著者インタビュー

桑田真澄 日大アメフト部事件と「スポーツの品格」

「これは、アメフトだけの問題じゃない」
桑田真澄

 小学生に「デッドボール当てろ」と指示する指導者

 ――「社会問題」になっていないだけで、似たような事例は、ほかのスポーツにもあるのでしょうか。

  野球の世界でも、同じ問題はたくさんあります。しかも、大学生よりも低い年齢で起きています。

 ――高校野球ですか。

  もっと下の世代であります。

 小学生から中学生くらいまでの野球では、投打の柱となる良い選手が2人くらいいれば強いチームになります。そんなチームを倒すために、相手の指導者は何を言うか。良くない手段を選手に教えるわけです。相手のエースが打席に立ったら「肩にデッドボール当ててこい」。足の速い打者だったら「足に当てろ」。スライディングしたときに「相手の野手の足にひっかけてこい」。相手のファーストが強打者だったら、ゴロを打って一塁ベースを駆け抜けるときに「ファーストの足を踏んでこい」。そんな指示をする指導者がいまだにいるんです。だから、アメフトだけの問題じゃない。

 今回の日大の問題を見聞きして、「報道されたのが自分でなくてよかった」と内心思っている指導者はいると思います。

 ――そういうお話を聞くと、「唯一、進化していないのが指導者の理念」という桑田さんの言葉をまざまざと思い出します。

  最近では指導者ライセンスを取得しているコーチも増えているし、指導方針を聞いていると、素晴らしい理念を持っていると感じさせる人が多い。ところが、その人がグラウンドに出ると別人になったりするんです。

 コーチというのは、本来、選手の「伴走者」でなければならないと思います。選手とともに考え、悩み、喜ぶ。選手一人ひとりのレベルや目標は違うわけだから、それぞれの選手に合わせて伴走する。しかし、日本のスポーツ界には、いまだに、軍隊式で絶対服従の一方的なコミュニケーションを強いる指導者が存在しています。だから、日本のスポーツ界は、「コーチ」の語源や役割から学び直さないといけないと思います。

 もうひとつ大切なのは、コーチは選手の「ロールモデル(規範となる人物)」であるべきということです。コーチは日々の言動を通して、選手の見本にならなければならない。ですから、スポーツのコーチになるには相当な覚悟が要るんです。

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プロフィール

桑田真澄

1968年生まれ。PL学園高校で甲子園通算20勝。86年、読売ジャイアンツ入団。2007年、ピッツバーグ・パイレーツ入団。08年、現役引退。プロ通算173勝。2010年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。現在は東京大学大学院総合文化研究科で特任研究員として研究を続けている他、野球解説、評論、執筆活動、講演活動も行っている。

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