対談

「意味をつくる」仕事とは何か【第3回】

対談 佐藤可士和×山口周

佐藤可士和×山口周
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『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』(集英社新書)を上梓した佐藤可士和氏と、戦略コンサルタント・山口周氏の特別対談、最終回。アート、AI、宇宙、バーチャル世界を経由して、2人が辿り着いたビジネスの未来、「会社」の未来の姿とは?

構成・清野由美 撮影・HAL KUZUYA

山口周氏、佐藤可士和氏

キーワードは「意味の枯渇」

佐藤 AIを筆頭に、世の中のパラダイムがどんどん変わっていく時代に、人間とは何か?という根本的な問いも出てきます。だからこそ、人間のナマの感覚と向き合うことが、より大事になると僕は思っています。一方で、変化のスピードが速すぎて、怖い時代に突入しているな、と危機感も持ちますね。

山口 哲学史には、カール・ヒルティ(1833-1909)、アラン(1868-1951)、バートランド・ラッセル(1872-1970)による「三大幸福論」といわれる本があります。面白いのは、彼らはみなヨーロッパ人で、別々の場所にいながら、19世紀末から20世紀初頭の40年という間に、それぞれ人間の幸福について深く論考しているんです。

佐藤 ヨーロッパに産業革命が起こったタイミングですね。まさにIT革命が起こった僕らの同時代に似ています。

山口 ヒルティはスイス、アランはフランス、ラッセルはイギリス人ですが、なぜ、あの時期にヨーロッパで幸福論が書かれたかというと、産業革命が起こり、近代社会が成立して、人々が差し当たって今日を生きるのに、あまり不安のない世の中になったからなんです。食べ物がある、夜にちゃんと眠れる、冬に暖かく過ごせるというように、それ以前の時代から比べると、物質的な不自由が社会全般で、かなり解消された状態にあったわけです。

佐藤 となると、みんなが、「ああ、これで幸せになれる」と思うはずですよね。

山口 そうなるはずだったのですが、物質的に不満がない状態になったら、ノイローゼがすごく流行ったんです。特に貴族階級の間ではそれが顕著で、何不自由ない環境の人から、順に心を病んでいった。それで、幸福の定義というものをもう一度、ガラガラポンで考え直す必要が出てきたわけです。

佐藤 豊かで平和な日本でも、今、メンタルの問題は大きくクローズアップされていますね。

山口 昭和時代に冷蔵庫、洗濯機、テレビが「三種の神器」といわれて、みんながあこがれましたよね。でも、平成から令和になった今、そのような物質的なものに対する渇望はもうなくなっている。しかも異性との出会いまでもがバーチャルで事足りるようになってきて、物質欲だけでなく、生きる上でのさまざまな欲望が希薄化されています。

佐藤 最近の学生に「欲しい車は何?」と聞いても、「いや、車、欲しくないです」って淡々としていますからね。僕の学生時代とは全然違っています。

山口 そんな目標なき時代を、僕は「意味の枯渇」というキーワードでとらえています。生きる意味、仕事をする意味、その基盤となるコミュニティや会社の意味など、それまで信じられていたさまざまな「意味」が揺らいでいるんです。

佐藤 意味の枯渇。本当にそうですね。「働き方改革」も時間的、物理的な規制を云々する前に、「働く意味」まで遡る必要があるかもしれません。

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プロフィール

佐藤可士和×山口周

佐藤可士和(さとう・かしわ)

クリエイティブディレクター。「SAMURAI」代表。1965年東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、博報堂を経て2000年に独立。慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。多摩美術大学客員教授。ベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。2019年4月に集英社新書より、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶應SFC)における人気授業をまとめた『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』を上梓。

 

山口周(やまぐち・しゅう)

戦略コンサルタント。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーンフェリーなどを経て、現在はフリーランス。著書に『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『世界の「エリート」はなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『劣化するオッサン社会の処方箋』『仕事選びのアートとサイエンス 不確実な時代の天職探し』(以上、光文社新書)など。

 
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