対談

苛烈な〝民族弾圧〟から読み解く中国最大の弱点とは②

「中国」というイデオロギーと日本の中国分析の重要性

橋爪大三郎×峯村健司

ウイグル人の大量収容、思想改造、虐待、強制労働、デジタル監視社会……新疆ウイグル自治区から香港、台湾へと広がる異形の帝国・中国のウルトラナショナリズムに世界はどう対抗するのか。9月に上梓された集英社新書『中国共産党帝国とウイグル』(橋爪大三郎・中田考著)は、その中国リスクの本質を考える一冊です。

ジャーナリズムを容易に寄せ付けない習近平体制。本書の著者・橋爪大三郎氏と、北京特派員として習近平体制誕生の内幕を最前線で取材した経歴を持ち、先日新聞協会賞を受賞した「LINEの個人情報管理」のスクープの取材班にも携わった朝日新聞の峯村健司編集委員(米中・外交担当)が、最強独裁国家の今後の動きを分析。対談終盤にかけて明らかにされる「中国最大の弱点」に迫ります。

*この回は集英社新書プラスのオリジナル・コンテンツです。

構成=宮内千和子 撮影=三好妙心(橋爪氏)、岩上朱音(峯村氏)

 

一極集中の弊害

橋爪 ジャーナリズムをシャットアウトしているので、中国内部の現場情報が外部からは極めて分かりにくくなっています。ウイグルでの弾圧をはじめとして、この体制をどこが統括し、どういう責任体制になっているのか教えてください。

峯村 今の習近平体制は、習氏に一極集中しているのが最大の特徴です。習近平弁公室という習氏の事務局が、新疆ウイグル問題から外交まですべてを統括しているんですが、ここに正確な情報が上がっているかというと、疑問符がつきます。

 なぜなら習近平氏が強過ぎるんです。例えば、習近平氏が「どうだ? 台湾を攻めて、俺たちは勝てるか」と軍の幹部に聞いた場合に、「いや、主席、我が軍はこんな問題を抱えているので失敗するかもしれません」と言える人はまずいないでしょう。つまり、都合の悪い情報が上がらない体制になっている。それを考えると、情勢分析を誤って、間違った対外行動に出るリスクは、当時の大日本帝国よりも高いような気がします。

橋爪 「習近平弁公室」という名前が出ました。党中央の弁公室とは別に、非公式の習近平弁公室があるんですか?

峯村 今の体制では、党中央の中に習近平の事務局があるんですが、これはもうニアリーイコールだと私は見ています。

橋爪 集団指導体制の時代、それぞれの常務委員が、自分のブレーンを非公式に連れて、個人の弁公室というものをつくって、個人的なアイデアやさまざまな連絡をその個人事務所でやっていたと聞いていますが、それはもうない?

峯村 はい、集団指導体制時代、最高指導部の常務委員会メンバー9人もしくは7人はそれぞれの職務を持っていました。例えば警察担当とか、経済担当などとのが全部分かれていました。その中でトップの常務委員が責任を持ってやっていた。非常に興味深いのは、この集団指導体制下では9人もしくは7人の常務委員は、お互いの業務に干渉しないという暗黙のルールがあって、越権行為は許されなかった。でもそれは胡錦濤政権までです。

 これをばさっと終わらせたのが習近平体制です。これによってほぼすべての権限が習近平氏に集約されました。新疆ウイグルの問題なども、国家安全委員会をつくって、軍から、武装警察、警察をすべて組み込んで、習近平氏がコントロールする形になっている。胡錦濤以前と習近平以降では、完全に違う国だと言ってもいいほど、政策決定過程が違っています。

橋爪 習近平が座長を務めている新しい何とか小組(しょうそ)という委員会が十個ぐらい出来ていますね。習近平の息のかかった人が実務のトップになるんでしょうが、個々の常務委員たちあるいは組織の権限を飛び越えて、自分の意思が貫徹できるようになっている組織なのですか。

峯村 先生、実は十個どころではなくて、もっとたくさんあるんです。胡錦濤体制までは、プロジェクトごとに小組というものがつくられて、それぞれ組長がいたんですが、今の習近平体制の小組は、経済改革から軍事問題にいたるまで、重要な政策については、すべて習近平氏が小組の組長に就いているんです。なので、越権というレベルではなくて、彼がすべてコントロールしている。

橋爪 その小組は、党機関ですか。それとも、国務院の中の実務機関ですか。

峯村 党機関です。共産党の機関です。習近平氏が就任時に最初にやったのがその小組づくりです。

 

後継者の見えない一強リスク

橋爪 小組というものがそんなに幾つもあったら、権限争いになったり、お互いにやっていることが重複したり、矛盾したり、いろんな問題が起こると思うけども、それはどうやって解決するんでしょう?

