登録者数約30万人を誇る大人気YouTube チャンネル「ARATA DANCE SCHOOL」主宰のARATA氏、初の著書『読むダンス』(集英社新書)。JPOPからKPOPまで、全72作品ものダンスを解説した本書に込めた想いを聞いた。
聞き手・構成=松山 梢/撮影=板垣勇太(KIENGI)/ヘアメイク=小川 Mathilda友里子
―― BTSやSnow Man、NewJeansなど全15組のダンス&ボーカルグループを取り上げている『読むダンス』は、各ダンスのポイントを秒単位で明記して解説しています。そのボリュームと内容の細かさ、アーティストやダンスに対する誠実な
最初にお話をいただいた時は、「文字でダンスを解説するなんて新しい切り口だな」とワクワクしつつ、「えー、できるかな!?」というのが率直な感想でした(笑)。本に収録したのは僕のYouTubeチャンネルで紹介しているダンスが多いのですが、文字にすることでより解像度を上げて解説できる可能性を感じましたね。本のために動画を何度も見返して、すべてのダンスを再解釈しました。皆さんがすぐに動画を見られるように、本には二次元コードもつけていますので動画を見ながら、ガイドブック的に楽しんでいただけたら嬉しいですね。
―― ダンサーであり、ダンス講師でもあるARATAさんがYouTubeで「ARATA DANCE SCHOOL」をスタートさせたのは2018年のこと。現在は約30万人(2024年5月時点)の登録者数を誇る人気チャンネルですが、ダンス解説がこれほど人気のコンテンツとなった理由はどこにあると思われますか?
ダンスを見てなんとなく「すごい」と感じていたものの正体が言語化され、解像度が上がるからじゃないでしょうか。解説を始めた当初はダンスシーンが今ほど盛り上がっていなかったので、「◯◯ちゃんのダンスはあまり上手くない」など、アーティストに対する批判的な内容がSNSに投稿されることもあったんです。でもダンサー目線から見るとめちゃくちゃ上手いんですよ。最初の頃はそのギャップを埋める作業をしていた気がします。
―― TikTokなどにダンス動画を投稿する人が増えるなど、今ではダンス人口も増えましたよね。関心が高まる具体的なきっかけはあったのでしょうか?
嵐さんをはじめとしたアーティストの動画がYouTubeで見られるようになったり、星野源さんの『うちで踊ろう』がコロナ禍にSNSで拡散されたり、BTSの『Dynamite』が爆発的にヒットするなど、2020年前後にダンスが身近に感じられるタイミングがあった気がします。その頃からチャンネルの登録者数もグッと増えた感覚がありますね。
――『読むダンス』の中でもっとも多くのパフォーマンスを解説しているのがBTSです。ARATAさんが彼らに魅了されるポイントは?
ダンスの技術力はもちろん、7人それぞれのキャラクターの濃さやスタイルの違いがはっきりダンスに表れているので、さまざまな角度からパフォーマンスを捉えられるところがすごいと思っています。つい話したくなる要素が多いんですよね。バラバラのバックグラウンドを持つ7人の組み合わせがおもしろいんです。見どころの多い、素晴らしい楽曲が多くて、何を取り上げるかとても悩みましたね。なかでも、2020年にリリースされた『ON』はBTSの豊かな個性がわかる楽曲で、『読むダンス』の中では7人個別のダンス解説はもちろん、マーチングバンドをコンセプトにしたバックダンサーさんたちとのパフォーマンスや、高難度のダンスブレイクについて多角的に解説しています。
―― 2020年にデビューしたSnow Manも、年齢や経験、身長など、非常にカラフルな個性を持つ9人組ですね。
お芝居やバラエティなど、幅広い芸能活動をされているからこその表現力の高さとタレント性、引き出しの多さを感じますよね。例えば、2023年リリースの『タペストリー』は儚さや切なさといった感情表現がめちゃくちゃ上手な作品です。力の入れ加減や指先の繊細さに至るまで、Snow Manは大味な表現をする人が一人もいません。特にラウールくんは百年に一人、千年に一人というレベルの逸材だと思います。たとえ端にいてもまったく遠慮せずにすごいパフォーマンスを繰り出しますが、他のメンバー含めダンスの“色味”が統一されているからチームとしてまとまって見える。9人の大所帯で魅せる総合力と高い完成度がSnow Manの強みですね。
―― Number_iのデビュー曲『GOAT』の解説では、「J-POPの転換点になる」と言及されています。
いやあ、衝撃的でしたね。シンプルに一つ一つのダンスの完成度が高いし、「これで世界を目指すんだ」という説得力を感じました。平野
―― どのグループもスキルが高いのは大前提。その上で差別化できる表現力や個性、人間性が必要な世界なんですね。
そういう意味でいうと、他のグループと違う武器を持っているのがBE:FIRSTです。本の中では激しいダンスナンバーの『Scream』を解説していますが、『Mainstream』や新曲の『Masterplan』ではPOPPINやアニメーションダンスというジャンルを取り入れているのが特徴です。ダンサーとしては、大きく派手な動きをしたほうが得られる満足度が高いんです。でも彼らは地道な練習が必要で習得が難しい、マニアックなジャンルを高いクオリティで表現しています。振り付けを担当しているSOTAくんを中心に、視覚的におもしろい不思議な動きを前面に押し出せることは、ダンス&ボーカルグループ業界的にもアドバンテージだと思います。
―― ARATAさんに解説していただくと、もともと応援しているグループのダンスの魅力をより深く知ることができるだけでなく、見たことがなかったグループのすごさを知ることもできて楽しみが広がります。
ダンサーさんの数だけダンスがありますし、どんなダンスが好きかは人それぞれ。最終的には好みでしかないんです。逆にいうと「なぜそのダンスが好きなのか」を知ると、自分自身を知ることもできる。ダンスってびっくりするぐらい噓がつけないダイレクトなコミュニケーションだから、「真面目だな」とか「シャイそうだな」とか、その人自身の内面がすごく出るんです。だからこそ見る側も素直に受け取れるし、ダンスを見て抱いた感情は、その時の自分の状態を表すものでもあると思います。
―― とても奥深いですね。
だからもう、いくらでも解説ができちゃうんですよ(笑)。僕自身、これから年齢を重ねることで見えるものも語る内容も変わっていくはずなので、ダンス解説はずっと続けていきたいと思っています。
プロフィール
アラタ●ダンサー、YouTuber。
1992年生まれ。K-POP、J-POPを中心に人気グループや話題のアーティストのダンスを解説するYouTubeチャンネル「ARATADANCE SCHOOL」主宰。
https://www.youtube.com/@aratadanceschool