総選挙、石破総理の本当の狙い
今西 石井先生の『つながればパワー』(創樹社、1988年)という著書ですね。今から20年前、石井先生がいらっしゃった、紀藤さんがいらっしゃった、その先には、オウム真理教だとか統一教会だとかのいろいろな被害者の方がいらっしゃった。石井先生は人々をつなげたのかなと思うんですけど、いかがでしょうか。
紀藤 私は被害者救済をやっているので、国会議員を党派で分け隔ててしまうと、なかなか難しいんですよ。なぜかといったら、当然自分には政治的信条があるわけだけれども、でも、政治的信条を前面に出したら、時の政権の人たちには全く声をかけられないですよね。だから、当然、与野党問わず、全方位外交しないといけないという意味では、自分の価値観とか自分の政治信条は我慢しているところがすごく多いです。
被害者を救済するためには、超党派で議員立法をつくってもらわないと可決にならないんです。だからたとえば、オウム真理教の特別立法もそうですし、消費者庁を2009年につくるんですけど、そのときも超党派でつくっていただいて。全会一致の法案ってなかなかないんですよ。そういうやり取りをしようとすると、どうしても立憲民主党の人とも自民党の人とも、おつきあいしないといけない。
もし石井紘基さんが生きていて、政治家をずっと続けていたら、自分もどこかで政治の世界に誘われたなというふうに思うのですが、石井さんが亡くなられたことで、政治家にならずに今まで来ました。やはり現場の被害者を救済するためには、個別の政党に所属するとなかなか難しいというのも現場の肌感覚で感じますから、弁護士の職分上、あまり政治信条を出さずにやってきているのが現状です。
今西 でも、そろそろ紀藤さんの出番も近づいてきたんじゃないでしょうか?
紀藤 結構誘われますよ。誘われますけど、なかなか。
今西 会場から紀藤さんへの質問もかなり来ていまして、やはりこれはぜひ聞きたいところだと思うんですが、「解散総選挙もまもなくです。統一教会はさすがに選挙に関与することはないでしょうか?」という質問です。
紀藤 まず大まかに今回の解散総選挙の前提を話さないとわかりにくいと思うんですよね。今回のような「内閣信任選挙」というのは珍しいんです。本来は不信任決議があって、それに対して信任を問うという選挙だったらわかるんです。それから一定程度政局、つまり政治的争点があって、わざわざ政局をつくって選挙に臨むということがよくあるわけですが、今回政局というのは、基本的にない。野党がつくらない限り、政局は生まれないんですよね。
その政局は何なのかといったら、やっぱり「裏金問題」と「統一教会問題」。ここ数年、この二つが手つかずになっている。それは最大の政局なわけですよ。だけど、その政局がないままに解散が行なわれるという意味では、やっぱり「どういう意図で総選挙を行なうのか?」ということを考えなきゃいけないですよね。
これは石破さんから見たときには二つの面があるんです。一つの面は、既存の勢力から、「この時期に解散しないと、予算委員会で議論したら駄目になるじゃないか」と。テレビの解説者はみんなそんなことを言っていますよね。「今が一番浮揚しているから、この時期に解散すべきだ」という意見。今回の総選挙は、自民党は少なくとも前回の衆議院選挙よりは絶対に負けるんですよ。そこまで票は取れないんです。
だけど、石破さんから見たときはこう見えるんですね。つまり、裏金問題で問題があった議員は、選挙で落ちる可能性があります。それから、統一教会問題で統一教会と癒着している議員も落ちる可能性がある。そうすると、裏金問題と統一教会問題を抱えているのは、基本的には旧安倍派が多いんですね。元は旧細田派、安倍さんの派閥ですけど、ここが極めて多いんです。そうすると、落ちる議員がいて、仮に前回の衆議院より自民党の議席が減ったとしても、公明党と組めば過半数が取れる。そして、安倍派の議員の中で特に問題ある議員が落ちてくれる。その結果、石破さんを助けてくれる議員が相対的に増えるということなんですよね。
だから今回の解散は、石破さんにとっては、「議席が取れたらラッキー、取れなくてもラッキー」で、裏金議員や統一教会と癒着している議員は「落ちてくれたほうがいい」くらいに思っているかもしれません。実は石破内閣というのは安倍派を、安倍派と言ってはいけないのか、裏金問題とか統一教会問題の人たちを、むしろ落とすことを狙っているのではないかと思っています。
そして私としては、統一教会と裏金問題はやっぱり今回の政局だし、こういう議員は落とさないといけないというふうに思っています。衆議院の場合は個々の選挙区が非常に重要なので。
「裏金と宗教」を超えるパワーとは?
