著者インタビュー

日常的な感覚を肯定する大人の哲学

『中動態の世界』著者インタビュー
國分功一郎

本書『中動態の世界』(医学書院)は副題に「考古学」と銘打っているが、考古学書ではない。気鋭の哲学者による本格的な哲学書である。それも、大人の哲学書だ。大人の哲学だというのは、本書の描き出す「中動態の世界」は、ある程度の年齢の読者なら、なるほどと腑に落ちることもあるだろうからだ。

『中動態の世界 意志と責任の考古学』 國分功一郎著・医学書院 (撮影:伊豆倉守一)

自らの半生を振り返ってみたときに、自分の人生はすべて自分の意志で能動的に生きてきたと言える人は非常に少ないだろう。本書でも注で吉野弘の有名な詩「I was born」を挙げて論じているように、そもそも、この世に生まれてきたこと自体が自分の意志ではあり得ない。

他方、自分の人生はすべてロボットのように何かに強制された受動的なものだったと思う方も非常に少ないだろう。むしろ、現在までの日々の経験を点検してみるなら、ある時は自分の意志で、ある時は環境その他に制約されて、しかし、その他のほとんどの場合は、今にして思えば自然な流れで、そうなるようになった、としか言いようのない経験が多いことに思い当たるはずだ。

「能動と受動/スルとサレルの区別は、当たり前の区別だと僕らは思っているけれども、その区別を前提とした言語だと、たとえば“人を好きになる”という、これほど簡単なことでさえもうまく説明ができないんです。

惚れる、は能動でも受動でもないでしょう。そんなことは、僕らは日常生活でよく知っているのに、うまく言葉にならない。

そこで中動態というパースペクティブ、あるいは中動態的イメージを持ち込むことによって、僕らの日常的な感覚をきちんと肯定できるようにしたいと思って書いたのがこの本なんです」

そう説明するのは、本書の著者である哲学者・國分功一郎氏である。

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プロフィール

國分功一郎

哲学者。1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了。フランスではパリ第10大学哲学科DEA課程、社会科学高等研究院言語科学科DEA課程も修了している。『スピノザの方法』(みすず書房、2011年)により博士(学術)。高崎経済大学経済学部講師、同大学准教授を経て、2018年より東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。主著に『暇と退屈の倫理学』(太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波書店)など。『中動態の世界――意志と責任の考古学』(医学書院)により第16回小林秀雄賞および紀伊國屋じんぶん大賞2018を受賞。

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