大方の予想通り、立憲民主党も消費税減税派に加わった。かつての民主党政権に関与していない議員を中心に、消費税減税を主張する議員の声が党を制する勢いになったからだろう。
夏の参院選が近づくにつれ、与党・自民党も浮足立ってきた。一部の世論調査では自民党大敗が予想される事態にもなっている。気が気ではない参院自民党は、背に腹は代えられないと減税を主張する声が急激に高まっている。この豪流を放置すれば、石破政権の継続はほぼなくなると言ってよい。従って現政権は否応なく国民を納得させる税制の大改革案を示さざるをえなってくる。
立憲は民主党政権の総括を
「私は『社会保障と税の一体改革』を推進したザ・当事者、最高責任者だ」(4月26日付朝日新聞)
野田佳彦・立憲民主党代表は、そう大見栄を切って、消費税減税反対から1年間の「食料品ゼロ%」に主張を変えて、党の方針として採択した。野田氏は“財務規律”の旗を掲げ、常に財務省と歩みを共にしているように見えたので、この方針転換の背景には財務省の譲歩があったと見られよう。
最近の世論は、経済財政政策への不信を政治にぶつけるばかりではなく、直接財務省に向かってデモなどの抗議行動を展開するようになった。この傾向も一時的なものではなく、これからさらにより強くなるだろう。
故・宮澤喜一首相は私に「増税はアナウンスするだけでも足元の景気を冷やす」と言ったことがある。1993年の細川護熙政権のときであった。当時の大蔵省が、絶大な人気の細川政権で大増税を意図したとき、宮澤元首相は血相を変えて細川首相や私にそう迫った。
野田氏は記者会見で、政策変更の理由として「トランプ政権の関税措置による『国難』を方針転換の理由に掲げた」(4月26日付毎日新聞)
しかし、そんなことは消費税減税が声高に叫ばれるようになるずっと前から分かっていたことだ。それよりも国民はいまだに民主党政権に対する深い失望感と怒りを持ち続けている。
かつての民主党政権は、2009年の総選挙で9.1兆円の税金の無駄使いを無くすとマニフェストで公約したにもかかわらず、それをないがしろにして熟議もなく消費税10%への増税に走った。そして党は分裂し、総選挙で大敗して多くの人材を失った。まず、それについての総括をし、支持者に反省、お詫びをし、主要な当事者の責任追及をするのが当然の手順だろう。
「民主党と立憲民主党は違う」という野田氏の弁明には世論は耳を貸さない。かつて故・安倍晋三元首相は「悪夢のような民主党政権」と揶揄したが、国民、特に当時の民主党の熱心な支持者にはいまだに生々しく無責任な対応が記憶されている。
ふり返ると、2012年から13年にかけての、いわゆる三位一体改革は時期的に問題であった。リーマンショック以後の経済停滞は、やはり13年に決めた消費税の5%から10%への段階的な値上げの影響が大きい。
リーマンショックは12年の夏には、引き金となったアメリカの住宅産業が息を吹き返し、アメリカの景気回復の兆しが報告されていた。そして、わが国の経済にも秋口にはほのかな明るさが見えてきたと記憶している。消費税率を2倍にする税制改革は、景気の回復過程に重い荷物を背負わせることになってしまった。
さて、消費税の減税をするなら、その財源を示せという声が強まっている。当然のことだ。これは特に財政当局からの声であろう。かねてから私は、税制の大改革のときは、「ムダ使いを無くす」冗費の節減のための行政改革のチャンスであると心得ている。
必要性が低下した部局・外郭団体の廃止や縮小、そして「削減額を決めて臨む補助金の整理」を断行してほしい。もちろん行政が身を削ることは行政にはできない。それこそ政治の出番であろう。旧民主党系の人たちは、かつての9.1兆円の冗費削減をもう一度まな板の上に持ち出してほしい。削るべきは何か、残すべきは何か、現在の苦境はそれを明確にする絶好の機会と受け取るべきだろう。
さらに、消費税を社会保障のための目的税と位置づけるなら、それを明確な目的税として特別会計処理をすべきだろう。社会保障と言えば国民は沈黙するという段階はとうに過ぎているからだ。

裏金、世襲、官僚機構の腐敗・暴走…政治と行政の劣化が止まらない。 この原因は1990年代に行われた「政治改革」と「省庁再編」にある。 その両方の改革を内部から見てきた元衆議院議員の田中秀征が、当時の舞台裏を解説しながら、何が間違っていたのかを斬りつつ、 今、何を為すべきなのかを提言していく。
プロフィール

(たなか しゅうせい)
1940年、長野県生まれ。東京大学文学部西洋史学科、北海道大学法学部卒業。83年に衆議院議員初当選。1993年6月に新党さきがけを結成し代表代行、細川護熙政権の首相特別補佐、第1次橋本龍太郎内閣で経済企画庁長官などを務める。福山大学経済学部教授を経て現在、客員教授、石橋湛山記念財団理事、「さきがけ塾」塾長。
著書に『石橋湛山を語る』(佐高信氏との共著、集英社新書)『自民党本流と保守本流』(講談社)『新装復刻 自民党解体論』『小選挙区制の弊害』(旬報社)『平成史への証言』(朝日新聞出版)など。