対談

戦後も少年ゲリラ兵たちから慕われていた陸軍中野学校出身の2人の青年将校。そんな人間偏差値の高い彼らが、加害者になってしまったのはなぜか?

望月衣塑子×三上智恵

戦後70年以上たって初めて語れた真実

望月 この本で証言している人たちも、「やっぱり戦争はあかん」って言う人が多いですが、中には、どこか美化してる方もいますね。当時、兵隊とか護郷隊に選ばれたことが名誉だったり「兵隊さんが正義のヒーロー」みたいな流れの中では、当然だったんでしょうけど。この本を読むと、そこからもう一歩離れて「当時の情勢を踏まえて、それが今どう見えるのか」という視点もある。でも自分のやったことって、なかなか否定したくないのが、私も含めて人間の本質的なものかなあと。「あの真っただ中で、俺はあれだけのことやったんだよ」って言いたい気持ちもあるでしょう。でも自分のやったことを、歴史の中で客観視したとき、どう見えるかは別で。もしかしたら何も知らずにいれば幸せだったかもしれないけど。この本に出てくる全員の証言を読んだときに、また全然違う思いが起こることもあるでしょうね。でも、まさにそのための、皆さんの証言なのかな、と。

三上 証言した人一人ひとりは「自分の証言がどういう流れの中に置かれて、どう意味を持ってしまうのか」というのはわかっていなかったと思います。だけど結局、この一冊の本の世界観の中で、その証言が持つ意味というのは、決まってしまうところがある。全体の中でこれを見たときに、「ああ、自分って、こういうふうに位置づけられたんだな」って思って、あんまりうれしくない思いをする人もいるでしょう。「この話をすると、この地域で、この同じ名前で生きていくのがつらくなる」っていうことにつながる証言もありますし。

──ただ、証言した少年兵の人たちも、もう九十代ぐらいですから、関係者はほとんど亡くなってるんですよね。

望月 関係者がほとんど亡くなった、今だからこそ言える。

三上 そうなんです。実際私10年前の戦後65年のときに「護郷隊が実は加害者でもあった」っていう一面を撮ろうと思ったんですよ、証言者がいて。でも実際にカメラを回して、彼と一緒に現場に行ったんですけど、「まだこの人と、この人が生きてるから」というので言葉を濁して、全然インタビューとして使えなくて。「いいですよ、そんな無理しないで」って言ったら「これは当事者が亡くなってから……5、6年ぐらいしてから、もう一回やろうよ」みたいになって。それで、その人たちが亡くなったんです。だからこの映画をやろうと思ったっていう背景もあります。本当に70年以上待たなきゃいけなかった。別に、その人たちを傷つけたくはないじゃないですか。「戦争になると、こうなりますよ」ということを言いたいだけであって。沖縄であろうが本土であろうが関係なくて。「戦争を止められないで、自分たちが知らない間に加担していて、最後は一番大事にしなきゃいけない身内を殺してしまうところまで、なぜ行き着いちゃうのか?」ということを学んでほしいんです。どこかの悪魔がやったんじゃなくて、自分たちが加害者になっていく、その恐怖をどうやって勉強するの、って考えた時に「何百人もの人がスパイじゃないのにスパイだと疑われて殺された。せめて同じことが起きないように学んでくれない? 私たちの事例から」って、私がその渦中にいた人だったら思うだろうな、と。

望月 そうですよね。スパイじゃない人までスパイという形に仕立て上げられて。だから日本軍というのは沖縄の人を最後の最後まで、道具以下に扱っていた。彼らを守るんじゃなくって、軍の隠れ家や秘密を漏らさないためには殺すという。「ああ、やっぱり最後、軍というのはこういうふうになってしまうんだ」ってことが理解できたんですけど。でも今そういうことを全然知らない人たちが圧倒的に多いですからね。軍の持つ非情で残虐な一面を。

 

普通の人が悪気なく権力にすり寄り、自分から加害者側になる。
今の日本は物言える社会が壊れるティッピング・ポイントを越えた

望月 今、日本は自衛隊に対する理解が8割ぐらいあって。 

三上 8割も?

