対談

貧困の現在地を語ろう ~地方都市×シングルマザー~

坂爪真吾×雨宮処凛
坂爪真吾×雨宮処凛

 

 非難されると、助けを求めることができなくなる

 イベント中に印象的だったのは、Eさんのケースを通して二人が口にした「女性たちに『あなたの味方だ』ということを伝える大切さ」だ。

 高校中退後、18歳からキャバクラで働いていたEさんは24歳で妊娠が発覚した。相手には妊娠を告げずに別れ、病院にも1度しか行かなかった。Eさんは出産当日までキャバクラで働き続け、スマホで分娩方法を調べて、自宅で1人出産をしたという。Eさんが誰にも「助けて」と言えなかったのは、事情を根掘り葉掘り聞かれるのが嫌だったのではないか。しかし責められることも怒られることもなく「あなたの味方です」と言ってくれる人がいれば、一人で産まずに済んだかもしれない。げんに出産後、血まみれの部屋で途方にくれたEさんは、東京で妊娠相談を行っている支援団体を頼っている。その団体がS市役所の職員に連絡したことで、母子ともに病院に行くことが叶った。

「風俗の場合、ルール違反の店外デートがきっかけで妊娠してしまうことがあり、怒られるのではないかと言えない女性が多い」(坂爪)

「『ルールを逸脱しても、あなたの身体を大切にしよう』という教育が必要。でも誰にも助けを求められなかったのかは、わかるところもあって。自分も19歳から24歳までフリーターで働いていた時に、死ぬほど怒られたんです。仕事でも怒られるけど、フリーターをしてるということで『いつまでそんなダラダラしてるんだ』とか『将来のことを何も考えていない』とか、親からも親戚からも友達からも罵倒されたんです。就職氷河期が原因なのになぜか自分ばかり責められるので、あの時に予期せぬ妊娠をしていたら、絶対誰にも言えないと思いました。あまりにも非難されると、助けを求めることが全くできなくなってしまう。それが今、あらゆる人に起こってるんでしょうね。でも怒るのではなく、『あなたを責めたり非難したりしません』というメッセージが必要なのかもしれない。『解決します』ではなく『寄り添いますよ』みたいなメッセージが」(雨宮)

 

 一緒に住む相手=家族はもう限界

 彼女たちの課題を解決するにはどうしたらいいか。坂爪さんは「家族の呪いをどう解くかが大事ではないか。親の生き方しか知らないから、親の呪いから逃げられない。価値観が違う相手と生活するスキルを学ぶ教育が必要ではないか」と言う。しかし雨宮さんは「夫や義理の実家も問題だらけなら、家庭はなくてもいいのではないか。シングルマザーが子どもと生きていける社会作りが必要なのではないか」と、結婚そのものに対する疑問を呈した。

「離婚は圧倒的に女性が不利だし、養育費の取り決めやコツといったことを何も教えられていないですよね。まずはそれを教えることと、あとは家族を作らなくても生きていける社会支援が必要なのでは?」(雨宮)

「学校では卒業して正社員働くということばかりを教えていて、正社員以外の働き方を税金も含めて教わる機会がない。しかし多様な働き方があるのだから、その多様さを学ぶ場があってもいいのではないかということを、本を作ってみて気づきました」(坂爪)

 このやり取りを受けて参加者から「家族の呪いを解くために、何をしたらいいと思うか」という質問が投げかけられた。

「自分の子どもは学校以外の学童や習い事など、複数のコミュニティに所属して欲しいと思っている。そうすることで価値観が相対化できて、学校や親がすべて正しいわけではないと気づけると、呪いが解きやすくなるのではないか」(坂爪)

「私は素人の乱(高円寺のリサイクルショップを中心とした貧乏コミュニティ)の仲間と、路上鍋をよくやってるんですね。そこには月収6万円でも幸せに生きている50歳とか、ダメの達人ばかり来る。でもそういうコミュニティを持ってることが重要で、そこに行くと、ちゃんと生きようとか真面目に働こうとかいう意欲が失せて、『遊ぶために生まれてきた』と正気に戻れる。そういう場に時々行かないと、競争に勝ち抜いて人を蹴落として利益を生み出すという、社会に蔓延するものに毒されてしまいそうだから。路上で飲んで『どうでもいいや』って気持ちになることを大切にしています」(雨宮)

 と二人が答えると、それまで真剣に聞いていた人たちの表情がほころんだ。そして風俗で働く当事者女性からは、「性風俗シングルマザーは男性の問題というなら、どうであればいいのか」という質問がぶつけられた。それに対して二人は、

「男性に当事者意識がなく、結婚しても妊娠や出産には距離感がある。だからもう少し当事者意識を持って関わってほしいが、それが難しい。家族は何もしなくてもできるものではなく、コストを払って維持していかないと壊れるものだという前提を共有する場があればと思っています」(坂爪)

「この本に出てくる唯一の善人が、きちんと養育費を払っている元高校生の彼氏で。彼が持っている当たり前の責任感や人を思いやる想像力、女性が一人で子どもを育てることへの想像力、そういうものが必要なのではないか。この当たり前のことを結構な人が持っていないことが、問題だと思うんです」(雨宮)

 と、他者を思いやる想像力を持つことの大切さを語った。

「子どもの貧困も性風俗シングルマザーも『自分には関係ない』と思われがちだったり、『かわいそう』で終わってしまうことが多い。しかし個人の生き辛さは社会のひずみの問題で、決して別世界の話ではないことを伝える場としても、同書は機能している」と雨宮さんは評し、イベントを締めくくった。

 貧困と向き合いながら風俗で働く女性のことは、とても2時間では語りつくせない。そしてそれは誰にとっても、無関係な話ではない。今を生きるすべての人の想像力と共感力を問う、まさに社会課題と言えるだろう。

取材・文/玖保樹鈴  撮影/YUKAKO NOMOTO(日本の志)

 

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プロフィール

坂爪真吾

坂爪真吾(さかつめ・しんご)

1981年、新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」などで現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。著書に『はじめての不倫学』『性風俗のいびつな現場』『セックスと障害者』『セックスと超高齢社会』『「身体を売る彼女たち」の事情』など。最新刊は『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』。

 

雨宮処凛

 

雨宮処凛(あまみや・かりん)

1975年、北海道生まれ。作家・活動家。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国 雨宮処凛自伝』(太田出版、ちくま文庫所収)にてデビュー。2006年から貧困・格差の問題に取り組み『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版、ちくま文庫所収)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)受賞。著書に『「女子」という呪い』(集英社クリエイティブ)、『非正規・単身・アラフォー女性』(光文社新書)、対談集『この国の不寛容の果てに 相模原事件と私たちの時代』(大月書店)など多数。

 

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