対談

「意味をつくる」仕事とは何か【第3回】

対談 佐藤可士和×山口周

佐藤可士和×山口周

AIがつくる曲には、終わりがない

山口 僕の専門である組織論の枠組みからいいますと、経営のリソースには「人」「モノ」「金」の三つがあります。あるプロジェクトにそれらのリソースを投入する場合、「モノ」と「金」は、その量を変えることはありませんが、「人」は働く意味を与えた場合に、ものすごくモチベーションを上げて、プロジェクトに量的な貢献をする。つまり「人」は唯一、可変性があるリソースなんです。

佐藤 なるほど、面白いですね。

山口 現代の日本は、経済の成長が停滞し、生産年齢人口の減少が進んでいます。そのように経営資源が限られている中で、最大の成果を出すためには、「人」に意味を与えることが極めて重要になります。実際、仕事に意味を与えて、「人」のモチベーションを引き出すことができれば、結果はすごく変わってくるんです。これからの時代は、「意味をつくれる人」「見えなかった価値に光を当てる人」が、錬金術師のように社会から求められていくはずです。

佐藤 僕のようなクリエイティブディレクターが日々考えている「コンセプト」というのは、まさに意味を発見することです。金脈のようなコンセプトを、いかに見つけるか、という話ですからね。

山口 音楽に引き付けていうと、たとえばビートルズの「イエスタディ」のようなメロディは金脈の一つで、世界中の人に愛好され、その後何十年にもわたって、さまざまな展開が続いています。

佐藤 そういう黄金のパターンって、AIにつくれるのでしょうか。

山口 AIに音楽をつくらせる研究は、現在、それなりに進められていますね。AIに音楽を聞かせて、波形パターンをディープラーニングさせるのですが、ただ、音楽のジャンルを混ぜて聞かせると、やっぱりおかしくなってしまうそうです。たとえばロマン派の音楽だったらショパンだけを学習させる。そこにビートルズを入れてはいけない。

佐藤 そうすると、ショパンっぽい音楽ができてくるんですか。

山口 それらしい曲は出てくるんです。ただ、最初の15秒は確かにショパンっぽいな、という感じなのですが、30秒たち、45秒たち、となると、「これ、人間がつくってないな」ということが分かってくるんです。

佐藤 へえ、面白いな。それはなぜなんですか。

山口 ショパンの音楽と決定的に違うのが、終わりがない、というところなんです。音楽がどこに行こうとしているのか、よく分からないんですよ。

佐藤 ああ、すごく示唆的な話ですね。

山口 僕は若いころに作曲も勉強していたのですが、作曲においては、「音楽をどう終止させるか」ということは大きな課題なんです。音楽が一つの生命体だとすると、最後にそれをいかに「死なせるか」。それこそが作曲家の個性になる。

佐藤 AIにも曲を終わらせることはできるんですか。

山口 それはできるんです。たとえば「2分の曲をつくれ」とオーダーすればいいのです。ただ、そうすると、2分でいきなり終わる曲ができてくる。ただし、音楽が持つ「終わる感じ」というものは、そこにはありません。

佐藤 僕が勉強した絵画でいうと、筆の置きどきというか、やめどきのことですね。絵も描いているときりがないので、つい描き過ぎてだめにしちゃうことが起こるんです。

山口 なるほど。筆の置きどきは、どうやって見きわめるんですか。

佐藤 それがね、まったくロジカルには教えられてないんです、美大でも。「これは描き過ぎているよ」ということは先生からいわれるのですが、じゃあ、どこでやめればいいのかは、いわれない。自分の感覚で決めるしかないんです。

山口 つまり筆の置き方が、画家の個性になるんですね。

佐藤 はい、その人の持ち味になります。完璧の一歩手前でやめて、「これがシブいんだよね」という人もいるし、そこをわざと超えて、過剰な表現をしたい人もいる。いずれにしても、通念的なバランスをいかに崩しているか、というところで個性が出るわけです。

山口 そこはまったく音楽と同じですね。

佐藤 たとえば花瓶みたいなものが世の中になかった時は、「花を生ける何か」を生み出した時が、ものづくりのゴールになりえたでしょう。でも、それが大量生産の流れに乗ると、今度は花瓶に違う価値が必要になる。

山口 この対談の第2回で可士和さんがいわれていたマルセル・デュシャンの表現は、そういうことですよね。

佐藤 ただの便器を美術館に展示することによって、便器にアートという別の価値を与えた。ものすごいイノベーションです。

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プロフィール

佐藤可士和×山口周

佐藤可士和(さとう・かしわ)

クリエイティブディレクター。「SAMURAI」代表。1965年東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、博報堂を経て2000年に独立。慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。多摩美術大学客員教授。ベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。2019年4月に集英社新書より、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶應SFC)における人気授業をまとめた『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』を上梓。

 

山口周(やまぐち・しゅう)

戦略コンサルタント。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーンフェリーなどを経て、現在はフリーランス。著書に『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『世界の「エリート」はなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『劣化するオッサン社会の処方箋』『仕事選びのアートとサイエンス 不確実な時代の天職探し』(以上、光文社新書)など。

 
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