峯村 そういう矛盾を解決しているのが習近平氏です。習近平氏がいろいろな小組を意のままに操っているので、以前のような権力闘争は起こりにくいシステムにはなっています。ただ、習近平氏は神様ではありません。それが何十個もの小組のトップに就いていて、彼だけに情報が全部上がってきて、彼が判断する。みんなその判断待ち、指示待ちです。余計なことをすると、すぐ潰されたり、捕まったりするので、指示待ち人間が大勢いるわけです。そうした状況で、習近平自身の決定スピードが遅れたり、判断ミスをしたりするリスクは、以前の体制よりもはるかに高まっていると私は見ています。

橋爪 そういうことでは、今後ますますどん詰まっていくと思いますね。そのシステムを、「皇帝化」とも言える。伝統中国の皇帝のシステムの問題点は、皇帝が聡明で若いときはいいんだが、中年から老年になっていくと、途端に行き詰まって、政府の求心力が急速に落ちていく。そうした現象が、どの王朝、どの皇帝でも必ず起こります。それはもう近々に必ず起こると思いますね。

峯村 習近平氏が常務委員になったときはライジングスターで、まだ若かったんですね。かなりエネルギッシュでしたけど、もう今68歳です。来年(2022年)の秋の党大会で任期を延長して、2035年までやると82歳で、晩年の毛沢東ぐらいの年齢です。年齢を重ねた故だけではないとは思いますが、毛が晩年、文化大革命など、判断ミスを起こしているということを考えると、似たような末路をたどる可能性もありうるとみています。

 ただ毛沢東の時代と決定的に違うのは、習体制下では後継者がいないこと。今の習近平体制では、誰が後継者か見えない。恐らくつくってない。毛沢東の時代は、鄧小平もいたし、保守派の大物の党高官とか、後継者候補やライバルはたくさんいたんです。それを考えると、習近平に何かあった場合、後継者は一体どうするのか。権力の空白が生まれる可能性が高い。それも今の中国が抱えるリスクだと思います。

橋爪 はい、後継者を決めた途端に独裁者は終わる。でも、誰かを側近にしないわけにいかない。最終的には老いぼれた権力者と権力を持ち始めたその人間との権力闘争になる。中国は大体そうやって権力交代してきましたからね。

 

中国のタリバン懐柔は100パーセント、ウイグル問題のため

橋爪 ウイグルの件についてもう少し教えていただけませんか。やはり習近平の号令一下で、現場は動いているんでしょうか。

峯村 はい。もう今は地方の一自治区に重要な政策の決定権はほとんどないと言えます。先ほど申し上げたように習近平弁公室が直接指示を出しているのです。軍や武装警察を直接操りながら、ウイグル政策を進めています。

橋爪 9・11(2001年のアメリカ同時多発テロ事件)の後、アメリカとアフガニスタン、タリバンとの間が非常に緊張をはらんできましたが、その時代から中国とタリバンとの間にはつながりがあったと考えていいですか。

峯村 実はその点に関しては、私はあまり過大評価しないほうがいいと思っています。この間アフガンからアメリカ軍が撤退する直前に、中国の王毅外相とタリバンの幹部が中国・天津で会見して握手している写真が報じられました。これについて、「ほら、やっぱり中国はタリバンとがっちり(結びついている)じゃないか」と言う専門家がいますが、いろいろ資料を見てみると、中国とタリバンとの関係はそれほど深くない。アフガン政策でいえば、アメリカ軍が膨大な人、お金を出して抑えてくれていた。そこに乗っかっていたというのが近い姿でしょう。だから、タリバン幹部を天津に招いたのも、関係がないがゆえに、あわてて関係をつくったと考えたほうが合理的だと思っています。

橋爪 関係をつくらなければいけない理由は、アフガン外交のためなのか、ウイグル問題のためなのか。どちらでしょう。

峯村 100パーセント後者です。ウイグル問題のためです。

橋爪 中国は、ウイグルのために何をタリバンに求めていますか。

峯村 王毅外相とタリバンの幹部との会談でも、経済的な支援を約束する代わりに、アフガニスタンのテロリストらが中国側に流入させないということを強調していました。米軍のアフガン撤退以降、ウイグルの国境沿いに相当な数の中国軍部隊が動いているという話を、ある複数の情報筋から確認しています。特にアフガンの北部には体制的に脆弱な国々があるので、新疆ウイグル自治区と直結しないように力づくで止める。それが中国の今後のアフガン政策だろうと思います。

