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日々、動物の生死と直面する作家が考えた「殺生の意味」──羊飼いの作家、河﨑秋子氏インタビュー【第1回】

河﨑秋子・作家

河﨑秋子
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国産羊肉との衝撃的な出会い

──大学生のときに食べた羊のおいしさに感激し、羊飼いになったそうですね。

食べることの好きな知り合いが周りにけっこういたので、肉に限らず、いろんなものを食べていました。そのうちの一人が、私がのちに師匠と仰ぐことになる方が生産した羊の肉を取り寄せて、自宅の庭でバーベキュー大会をひらいたんです。そのとき、初めて国産の羊肉を食べたのですが、「あ、違う」と。輸入ものとは、ジューシーさがぜんぜん違うんです。国産羊肉が特別なわけではなく、単にきちんと育てられて、劣化していないということも大きいのですが。輸入ものは冷凍と解凍を繰り返しているので脂肪が酸化していたり、変な臭いがついていたりするものが多いんです。それが普通と思って食べていましたが、普通ではないことを初めて知った瞬間でした。

──今でも、国産羊肉を初めて食べたときの感動は変わりませんか。

変わりませんね。自分で育てた羊を食べると、「あ、この味だよね」と。

──作家になる前は、国産羊肉のおいしさを広めることこそが、河﨑さんの夢だったわけですね。

学生のときから小説は書いていたのですが、あまり能力がないなと思って、一度、やめて、羊の方に専念したんです。大学卒業後は1年間、ニュージーランドに留学して、羊飼いとしての技術を学びました。「河﨑牧場」の経営者はいちばん上の兄で、その兄と、兄の奥さんと、私と、私の母の4人で、家畜の世話をしています。今、羊は15頭から20頭飼育していて、本当は、もっと規模を拡大したかったのですが、私は羊の他に牛も担当しているので、実際は、現状維持が精いっぱいですね。

 

トロフィ・ハンティングは、意味がわからない

──(道を隔てて向かいにある羊の厩舎から)羊が外に出て、ぷらぷら歩いていますが、いいのでしょうか。

ええ、道との境目にロープを張ってあるので、道には出られないようになっているんです。

──このような環境で生まれ育ったら、生物の生き死には、とても身近ですよね。

酪農地帯なので「普通にあるもの」ですね。卵を食べるためにニワトリも飼っているのですが、年老いて卵を産まなくなったら、年末とかにみんなで食べます。小学生ぐらいのとき、そのニワトリの羽むしりからやらされたのですが、最初はちょっと嫌だった記憶があります。でも、まあ、慣れますからね。中学生ぐらいになったら、絞めるのも私の仕事になっていました。

──羊も解体できるのですか。

ええ、絞められるし、さばけます。日本の法律上は食肉加工場で処理してもらわないといけないのですが、海外で研修していたときは、自分でさばいていたので。うちの兄がハンターの資格を持っていて、シカを獲ってきたりするんですけど、そういうときはさばくのは私の担当です。トロフィ・ハンティングではないので、がりがりで食べるところがないとか、よっぽどひどい状態でない限り、獲ってきたら食べます。

──トロフィ・ハンティングは、はやり抵抗がありますか。

個人的には好きじゃないですね。高い金を払って、ライオンを撃つとか。意味がわからない。ゲーム・フィッシングも「えっ?」って思いますよ。釣ったら食べようよ、と。自分がつくった羊肉を残されるのも嫌ですから。

──道内でも今、野生のシカによる被害が深刻だと聞きます。獲っても、獲っても、減らないそうですね。

いや、もう、自衛隊か何かが、一気に殺処分してくれないものかと本気で思います。牛を放牧する前に、若くておいしそうな芽をガッツリ食べちゃうので、この野郎……という(笑)。もう、ツルツルにされますからね。北海道は日本の食料基地でもありますから。ときに自然を壊してまでも人間が食べる物をつくらなければならない。それが現実ですね。

(取材・構成 中村計)

【第2回】は4月30日(月)に掲載予定です。

 

 

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プロフィール

河﨑秋子

羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊を飼育・出荷。2012年『北夷風人』北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。2014年『颶風の王』三浦綾子文学賞受賞。翌年7月『颶風の王』株式会社KADOKAWAより単行本刊行(2015年度JRA賞馬事文化賞受賞)。最新刊に『肉弾』(KADOKAWA)。

 
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