持てるかわいいアイテムを身につけるが、家ではキャラクターものの雑貨も使うし、ぬいぐるみやガチャガチャの景品も飾ったりする。彼女たちは「かわいい」を断念することなく、むしろ日々の労働に適応してやり過ごすための糧にしている。
冒頭、ぽこぽこ界隈の由来は動画のBGMであると述べた。水が湧いて泡立つ音。それはASMRの要素を取り入れるなど、より視聴されるために洗練されてきたショート動画のフォーマットの一つでしかないのかもしれない。けれども、もしこの泡が彼女たちの結界であるならば、そこには社会の困難に立ち向かいながら、「かわいい」を断念しない少女たちのフォークロアが立ち上がっているのかもしれない。
参考文献
大塚英志([1991]1995)『「りぼん」のふろくと乙女ちっくの時代――たそがれ時にみつけたもの』筑摩書房
橋迫瑞穂(2019)『占いをまとう少女たち――雑誌「マイバースデイ」とスピリチュアリティ』

昨今若者の間で広まる「界隈」という言葉。インターネット空間上を通して広まったこのフレーズは、いま若者たちのゆるい繋がりを表すものとして、注目を集めている。この「界隈」の誕生は、現代の文化においてどのような意味合いを持っているのだろうか。本連載「界隈民俗学」では、インターネット上の若者集団をウォッチし続けてきたメディア研究者、山内萌がさまざまな場所で生まれる「界隈」の内実を詳らかにしていく。
プロフィール

やまうちもえ メディア研究者。1992年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(学術)。単著「『性教育』としてのティーン雑誌──1980年代の『ポップティーン』における性特集の分析」『メディア研究』104号(2024)、「性的自撮りにみる「見せる主体」としての女性」『現代風俗学研究』20号(2020)。共著『メディアと若者文化』(新泉社)。