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日々、動物の生死と直面する作家が考えた「殺生の意味」──羊飼いの作家、河﨑秋子氏インタビュー【第1回】

河﨑秋子・作家

河﨑秋子
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別海町。地名からして、隔絶感が漂う。最寄りの北海道・中標津空港まで、東京からは1日1便だけ。人口は約1万5千人、生乳生産量日本一を誇る酪農と、漁業の町だ。そんな土地に三浦綾子文学賞を受賞した作家、河﨑秋子は住んでいる。受賞作『颶風の王』は、馬と6世代に亘る家族の関係を描いた巨編。遭難の末に愛馬と食い食われる関係を結ぶ描写など、著者が生死へと向ける眼差しのただならなさが感じられる。
自宅から、近所と呼べる他人の家は、約800メートルも離れている。映画鑑賞や大きな買い物の際は、車で2時間程度の釧路まで行くそうだが、道内第5位の人口を持つ釧路も近年は過疎化が著しく、寂れた印象は免れない。
河﨑が差し出した名刺は、家族で経営している「有限会社 河﨑牧場」のもの。左下には、顔と足が黒いサフォークと呼ばれる種類の羊のイラストが描かれていた。河﨑は、おそらく日本で唯一の「羊飼い兼作家」である。
 
都会は映画館があるのがうらやましい

──昔は、率直なところ、都会暮らしへの憧れはありましたか。

ありましたね。今もありますけど。都会は、文化を享受しやすいというのがいいですよね。大きな図書館があって、本屋さんもたくさんあって、あとは芸術関係の展覧会なども頻繁に開催されている。個人的には、映画館があるのがうらやましい。このあいだも、『グレイテスト・ショーマン』を観たくて、わざわざ釧路まで観に行っちゃいました。舞台も好きなんですけど、それは田舎ではどうしようもないですから。

──これまで、都会で生活したと言えば、大学時代(北海学園大)の札幌になるわけですか。

大学時代ですね。四六時中、車の音がしていたり、「最近、緑を見てないな」みたいな落ち着かない感じはありましたけど、都会には都会のよさがあるので、それを享受していたという感じです。

──河﨑さんがこれまでお書きになった小説では殺生の問題といいますか、人間が、人間以外の命と間近で向き合っているという、人間が生きる上での根源的な問題が提起されていると感じます。それは、別海という町で、このような生活をしていることとは切り離せないのでしょうか。

……そうですね。こういう田舎で、動物の乳や肉をとることを商売にしていることは、やはり切っても切りはなせないかと思います。特に自覚して小説に反映している訳ではないですけどね。ただ、やはり多角的な視点を意識するのは大事なので、都会の人が田舎に見出すものや、逆に田舎の人だから見つけられる都会の特性もあるかなと思います。今は、都会で暮らしてみたら、また違うものが書けるかなという感じもあります。大学時代、都会で暮らしていなかったら、今、気づいていなかっただろうなということもかなりありましたから。その逆で、今、都会で暮らすからこそ、見えてくるものもあると思うんです。

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プロフィール

河﨑秋子

羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊を飼育・出荷。2012年『北夷風人』北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。2014年『颶風の王』三浦綾子文学賞受賞。翌年7月『颶風の王』株式会社KADOKAWAより単行本刊行(2015年度JRA賞馬事文化賞受賞)。最新刊に『肉弾』(KADOKAWA)。

 
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