対談

「意味」をつくる仕事とは何か【第1回】

対談 佐藤可士和×山口周

佐藤可士和×山口周
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ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)で、サイエンスを偏重した経営の弱点について鮮やかに論考した戦略コンサルタント、山口周氏。山口氏は、世の中が高速変化を遂げる時代は「アート」「サイエンス」「クラフト」のバランスが成功に必須と説く。その筆頭を行くのが、クリエイティブディレクターとして、ユニクロ、楽天グループ、今治タオルなど、さまざまな領域のブランド戦略を成功に導き、このほど『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』(集英社新書)を上梓した佐藤可士和氏。モノ、情報が飽和する時代に、いかに世の中に訴える「意味」と「価値」をつくり出していくか。先端を行く二人が縦横に語り合う。

構成・清野由美 撮影・HAL KUZUYA

佐藤可士和氏、山口周氏

 

問題「解決」力とは、問題「設定」力である

佐藤 今日は山口さんとお話できることを楽しみにしていました。

山口 僕の方こそ楽しみにしておりました。僕はこれまでいろいろな会社を渡り歩いてきましたが、新卒で入社したのが電通だったんです。若い時期に、白土謙二さんや佐藤卓さんら大先輩のクリエイターが、クライアントの問題を鮮やかに解決する姿を目の当たりにして、そのシャープな頭の使い方と、問題解決の力に衝撃を受けました。その時に、問題「解決」力とはすなわち、問題「設定」力のことだ、と認識することができたんですね。

佐藤 僕の本でもまさしく「①課題」→「②コンセプト」→「③ソリューション」の三つのステップで、解決の道筋を表しています。三つのステップはシンプルですが、実は最初の「課題」を設定することが、とても難しいんです。

山口 つまり、それは全体の構造を理解する力ですよね。問題解決においては、課題とソリューションが一対にならないと、価値が生まれませんが、広告業界をはじめ多くの業界がソリューションから入ってしまうことに慣れ切ってしまっている。そこが第一の課題だと思います。

佐藤 広告でいうなら「タレントの〇〇さんでテレビCMをつくる」みたいにね。でも、その前提にある、「解決したい課題は何なのか」という出発点は、僕自身、新卒で博報堂に入社した時から、すごく気になっていました。

山口 その視点こそが、デザイナーの持つ本来的な強さなんだと思います。デザイナーは課題に対して、ロジカルな方法論で攻め込むのではなく、構造をとらえて、全体を「デザイン」し直すことで解決しようとします。その意味で、下手な戦略コンサルタントよりも、よほど事業センスがある。僕自身、ほかならぬ戦略コンサルタントを務めていますが、今の日本はだぶついた資金はある、テクノロジーはある、人もいる、けれども戦略のアイデアが足りていない、という状態です。可士和さんが本で書かれたように、「デザイン」を広義にとらえて、その力を最大限に生かすことが、日本復活の最大のポイントだと考えています。

佐藤 「デザイン」が持つパワーを、グラフィックや建築など二次元、三次元の意匠だけに留めておくのは、あまりにももったいない。思考や戦略など抽象的なものに適用していく発想は、僕の興味の出発点がアートだったからだと思います。子どものころから絵が好きで、現代美術にもハマっていました。アートって、そもそもが世の中に対する新しい価値観の提示、価値の転換がテーマじゃないですか。

山口 その通りですね。可士和さんは多摩美術大学では何を専攻されたのですか。

佐藤 グラフィックデザインです。なぜかというと、当時は高校生ながらに、ファインアートよりもデザインの方が、社会の中でビビッドに機能している、と感じていたからです。卒業後の進路に広告界を選んだのも、その時代は広告こそが、リアルな世界の中でのアートとしての存在になっていると、勝手に解釈したからなんです。「現代美術」を超えた「現実美術」というか、社会をキャンバスに見立てて、クリエイティブな活動をしていきたいと思ったんですね。

山口 そのお気持ちはよく分かります。僕は職業を選ぶ時に、自分が夢中になれるものって何だろうと考えた。その時に、人が夢中になれることは、「芸術・クリエイション」「スポーツ」「アカデミックな研究」「ビジネス」の四領域だ、という風に整理ができたんです。この四つの要素が全部入っている会社が、僕にとっては広告会社でした。ただ、実際に入ってみると、営業から「ソリューションをすぐ出して」という圧力を受け続ける毎日で(笑)。

佐藤 営業は営業で、クライアントから日々、同じ圧力をかけられているわけですからね。

山口 最近は例のビッグデータ流行りで、どういう課題を解決したいのか、というよりも、目の前のクリックレートが下がったとか上がったとか、そういう数字の圧力が、どんどん上がる風潮になっています。たとえばデザイナーやコピーライターが一晩かけて一生懸命考えました、というデザイン案やコピー案は、AIにパターン学習させれば、それこそ一秒で何万本も出てくるようになる。クリエイティブの世界も、そっちの方向になびいていくと思います。

佐藤 ただ、経営戦略やブランディングなど、企業経営の根幹のところは、サンプル数がすごく少ない中での意志決定じゃないですか。ですから逆に、ビッグデータにならない部分でソリューションを編み出していくことが、これからはもっと重要になってくる、と僕は考えているのですが。

山口 となると、やはり課題設定の力ですよね。ソリューションはパターン化が可能なので、ビッグデータがあれば、ある程度はできるでしょう。しかし、課題のフレームを変えるというのは難しい。「この問いは、そもそも正しいのか」というメタ認知は、AIにはできませんから。

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プロフィール

佐藤可士和×山口周

佐藤可士和(さとう・かしわ)

クリエイティブディレクター。「SAMURAI」代表。1965年東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、博報堂を経て2000年に独立。慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。多摩美術大学客員教授。ベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。2019年4月に集英社新書より、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶應SFC)における人気授業をまとめた『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』を上梓。

 

山口周(やまぐち・しゅう)

戦略コンサルタント。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーンフェリーなどを経て、現在はフリーランス。著書に『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『世界の「エリート」はなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『劣化するオッサン社会の処方箋』『仕事選びのアートとサイエンス 不確実な時代の天職探し』(以上、光文社新書)など。

 
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