望月 ええ。2年前の内閣府の世論調査で8割を超えているんです。「だから自衛隊を憲法に書き込むぐらいは、いいんじゃないでしょうか」というのが安倍さんの論法で。でも今のところ自衛隊って「軍とはまた違う」という位置づけになってるけど、同じような機能を持つ軍というのは、ひとたび戦争が始まったときに本当に国民を守ってくれるのか。沖縄を見ていると「沖縄の人たちを守ってくれるんですか」と思うんです。「かつては、どうだったんでしょう?」というのをこの本や映画で見てみると「守らないよね」っていうことに尽きますね。

三上 そう。自衛隊配備で揉めている現場でも「沖縄の人を守ってくれるんですか」って質問に答えられる防衛省の人はいないんです。守られた歴史はないですから。災害救助の話にすり替えられて濁される、の繰り返し。

 でも、「日本の軍隊がひどいことをした」っていうのは、今までもさんざん言われてきたんだけど、今回私が特に明らかにしないといけないと思ったのは「軍隊だけではなく沖縄の国士隊とか、本当に軍隊だったかどうかグレーな人たちも含めて、軍の組織の一員として、たくさんの沖縄の人が動いていた、その人たちも加害者になっていった」ということです。

 今回書かなかったんですけど、警察もひどい。当時の沖縄県警は住民のことを家族構成まで知り尽くしていて軍の指示でスパイ狩りに協力してた。スパイ容疑者を見つけ出して軍に引き渡したり、米軍に投降しないよう目を光らせたり。県警は沖縄の人ですよ。

 だから「軍隊」と「一般人」という2つの間の境界線、マージナルに、マージナルマン(周辺人、境界人)というのがいて。軍隊というのは、ものすごく権力も経済力もあって、本当は勝ってないけど大本営発表で「勝ってる」と言い続けて皆、信じていた。で、「日本が戦争に勝った暁には、この人たちと仲よくしといたほうがいいに決まってる」と思って一般人がどんどん軍のほうにくっついてくる。日本中がそうだったんです。「軍がやれと命令して、嫌々戦争に協力した」って言いたいけど、実際はそうじゃない人も多い。だって、現金授受生活なんかしていない農村の人たちが、軍のために馬車とか出すと、毎日三往復したら大金が入ってきたりした。なら、馬を借りてきてでも協力しますよね。普段は大して風采が上がらない地域のオジサンが、軍と仲よくしたがために偉くなっちゃったり。ものすごい下剋上が起きた。だから当然、このマージナル・ゾーンに自分たちから行ってしまう人たちがいた。国士隊みたいな、植民地エリートみたいな存在が。

 普天間飛行場の辺野古への移設のための埋め立てを承認してしまった仲井眞元知事なんかも、ある意味、植民地エリートというかマージナルマンです。政府も軍隊もマージナルマンをうまく利用していく。でもそのマージナルマンには、自分たちから躍り込んでなっていってしまうものなんです。これは沖縄に限らず。労働組合の幹部がいつのまにか経営側にくっついて御用組合になったり。沖縄戦では、そのマージナルマンが、スパイ容疑をかけられた人たちを虐殺するときに大きな役割を果たしてしまった。システムの中で必ずマージナルマンは出てきて、彼らが守らなきゃいけない人たちを犠牲にしていくという構図。これはいろんなところで学べるけど、沖縄戦はその最たるものだと思うんです。

望月 だから、護郷隊や国士隊なるものをよしとしていた、当時の島民もいたという現実。それは、まさに今と、すごく重なってきますね。メディアのありようも含めて。現状に照らし合わせると、そこでどう戦えばいいのかな、と。今、安倍政権が長期化している中で、なかなかメディアも芸能人も何となく物が言えなくなっちゃっている。そんな状況と当時の状況がかぶる。もちろん当時の状況は今以上にせっぱ詰まっていたとは思うんですけど、「とりあえず強いものに巻かれておけ」みたいな風潮は似ている。日本の社会って本当にそういう空気が強いと思うんです。

三上 すごく強いですよね。「ティッピング・ポイント」っていう言葉がありますね。それまで静かに質量が増していた現象が、ある一点を過ぎるとダーッて崩れるという。今の日本は、物を言える社会が壊れるティッピング・ポイントを越えたんじゃないかと思う。安倍政権がここまで長く続いたせいで言論弾圧が横行している。北海道放送の「ヤジと民主主義」ってドキュメンタリー見ました?

望月 選挙応援演説に来た首相に「安倍は辞めろ!」って言った人が大勢の警官にバーッて引っ張られていった話?