紀藤 その点、やっぱり統一教会と癒着していた議員は、ちゃんと出直してくれないと困るんですよね。出直してくれるというのはどういうことかというと、きちんと全部情報公開して、禊ぎ選挙を受けるんだったらいいですよ。だけど、そうではないですから。正直に「〇〇さんから言われて仕方なくやった。二度としない」というところまで踏み込んでくれればいいです。それは人間には弱いところがあるから。私は弱者救済をしているので、「人間が嘘をつく」というのも弱い心だと思っているんですよね。
でも、その弱い心をプライドで隠して開き直ったり、嘘をつくというのは、もう絶対に正義的には許してはいけないと思っているんです。弱い心は弱い心で、「言われたから仕方がなくやりました」だったら、まだ反省して出直すという意味があるけれど、現時点でも、議員の中に正直に話さない議員もいて、私は信頼できないというふうに思っています。そこは今回の選挙で、やはりきちんと総括しないといけないのではないか。
だから、皆さん方、今日来ていただいた方々が、「つながればパワー」ではないけど、一人ひとりがつながっていくことがとても重要で、それが票数に変わり……、自民党の先生はみんな言ってらっしゃるんですかね、「一人が100票持ってこい」とか。それもまさに「つながればパワー」ですけど、統一教会はやはり、ぎりぎりの選挙区においてはすごく重要なパワーを生むんですよね。
泉 そうです。
紀藤 特に地方議会から先に浸透が始まったのは、それが理由ですよね。地方議会って、1票差でも落ちるんですから。1票差で通っている人、たくさんいますから。数十票があればひっくり返るわけですから、統一教会の持っている票は非常に重要です。同じように国政でも重要になってくるのではないかと思うので、多分今回の選挙でも、統一教会は動くと思います。
泉 今の話を聞いたなかで思うんですけど、自分も選挙を国会議員で2回、市長で4回、計6回もやり、石井さんの選挙も手伝い、20代からずっと選挙漬けの人生を歩んできた者としては、綺麗事を言うと、選挙というのは、「1票1票の積み重ね」ですし、もちろん自分はそういうスタンスでやってきました。けれど実際、選挙を多数経験した者としては、たしかに「必要なのはカネと人」なんですね。いくら綺麗事を言っても、「金を渡さないと人は動かない」という現実はあり、人が動かない以上、「本気で動いてくれる人が欲しい」になってくるんですよ。
そうすると、お金をくれる企業とか、裏金をくれるところが魅力的なんです。加えて、宗教団体は、票を持っているだけじゃないんです。本気で選挙運動やるんですよ。選挙における宗教団体というのは、ものすごい頼りになる。宗教団体の数十人が本気で選挙運動するだけでも、選挙区の状態が変わるんですよね。だから、統一教会は大事にされるのであって、そこのリアリティーというものは私もかなり感じています。
いや、自分はそっち側じゃないですよ。肯定はしていません。しかしリアリティーとして、やはり国会議員になる者が金と宗教に寄りかかる気持ちはある。宗教の怖さというのは、人数じゃなくてパワーなんですよ。もう完全に確信犯的に本気で選挙できる人、普通いないですから。普通の政党の党員では、友人に電話かけられる人もいないし、選挙を戦う者からすると、裏金をくれる人と宗教団体というのは宝なんですよね、本音は。
だからこそ、それを乗り越えるだけの、「つながればパワー」じゃないけど、今日ここに集まっている私たちの力が、そういった裏金や宗教団体を超えるぐらいのパワーを持っていく必要があるというのが、私の感想かな。
今西 ターニャさんは、石井先生の秘書もされていたし、それ以外の議員さんの秘書もしておられて、宗教団体と政治の関係はどう見ていますか。
石井 父が言っていたのは、宗教の末端の方と言うと語弊がありますけど、一般の信者の方というのはすごく真面目なんだと。「彼らは真面目なんだ。彼らは悪くないんだ。それを利用する側が問題なんだ」というふうには言っていました。地方議員選挙では、そうした方々が組織的に運動している様子も目の当たりにしたことがあります。
「いいね!」の積み重ねがパワーになる
