「それから」の大阪 第7回

夢の跡地「花博記念公園」の今

スズキナオ
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あの「フォトカプセル」は今どうなっているのか

改めて、今度は週末に花博記念公園に行ってみることにした。天気のいい土曜日ということもあって、先日とは打って変わって園内は多くの人で賑わっていた。

かつてパビリオンが建ち並んでいたエリアも今は広い芝生となっている(2021年2月撮影)

前回訪れた時は休館日だった植物園「咲くやこの花館」も営業しており、博覧会の目玉だった「ラフレシア」の標本、1990年から生き続けている「キソウテンガイ」という砂漠の植物など、当時から変わらぬままのものもちらほらと存在した。

1990年当時から今も営業を続ける植物園「咲くやこの花館」(2021年2月撮影)

長生きの植物として有名な「キソウテンガイ」。博覧会当時から生き続けている(2021年2月撮影)

植物園の外に出て再び園内を歩く。博覧会の華やかさはすっかり消えてしまっても、今はまた違った形で親しまれている様子が伝わってくる。若い人々、高齢者たち、家族連れも一人で歩いている人もいて、様々な層の人々が好き好きにふるまえるような場になっているようだ。公園の近くに住んでいる友人は「鶴見緑地はワニを散歩させてるおじさんがいたり、ハトを思いのままに操れるおじさんがいたり、面白い人がいっぱいいるから子どもと散歩していて楽しいんです」と言っていた。

いかに設備が古びようと、そんなことは関係なく、居心地のいい広場さえあれば人がそこを行き交い、憩いの場が生まれるのかもしれない。

博覧会のマスコット「花ずきん」ちゃんはマンホールの蓋に残っている(2021年2月撮影)

その花博記念公園鶴見緑地だが、実は今、大きな転機を迎えている。大阪市は、老朽化の進む施設が放置されているこの公園を改めて民間業者の手にゆだね、リニューアルを図ろうとしているのだ。指定管理者の選定はすでに終わっており、2021年4月から園内の施設が順次新しくなっていく予定だという。昨年末に閉店したレストハウスも建て替えられ、園内にカフェが建設されるとのこと。

民間企業の手にゆだねて活性化・収益化を図るという前例としては、大阪城公園や天王寺公園の「てんしば」と呼ばれる芝生スペースがある。何もない広場だった場所に子供向けの屋内型の遊戯施設が作られたり、真新しい飲食店が立ち並ぶことによって新しい人の流れが生まれる一方、無料で過ごせる場所が減り、公園としての居心地のよさが失われることへの批判も多い。

大阪城公園の活性化を図るために2017年に開業した商業施設「ジョーテラスオオサカ」(2021年2月撮影)

博覧会のシンボルだった「いのちの塔」も撤去されることが決まっている。「いのちの塔」にはかつて「フォトカプセル」というサービスが用意されていた。塔に訪れた人が専用の端末で写真を撮影し、その写真とともに自由なメッセージを登録することができるというものだ。写真とメッセージを登録すると専用カードがもらえて、そのカードを使えばいつでも写真とメッセージを呼び出すことができるというのがウリだった。博覧会開催当時のガイドブックにはこのように書かれている。

“登録されたメッセージと写真は光ディスクに永久保存され、会員カード一枚で塔内のテレビモニター画面にいつでも呼び出すことができる。彼らが大きくなって「いのちの塔」へデート、恋人と1990年のメッセージを見ることがあるかもしれない 『EXPO’90 国際花と緑の博覧会公式ガイドブック(国際花と緑の博覧会協会発行)』”

「いのちの塔」に登ったことがある友人が提供してくれた画像。2台並んでいるのが「フォトカプセル」の端末だ(2010年3月撮影)

同じく友人が提供してくれた「いのちの塔」展望台の内部の写真(2010年3月撮影)

塔が閉鎖され、じきに撤去されることが決まった今、永久保存されるはずだった写真とメッセージはどこへ行ったのだろう。調べてみると、園内にある「水の館ホール」の事務所に端末が移設され、そこで閲覧を受け付けているのだという。

歩き回って探してみると、関係者以外立ち入ることのなさそうな事務室の片隅にひっそりと「いのちの塔 会員フォトカプセル」と書かれた端末が残っていた。

今は一台が残るだけとなった「フォトカプセル」の端末(2021年2月撮影)

本来であれば会員カードを持っていなければ閲覧はできないのだが、さすがに数十年前(写真とメッセージの保存は2010年までは受け付けていたらしい)のカードを保管している人は少なくて、生年月日と名前さえ証明できれば係員がデータベースを照会してくれるという。

端末には写真とメッセージをプリントアウトしてくれるサービスが備わっていたのだが、すでに印刷機能は故障しており、モニターに映し出された画像をスマートフォンで撮影していく人が多いのだとか。

花博記念公園鶴見緑地の風景はここ数年でどんどん変わっていくのだろう。新しい施設ができて、今とは違った賑わいが生まれるのかもしれない。そしてその賑わいもまたいつかは過去のものになる。30年前に「永久保存」と約束された思い出が園の片隅に追いやられてしまったように、人はきっと移り気なのだ。

(つづく)

 

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2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

 
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