対談

「意味」をつくる仕事とは何か【第1回】

対談 佐藤可士和×山口周

佐藤可士和×山口周

「普通はこうでしょう?」という感覚の重要性

山口 『世界が変わる「視点」の見つけ方』には共感するところが多いのですが、もう一つ、僕の考えに近いことが、マクロで抽象度の高い課題ほど自分の身近に一回引き寄せて考える、というところでした。うれしかった時、悲しかった時の感情や身体の感覚など、誰もが持つ当たり前のことを、対象となるブランドや商品に反映させて、言葉にしていく。その重要性をおっしゃっていますよね。ブランディングとか、戦略ロジックとかいうと、どうしても専門家は、とがったロジックを頼りがちになるのですが、それは本当に大事なものではないと、可士和さんはおっしゃっていました。そのことも、ビッグデータ信仰とは真逆ですよね。

佐藤 やっぱり人間は、何だかんだいっても、結局、身体感覚に頼って判断しているのではないかと思っているんです。身体感覚といってもいろいろあって、視覚も触覚も聴覚も、それから記憶も、勘も、みんな含めてのものです。美しいとか、おいしいとかいう判断も、人はロジックではなくて、身体感覚で行っているはずですよね。そこを忘れちゃいけないな、ということは、ずっと僕の中にあります。ところが仕事の席では、人間の野性的な部分を、みな、いわなくなる。そういう動物的な基準をいうと、頭を使って仕事をしている感じが出ないからなんでしょうかね。

山口 ちかごろのビジネス界では、リベラルアーツ(人文科学的な教養)の重要性も再認識されていますよね。可士和さんが「普通はこう思いますよね」と、周囲を説得するというお話は、リベラルアーツにもつながるものだと思います。それはつまり、コモンセンスのことですよね。

佐藤 はい、人類に共通の感覚ということですね。

山口 その意味で、日本は「当たり前」がなくなっちゃっている社会なのかな、という感じを持ちます。社会が洗練され、豊かになるにつれ、人の判断がコモンセンスから遊離して、業界のルールとか、数値的分析とか、それまでの勝ちパターンみたいなものにどんどん引きずられて、その結果、日本社会全体が弱くなっちゃっているかな、と。

佐藤 イノベーションがなかなか生まれないことや、経済が停滞していることが端的にそうですが、ほかにもパワハラやモラハラ、セクハラなど、今、日本社会で問題になっていることって、山口さんがおっしゃったコモンセンス――「普通はこうでしょう?」という感覚を外したところから始まっていますよね。本来は子どもでも分かることなのに、業界のルールに染まってしまうと、そこが一気に見えなくなって、問題が大きく噴出してしまう。企業社会だけでなく、教育も、スポーツも、本来のシンプルなことが見えなくなっているんですよね。

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プロフィール

佐藤可士和×山口周

佐藤可士和(さとう・かしわ)

クリエイティブディレクター。「SAMURAI」代表。1965年東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、博報堂を経て2000年に独立。慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。多摩美術大学客員教授。ベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。2019年4月に集英社新書より、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶應SFC)における人気授業をまとめた『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』を上梓。

 

山口周(やまぐち・しゅう)

戦略コンサルタント。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーンフェリーなどを経て、現在はフリーランス。著書に『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『世界の「エリート」はなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『劣化するオッサン社会の処方箋』『仕事選びのアートとサイエンス 不確実な時代の天職探し』(以上、光文社新書)など。

 
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