対談

貧困の現在地を語ろう ~地方都市×シングルマザー~

坂爪真吾×雨宮処凛
坂爪真吾×雨宮処凛

 1月10日、下北沢の本屋B&Bにて『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』著者の坂爪真吾さんと、雨宮処凛さんのトークイベントが行われた。

 約8割が男性という会場を見渡した雨宮さんが、坂爪さんに「緊張しなくて大丈夫」と声をかけると、坂爪さんは本が生まれたいきさつを紹介。性風俗で働く女性の相談支援事業『風テラス』を2015年に始め、そこで見てきたことを基に「人口減少などで地方都市がクローズアップされる中、女性と子供の貧困を、性風俗の現場から見ていけば面白いものが書けるではないかと思った」と語った。

イベントは『性風俗シングルマザー』本文中の事例をもとに坂爪氏が作成した資料をもとに進行

 まず坂爪さんは、同書の舞台となった地方都市・S市のデリヘル事務所で出会った、26歳のAさんを紹介した。

 Aさんは母親もシングルマザーで、高校中退後に隣町のキャバクラで働いたのち、S市のキャバクラに移転。ボーイと交際して20歳で妊娠したものの、別れて未婚で産むことを決意したという。出産後はデリヘルに流れたが、知り合いだった男性と風俗で働いていることを隠して結婚する。しかし夫に性病をうつしてしまい、店を辞めざるを得なくなってしまった。また夫が原因で子どもができず、不妊治療で争い離婚している。現在は月40万円程度を、デリヘルのみで稼いでいるという状況だ。

 

 坂爪さんは彼女を「典型的な例の一つ」だと言う。雨宮さんは「20歳で妊娠出産というのは、よく聞く話。でも実家があるケースなら、ある程度安定しているのではないかと思っていた。地方都市から東京に出てきた人は地元で食べられなかったり、虐待が理由だったりすることが多い。だから地元にいればそこそこ安定しているはずだと思ったら、地方都市自体の疲弊が進んでいるとは……」と、驚きを隠せない様子だった。

 

 風俗は過去を問わないが、福祉の現場は問う

  家庭や実家がセーフティネットとして機能していないゆえに、登場する誰もが生活のために風俗で働いている。生活保護を申請した方がいいと思われるケースもあるが、皆一様に「風俗で頑張ります」と答えてしまうと坂爪さんは言う。

 

 風俗で働く理由を坂爪さんは、「過去を一切問わない、稼げばOKという風潮がある上に、高い収入が得られて他人から必要とされることで、自己肯定感も満たされることも大きい」と分析する。一方、福祉の現場では、保護を求めても担当者が水際で阻止したり、説教することもあるという。雨宮さんは、風俗で働いていた20代女性の生活保護申請に同行した際、ケースワーカーから「もう風俗をやらないと約束できる?」と言われたことを振り返った。

「生活保護は基準を満たせば無差別平等で給付されるものなのに、なぜケースワーカーに『もうしません』と約束しないと受けられないのですか? ソーシャルワークは価値判断をしないのが基本だと、以前私は坂爪さんから聞いてすごく感銘を受けました。ソーシャルワーカーは価値観をおしつけてはいけないのに、(この対応は)大間違いですよね」(雨宮さん)

 

 クズ男が多すぎる

 彼女たちは妊娠した時点で恋人を見限ったり、未婚で産むことを決意したりしている。養育費を求めることもしていない。また結婚していても、家庭内離婚状態の女性もいる。その自立心の高さに感心しつつも、雨宮さんは「クズ男が多すぎる」とバッサリ。坂爪さんも、男性が責任を取らないことが、女性が苦しむ原因になっていることを指摘した。

 雨宮さんが「地獄度が一番高い」と絶句したのは、夫の両親と同居しながらデリヘルで働き、ワンオペ育児をしているDさんだ。Dさんは19歳で妊娠・結婚し、夫の実家に入ったものの、夫に数百万円の借金があることが発覚。夫はパチンコ依存で、児童手当も全額パチンコに使ってしまう。仕事は週払いの交通誘導員で義父はアルコール依存、義母とは育児方針をめぐって対立している。「辛いけれど、子供のために離婚したくない」というDさんを見て雨宮さんは

「彼女だけがまともで、おかしい人たちに奴隷みたいに扱われている。令和の時代なのに、まれに見る昭和の地獄。子供のために逃げた方がいい」

と、怒りを露わにした。

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プロフィール

坂爪真吾

坂爪真吾(さかつめ・しんご)

1981年、新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」などで現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。著書に『はじめての不倫学』『性風俗のいびつな現場』『セックスと障害者』『セックスと超高齢社会』『「身体を売る彼女たち」の事情』など。最新刊は『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』。

 

雨宮処凛

 

雨宮処凛(あまみや・かりん)

1975年、北海道生まれ。作家・活動家。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国 雨宮処凛自伝』(太田出版、ちくま文庫所収)にてデビュー。2006年から貧困・格差の問題に取り組み『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版、ちくま文庫所収)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)受賞。著書に『「女子」という呪い』(集英社クリエイティブ)、『非正規・単身・アラフォー女性』(光文社新書)、対談集『この国の不寛容の果てに 相模原事件と私たちの時代』(大月書店)など多数。

 

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