日報が公文書として保存されるようになった
望月 布施さんが色々と事実を明らかにしていったことで、今では日報も含めて、国立公文書館などに保存することが義務付けられるようになりましたね。
布施 そうですね。私は2009年の時には、イラクの日報も含めた文書を開示請求していたんですけれども、その時は「無い」と言われて、出てこなかったんです。
その後、南スーダンの日報隠蔽事件が起きて、それまで「無い」と言われていたものが実は存在したということが明らかになって。
それを機に調査がされたんですが、そうしたら「イラクの日報もありました、もっと昔のものもありました」という風に記録が一気に出てきて。最終的に、過去の海外派遣の報告文書が約4万3000件も保管されていることが明らかになりました。
それで、「ちゃんとこれからは公文書として扱います」ということになりました。変な話なんですけどね。もともと公文書のはずなんですから。でも、それまでは公文書扱いされていなかった。
それがちゃんと公文書として扱われることになり、これからは情報公開請求されたら出しますよ、ということになりました。これは大きな前進でしたが、相変わらず肝心な情報は黒塗りだらけという状況は変わっていません。
望月 アメリカにはいろいろな良い面、悪い面がありますけど、たとえばホワイトハウスの機密文書でも30年後には必ず開示される、という仕組みがあります。日本に比べれば情報開示の制度というのはものすごく整っていますよね。
実は情報をもっとオープンにした方が、冷静に現実を見すえた本当の議論ができるんじゃないかと思います。
布施 南スーダンPKOの日報隠蔽が問題になった時、自民党の国防族の議員から「そもそも軍隊の日報を情報公開の対象としている国など他にない」といった声が上がりました。
「本当にそうなのか?」と思い、試しに日本と同じように南スーダンPKOに派遣していたオーストラリアの国防省に日報を開示請求してみました。すると、3ヵ月後に問題なく開示されました。黒塗り箇所も、日本より全然少なかった。
望月さんも本の中に書かれていますけど、日本には「なるべく情報は国民に知らせない方が良いんだ、別に知らせてもロクなことにならない、俺たち政府がちゃんと正しい判断をするんだから」という考えが根強く残っているように感じます。
結局は民主主義をどう考えるかだと思うんですよね。民主主義というのは文字通り「民主」ですから、国民が判断し、その結果においても責任を負うというのが健全な仕組みです。
結果的に良くない方向に行くかもしれない。でも、そうなったら国民が責任を負いましょうと。
たとえば戦争になったら、影響が一番降りかかってくるのは国民だから、ちゃんとその決定プロセスにも国民が参加できるようにしましょう、というのが民主主義です。
判断できるようにするためには情報がしっかり開示されないと、考えるための材料が無いので、ちゃんと情報を出しましょうと。
日本もきちんと事実を提示して、国民がそれを判断し、方向を決定する社会になってほしいな、という思いが一番強いですね。今回の本にはそういう思いも込められています。
(構成:稲垣收/写真:野﨑慧嗣 )
前編はこちら⇒自衛隊海外派遣の30年は「嘘」と「隠蔽」の歴史だった!?
※本記事は2022年5月18日(水)に本屋B&Bにて行われた『自衛隊海外派遣 隠された「戦地」の現実』(集英社)刊行記念イベント「『これからの自衛隊』とジャーナリズムの役割」の内容を再構成したものです。
プロフィール
望月衣塑子(もちづき いそこ)
1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。慶應義塾大学法学部卒業後、東京・中日新聞社に入社。関東の各県警、東京地検特捜部を担当し、事件取材に携わる。経済部などを経て社会部遊軍記者。2017年6月から菅義偉官房長官(当時)の会見に出席し質問を重ねる様子が注目される。著書に『新聞記者』『武器輸出と日本企業』『同調圧力(共著)』『報道現場』(角川新書)、『自壊するメディア(共著)』(講談社+α新書)、『権力と新聞の大問題(共著)』『安倍政治 100のファクトチェック(共著)』(集英社新書)など多数。
布施祐仁(ふせ・ゆうじん)
1976年、東京都生まれ。ジャーナリスト。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』(岩波書店)で平和・協同ジャーナリスト基金賞、日本ジャーナリスト会議によるJCJ賞を受賞。三浦英之氏との共著『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(集英社)で石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約 裁かれない米兵犯罪』(岩波書店)、『経済的徴兵制』(集英社新書)、共著に伊勢﨑賢治氏との『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(集英社クリエイティブ)等多数。