2021年7月28日、タリバン幹部バラーダル氏と会談した王毅外相 写真=アフロ

橋爪 ウイグルの活動家がアフガニスタンに逃げ込んだとします。アフガニスタンは、それを捕まえて中国当局に引き渡すということですか。

峯村 それもあるでしょうが、テロリストたちがアフガニスタン北部からウイグルに流れ込んで、ウイグルの独立勢力と結託するのを防ぎたいというのが最重要なのだと思います。

橋爪 イスラーム的原則からすると、イスラームの同胞が自分の主義主張で活動しているのを、外国から刑事手配されているからといって、捕まえて、「はい、どうぞ」と差し出すのは、イスラーム的でないように思うんですが。

峯村 そうですよね。私もそれはイスラームの教えに相反するものだと思っています。ただ、タリバンは今、国際的には孤立していますから、そこはもう経済支援という「餌」をあげるだけあげて、一帯一路の中に組み込む形で、うまく手なずけるように持っていくんだろうなという気はします。

橋爪 オサマ・ビンラディンを渡すようにアメリカに言われたときも、タリバンは頑として断った。それがもとで、タリバンは大きな犠牲を払うことになった。それでも、首に縄をつけて「はい」と差し出すことはしなかった。アメリカに対してやらなかったことを中国にやるとは思いにくいですね。

 

アフガン外交は「帝国の墓場

峯村 そうですね。アフガンに関しては、アメリカだけじゃなく、旧ソ連も失敗しています。まさに「帝国の墓場」ともいえる。中国は、アメリカとかソビエトの二の舞は踏まないようにするだろうと心底思っています。権力の空白が生まれた中へ中国が入っていくと言う専門家がいますが、それはあり得ないと私は思っています。

橋爪 なるほど。それは説得力ありますね。タリバンからすれば、逆に中国に対してウイグルカードあるいはイスラームカードを持っている、その貸しをつくったと考えることができますか。

峯村 それはあり得るでしょうね。だから、あの会談のやり取りを見ていると、「我々がテロリストを抑えてあげます。そのためには我々をしっかり支援してくださいね」という言質をうまくタリバンのほうが引き出していますよね。

 でも、中国にとってもこれはリスクなんですよね。タリバンに対して膨大な支援をするのは、中国の国際的な評価を下げてしまうことになる。それでもやったのは、中国が核心的利益と位置づける新疆ウイグル自治区を守るために、国際的な評価を犠牲にしてもいいということなのでしょう。

橋爪 なるほどね。今回、私はわかる限りのことをいろいろ分析したんですが、私の本で足りないところがあれば、ぜひ教えていただきたい。

峯村 いや、宗教論も含めて、ウイグル問題を切り口にした橋爪先生の分析や中田先生とのやり取りは、私のほうがむしろ勉強になりました。

 私がいま関心を持っているのが、いわゆるAIを使った顔認証付の監視カメラによるデジタル監視社会と呼ばれているシステムです。これに中国はものすごく力を注いでいます。私も今、国際的な調査取材チームをつくって、オーストラリアやイギリスのメディアと協力して、今、中国がどういう装置をつくって、新疆ウイグルでどんな監視体制を敷いているのかを調査中なんです。デジタル監視社会というファクターは今後非常に重要になってくるだろうなと思います。

 

習近平政権のつまづきの石は台湾

橋爪 ウイグルは確かに大きな問題点です。が、習近平政権のもっと大きな分岐点というか、つまづきの石は台湾になるだろうと思う。佐藤優さんと対談しましたら、佐藤さんは、台湾よりもウイグルのほうが中国にとっては厳しいという意見です。なぜならば、新疆ウイグルはもともと中国のものだったのが、外国に妥協することになれば、マイナスにへこんでしまう。台湾の現状は、外に取られているものなので、ちょっとでも返ってくればプラスになる。プラスが増えるのとマイナスにへこむのでは、危機の度合いがウイグルのほうが強いと見るのですね。この問題について、峯村さんはどういう感触でしょう。

峯村 佐藤優さんの分析は非常に興味深いですね。国際政治の文脈でみると、多分その分析ははまる気がします。しかし、これはやはり中国のロジックというのをしっかり見なきゃいけないと私は思っています。

 それでいうと、私は、今の習近平指導部にとって最重要の問題というのは、ウイグル問題よりも台湾だと思います。ウイグルに関して見ると、中国はすでに統治をしているわけです。しかし台湾は、そうではない。この現状は何としても打破しなきゃいけない、アクションを起こさなきゃいけない。これは中国にとって大変なリスクです。台湾統一に失敗しようものなら、習近平政権はぶっ飛びかねません。中国共産党もなくなりかねないリスクがある。やはり習近平氏の掲げる「中国の夢」の一番重要なコンセプトは「統一の夢」なんです。