三上 そう。絶対見てほしい。もう、本当に日本終わったなって思いますよ。「安倍は辞めろ」と言った彼だけじゃなく「年金どうなった?」ってプラカードを出しただけの女性も引っ張られていった。普通の人が警官に引っ張られていく状況を、何とも思わなくなっている日本人が圧倒的多数だというところが、もう終わったな、と。だけど大衆って「絶対負け馬には乗りたくない。勝ち馬にだけ乗っていたいし、勝ち組ににらまれたら生きていけない」って潜在的に思ってる。物を言うとこんな目に遭う、という負の経験がどこまで蓄積されたら「物言えぬ社会」になるのか? 私はいつも思うんですけど。そのティッピング・ポイントは、もう越えたのかもしれない。すでに今は「何か言ったら自分の子供の就職が……」とか、名前出さないで、顔出さないで、そんな話ばっかり。だから「何も言わないほうがいい」と。で、「言わないほうがいいなら、気づかないほうがいい」「気づかないほうがいいなら、知る必要もない」という最低のスパイラルに完全にはまっていると思う、今の日本が。

 

コロナ休校で自分に火の粉が降りかかって
普通の人も「政府が守ってくれない」ことに気がついた

三上 だけど、最近の新型コロナウイルス問題で何か変化が起きたかもしれない。

望月 コロナが来て、気づいた、と。

三上 そう。「国は国民を守ってくれないのかもしれない」と、影響力のある人たちがいろいろ言い始めたりしてて。私に言わせれば「今気づいたの?」みたいな感じですけど、光明もあるんだな、と思ったりします。この数日の安倍さんに対するテレビのトーンとかもいきなり変わってきてて。学校を休校にしただけで、すごくみんなの気持ちに来たんだなと。

──生活に直結しますからね。昨日行った美容室でも、美容師さんが「うちも娘2人いるんですけど困っちゃいますよ」って。自分に火の粉が降りかかって、初めて気がつくという。

三上 初めて自分の問題として。

望月 向き合える(苦笑)。はあちゅうさんが「半径5メートルの世界」以外は関心のない若者みたいなことを以前言ってましたけど、私の講演会でも森友・加計学園の問題は、中高年の新聞読み込んでる層には響くけど、若い人には全然で「モリカケとかって私たち、あまり関係ないっスよね」みたいな。だけど(伊藤)詩織さんの話をすると「これから私たち就活なのに、何? 就職の相談に行って気づいたらレイプされてて、それでその人、逮捕されないってどういうこと?」みたいに、いきなり食いついてくる。そういう感覚って若者もそうだし「そんなこと言ってる場合じゃない。食う、生活できることが一番だ」と、普段政治に関心のない大人も「子供学校に行かせられないって、仕事どうすりゃいいの?」みたいなことでは動くんだな、と感じましたね。

三上 そうなんだよね。

望月 結構、リアルに人の心がどこで動いていくのかなっていうのが、今回のコロナ騒動で見えてきましたね。安倍政権の強さって、憲法九条改正なんていうのは、安倍さんがそれを旗振りにして極右層を引きつけてるっていう、その妙な強さはあるけれど、じゃあ無党派含め、多数がそこに関心持っているかというと、関心ある人はごく一部で、今回の休校を決めたと言われ、「影の総理」とも称される、今井尚哉首相補佐官は、知り合いの番記者に「世の中というのは、自分の下半身があったかければ文句は言わないんだ」とよく言っていたそうなんです。「自分の生活が満たされていたら、支持率はそうそう下がってこないんだ」と。だから国民の生活に直結する部分、雇用や賃金の問題を解決しておけば、世の中の人間はついてくる、みたいな。その発想って、ある意味すごくわかりやすい。今回の休校では皆「自分たちの生活が困る」というところで怒りだした。ほとんどの人は自分の生活に直結して初めて「何なんだ!」って怒る、と。ある程度のインテリとかニュースに関心のある層は別として、大方の政治に無関心な人たちにとっては「日々の生活」がすごく重要で、そこに今回は、直結しちゃった。

三上 だけど黒川検事長定年延長問題とか桜を見る会の問題だとかが、「学校休校」って言ったら、もうダーッと消えたじゃないですか。それを狙ったんじゃないかって説はどうですか。