泉 最後に、宣伝がてらお願いですが、まずは今日はありがとうございます。「石井紘基を語り尽くす夜」という形で集まっていただいたからこそ、改めて石井さんの話をすることができました。今回出版した本もそうですけど、皆さんに関心を持って買っていただけるから、重版がかかる。その結果、より広い層に向けて「官僚国家 日本の闇」というテーマも浮上してきます。
私の場合、かなりギリギリの線を狙ってテレビとか出ていますけど、なぜテレビに呼ばれるかというと、理由は簡単で、私が出ると視聴率が上がるからだそうです。ただ、テレビ局の上層部は「泉は呼ぶな!」なんです。そのせめぎ合いというせこい話の中で私は呼ばれているんですよ。
そういう意味ではまさに、ネットもそうです。私に対して「いいね!」をいただく方が多かったり、見ていただく方が多いから、ネットニュースになる。ネットニュースにすると閲覧数が稼げるから、メディア各社も私をニュースにする。悪い意味ではなくて、実は一人ひとりの「いいね!」の積み重ねとか、1冊1冊の本の積み重ねで、あるときに石井紘基さんの本がちゃんと浮上してくるとか、私がテレビに出続けられるということであって。
誰も関心を持たなかったら、すぐ干されるんです。だって、こんなに口悪いんだから。でも、長く出られているのは、皆さんからの支持のおかげなんです。
「いいね!」一つの積み重ねによって、何とか発信力が強化され、メディアにも何とか出続けられ、そして、本も出せる状況ですので、これからもよろしくお願いします。(了)
*統一教会(世界基督教統一神霊協会)は、現在は、世界平和統一家庭連合と名前を変えています。新聞などは「旧統一教会」と表記しますが、本稿では歴史を尊重して、統一教会(Unification Church) と呼ぶことにします。
プロフィール
泉房穂(いずみ ふさほ)
弁護士、社会福祉士、前明石市長、元衆議院議員。1963年、兵庫県明石市二見町生まれ。東京大学教育学部卒業後、テレビ局のディレクター、石井紘基氏の秘書を経て弁護士となり、2003年に衆議院議員に。その後、社会福祉士の資格も取り、2011年5月から明石市長を3期12年つとめた。著書に『日本が滅びる前に 明石モデルがひらく国家の未来』(集英社新書)、『社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ』(ライツ社)、『政治はケンカだ! 明石市長の12年』(聞き手=鮫島浩、講談社)他多数。
石井ターニャ(いしい たーにゃ)
1972年、東京都生まれ。石井紘基氏の長女。幼少からNHK教育テレビにて「ロシア語講座」をはじめテレビ、舞台などで活動。大学在学中「ロシア語会話」にレギュラーアシスタントとして出演。大学卒業後には、国会議員である父親の秘書としても活動。通訳、撮影コーディネーター、ライター、テレビ番組アシスタント、情報番組のコメンテーターも務める。また、民間会社、衆議院議員の公設第一秘書などを経て、子育てを機に各地で農業や食に関する様々な活動にたずさわる。
紀藤正樹(きとう まさき)
1960年、山口県宇部市生まれ。リンク総合法律事務所所長。弁護士(第二東京弁護士会所属)。市民の立ち位置から、一般の消費者被害から宗教やインターネット、SNSにかかわる消費者問題、被害者の人権問題、児童虐待問題等に尽力している。著作に『カルト宗教』『決定版 マインド・コントロール』(共にアスコム)、『議論の極意』(SB新書)等多数。
安冨歩(やすとみ あゆみ)
1963年、大阪府生まれ。東京大学東洋文化研究所名誉教授。京都大学経済学部卒業後、銀行勤務。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。博士(経済学)。著書に『「満洲国」の金融』(日経・経済図書文化賞、創文社)、『複雑さを生きる』(岩波書店/一月万冊復刻版)、『生きる技法』(青灯社)等多数。
司会 今西憲之(いまにし のりゆき)
1966年、大阪府生まれ。ジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がけ、権力の腐敗や原発問題について精力的に執筆。