 この中国共産党としては、「統一の夢」を実現せずして「中国の夢」はあり得ない。軍の中でも早く武力行使したいという思いはものすごく今高まっています。ただ、中国軍の一番のフラストレーションでもあり、弱点でもあるのが、戦争の経験が少ないこと。最後の戦争経験は、1979年年の中越戦争なんです。この中越戦争に参加した人たちがいまだに中国軍の中で崇められている。我々から見ると負けたじゃないかと思うのですが、それぐらい実戦経験に対する飢えというか、憧れが強いんですね。

 台湾を統一しようと思ったら負けるわけにはいかない。これが習近平氏にとっての最大のプレッシャーだと考えています。

 

中国の最大の弱点は、「中国」というイデオロギー

橋爪 なるほど。それをありありと日本側も理解し、中国を攻めるカードをちゃんとつくることが大事だと私は思う。

 で、そのカードをすでに日本は持っている。天皇、日本。この二つのアイデンティティに関して日本人は全く疑問がない。それに対して、中国には天皇がおらず、そして一番の弱点が、中国というイデオロギーだと思います。中国というのは100年ぐらい前にできた新しい言葉で、漢族のあり方を少数民族の上に拡大したものです。それを「中国の夢」などと言ってしまっている。

 本来ならば、五族共和で多民族の多様性を包括する伝統的中国であるべきなのに、今はそうじゃない。これは西側世界から見るとわからない。その理由は、チャイナという言葉しかないから。チャイナとは秦の始皇帝の「秦」の意味であって、その後、国名が変わったにも関わらず、西側はチャイナの呼び名のままでずっと来てしまったわけですね。

2021年7月22日、視察でチベット自治区のラサを訪れた習近平国家主席。ポタラ宮広場の「中国共産党万歳」の文字を背景に 写真=アフロ

 日本的に考えれば、秦、漢、隋から唐があって、五代十国があって、清は外国の王朝でしょう。だから、中国というのは最近できたイデオロギーだということは、日本語なら非常によくわかる。儒教の中に中国という概念はない。中国の伝統的な思想の中に中国という概念がない。言葉はあるが、特定の国を指さない。でも今、中国共産党は中国を名乗っている。ここに最大のイデオロギーがあるわけですから、これを攻撃することが実は非常に効果的なんだと私は思います。

峯村 まさに先生の御著書のポイントですね。そもそもこの民族問題を中華民族というオブラートに包んで、それをさらに中華民族の偉大なる復興と謳い上げていることに、脆さが浮き彫りになっている。それは私も同意いたします。

 この「中国共産党」という言葉もそうですし、「共和国」、「人民」という言葉もそうですし、ほとんど日本語由来の言葉なんですよね。中華民族という言葉は、孫文のアイデアですが、じゃ、孫文は誰の援助で活躍したかといえば、日本です。

 ならばこそ、中国の今のアイデンティティというものを、日本がしっかりと研究して、中国側に宣伝戦や世論戦を展開するのもありだと思います。そうして中国を揺さぶるのも、台湾海峡を含めたその安定に寄与する方法かもしれない。

 先生のお書きになっているとおり、これはアメリカ人にはなかなか理解できない。なので、これを分かっている日本がリードすることは、非常に重要な、対中抑止の最大の武器になると思っています。

【了】

 


『中国共産党帝国とウイグル』

 

『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』

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プロフィール

橋爪大三郎×峯村健司

 

峯村健司(みねむら けんじ)
1974年生。朝日新聞編集委員。中国総局員(北京勤務)、 ハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所客員研究員等を経て、アメリカ総局員。ボーン・上田記念国際記者賞受賞(2010年度)、「LINEの個人情報管理」のスクープで取材チームが2021年度新聞協会賞受賞。著書に『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人 類最大の権力闘争』(改題し文春文庫に『宿命 習近平闘争秘史』として所収)、『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』(朝日新書)等。

 

橋爪大三郎(はしづめ だいさぶろう)
1948年生。社会学者。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。『ふしぎなキリスト教』(大澤真幸との共著、講談社現代新書)で新書大賞受賞。『おどろきの中国』(大澤真幸、宮台真司との共著、講談社現代新書)、『鄧小平』(エズラ・ヴォーゲルとの共著、講談社現代新書)、『一神教と戦争』(中田考との共著、集英社新書)、『戦争の社会学』(光文社新書)、『中国vsアメリカ 宿命の対決と日本の選択』(河出新書)、『政治の哲学』(ちくま新書)等著書多数。

 

 
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苛烈な〝民族弾圧〟から読み解く中国最大の弱点とは②