対談

1億人が集まるインドの奇祭「クンブメーラ」奮戦記

名越啓介×辛酸なめ子対談

名越啓介×辛酸なめ子
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──観光客が少ないことも孤独感の理由なんでしょうか?

辛酸:クンブメーラってものすごい規模なのに、リオのカーニバルみたいに知られていないんですよね。公式サイトもあるけど、観光客にあまり親切じゃない。

名越:あのパンフレットが物語っています(笑)。

辛酸:観光客を見ないのも、いろんなハードルが高すぎるからかもしれません。アメリカのバーニングマン(※3)とかのほうが、まだ行きやすいですね、情報がしっかりアナウンスされている分。パンフレットに「歩くのが全然苦にならない健康な男性だと、テントを探すのに6時間かかりますよ」とか書いて欲しい。私の場合は、テントは用意されていたので大丈夫だったんですが、空港から会場までバスで8時間くらいかかったので、そういう情報とかも入れて欲しい。

(※3)バーニングマン……アメリカ北西部の砂漠で年に一度開催されるイベント。ゼロから町が作られ、音楽やアートパフォーマンスが一週間行われる。

 

名越:でも、辛酸さんのようにクンブメーラに2回も行っている人はあまり聞いたことないですね。だいたい一度で懲りたりする人が多い印象です。

辛酸:確かにそうですね。クンブメーラに行くときって覚悟しかないというか、普通の旅行の前のうきうき感とかはまったくないんですよね。「生きて帰ってこられるといいな」みたいな。

名越:また行きたいと思いますか?

辛酸:帰国してしばらくは「もういいかな」と思うんですが、1~2ヵ月ぐらい経つと、次は3年後かな、みたいに意識し出す感じですかね。名越さんはどうですか?

名越:僕も、今のところはまだ……。

──それでもまた行きたくなるというのは、なぜ?

辛酸:魂のために行くんだという感じですかね。修行みたいな。

名越:そうですね。僕の場合も、クンブメーラを撮るために行くというより修行をしに行く感じです。ぶつかるというか……やっぱり修行だな。

辛酸:命の危険が何回かあり続けて、それを乗り越えたみたいな達成感があるんですよね。

 

山車の行列に群がる巡礼者たち。砂埃が舞って、視界は常に白っぽい。

早朝、マリーゴールドを流して祈りを捧げる火葬場の風景。

 

──ほかにもインド特有の、何か惹かれるものがあるのでしょうか?

辛酸:そうですね。空海とかお坊さんが好きなので、そういう展示に行くとやっぱり日本のお坊さんってインドに行きたがっていた人が多いみたいで。『西遊記』で三蔵法師が目指した天竺(てんじく)もインドのことですしね。

 昔の日本人が憧れた神様がいるかもしれない場所、ということに惹かれる部分もあるのかもしれません。クンブメーラに関しては、普段山にこもっているかもれしない聖者が下りてくるという、インド全体の話とはまた違うんですが、あの会場はこの世のものじゃないというか、別の次元に行ったみたいな感覚になる。そういうのは楽しいですよね。

名越:僕もインドに惹かれてしまう部分はいつも考えるんですが、よく分からなくて。行けば行くほど分からなくなるから。ただ、何か恋しくなってしまうんですよ。肌と肌が触れ合う感じというか。そういうのは意外と、あのときは嫌だったけれども、少し経つともう一回味わいたいなと思う。

辛酸:インドって、大地のエネルギーを直に感じられるんですよね。火とか水とか土とか、そういう元素的なものを吸収できる感じがして。サドゥに関しては、火や水に対する恐怖というのをみんな乗り越えている感じがします。目の前でバーッと火が燃えたり、沐浴で頭まで浸かったり、人間の持つ本能的な恐怖を超えた存在ということに憧れます。

 私たちの先祖も、原始時代はこうやって自然のエネルギーを取り込んでいたのかもしれないな、とか想像することも、クンブメーラが教えてくれる楽しみのひとつなのかもしれません。

 

取材/文・鴨居理子 撮影・名越啓介、山口康仁(対談シーン)

 

*『バガボンド インド・クンブメーラ 聖者の疾走』(イースト・プレス)は全国書店他、主要電子書店で好評発売中です。

 

 

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バガボンド インド・クンブメーラ 聖者の疾走

プロフィール

名越啓介×辛酸なめ子

名越啓介:1977年、奈良県生まれ。大阪芸術大学卒業。19歳で単身渡米し、スクワッター(不法占拠者)と共同生活をしながら撮影活動を続け、その後、アジア各国をめぐり『EXCUSE ME』で写真家デビュー。主な作品に『SMOKEY MOUNTAIN』(赤々舎)、『CHICANO』(東京キララ社)、『Familia保見団地』(世界文化社、藤野眞功氏との共著)、『笑う避難所 石巻・明友館136人の記録』(集英社新書、頓所直人氏との共著)など。

 

辛酸なめ子:1974年、東京都生まれ。女子学院中・高を経て、武蔵野美術大学短期大学部に入学。1994年、渋谷パルコのフリーペーパー『GOMES』漫画グランプリでGOMES賞を受賞し、これをきっかけに雑誌などに連載を始める。主な著書に『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか』(PHP研究所)、『魂活道場』(学研プラス)、『おしゃ修行』(双葉社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)、『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社)など。 

 

 
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