望月 自民党の議員から連絡が来て「やったな。これでもう黒川さんも桜も吹っ飛んだね」って言うんです。たしかに、それを狙ってた感はある。今井補佐官は「一億総活躍」というフレーズも彼が考えたって言われているんですけど一点突破作戦らしいんですよ。追い込まれたときでさえ、バンと風呂敷を広げる。これで国民の目がそれるじゃないですか。

 たとえば昨年10月の消費増税前のテレビでは韓国批判がすごかったですよね、8月、9月。韓国の大法院で徴用工に関する判決が出て、日韓関係がギクシャクしていた流れはあるけれど、菅官房長官が、関係がこじれたのは「韓国が全て悪い」とかって言っちゃったり、すごく意図的に政府が韓国批判を仕掛けているなと感じたんです。本当は消費増税前に「我々の暮らしはどうなる、足元の生活はどうなる」みたいな企画をテレビがガンガンやるべき時期に韓国バッシングがすごかった。TBSなんかも、しょっちゅうやって。しかも視聴率がいいんですよね。やはり日本人って、お隣の国のことが気になるから皆見ちゃう。テレビの人が言うには「官邸バッシングをすると、とにかく官邸からガンガン文句が来るけれど、韓国バッシングをしている分には文句は来ない」って。視聴率もそこそこいいしと。

三上 政府批判と違って作る側に覚悟もいらないし、お手軽に数字が取れる。

望月 お手軽に視聴率取れて批判もない。そんな韓国バッシングが消費増税した10月から一気にトーンダウンした。

 今回のコロナでは逆に政府が追い込まれて「何やってるんだ、政府は」と。クルーズ船の対応含めて、陽性患者がどんどん出てるから今後も批判は続くと思うんだけど。一時は自粛要請、それぞれの判断みたいなことを言ってたのが、「総理は何やってるんだ」みたいな中で追い込まれて、内閣支持率も急落したって産経までが書いて。産経があそこまで下がったって書くのは珍しくて。そこで今井補佐官と北村滋国家安全保障局長らが一点突破を狙った感はあると思います。菅さんも萩生田さんも反対したわけですよね。「さすがに全国一斉休校はやらなくてもいいじゃないか」と。全く陽性が出てない自治体もあの時点ではあったわけですから、各自治体の判断をもっと尊重させて、一律はいかがなものか、と。でもそれを聞かなかった。それだけ今井補佐官の発言を総理が重視したし、それだけ官邸の対応も追い込まれていた。「今これで一点突破だ」と、ある意味、安倍さんは賭けたのかなと思いました。でも逆に、その危うさですよね。あっ、そんなことで決まったんだ、やっぱりと。

三上 コロナ問題でも、いったんこっちに振ったら、そこにバーッと行っちゃう日本人の怖さを感じましたね。

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関連書籍

証言 沖縄スパイ戦史

プロフィール

望月衣塑子×三上智恵

 

望月衣塑子(もちづき いそこ)
東京新聞社会部記者。2017年3月から森友学園、加計学園の取材チームに参加し、前川喜平文部科学省前事務次官へのインタビュー記事を手がけたことや、元TBS記者からの準強姦の被害を訴えた女性ジャーナリスト伊藤詩織さんへのインタビュー取材をしたことをきっかけに、2017年6月6日以降、菅義偉内閣官房長官の記者会見に出席して質問を行う。会見での質問をまとめた動画と単著について「マスコミの最近のありように一石を投じるもの」として2017メディア・アンビシャス大賞の特別賞に選ばれた。2017年、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞を受賞。二児の母。2019年度、「税を追う」取材チームでJCJ大賞受賞。著書に『新聞記者』『武器輸出と日本企業』(ともに角川書店)、『権力と新聞の大問題』(マーティン・ファクラーとの共著、集英社新書)『安倍政治 100のファクトチェック』(南彰との共著、集英社新書)ほか多数。

 

三上智恵 (みかみ ちえ)
ジャーナリスト、映画監督。毎日放送、琉球朝日放送でキャスターを務める傍らドキュメンタリーを制作。初監督映画「標的の村」(2013)でキネマ旬報ベスト・テン文化映画部門1位他19の賞を受賞。フリーに転身後、映画「戦場ぬ止み」(2015)、「標的の島 風かたか」(2017)を発表。続く映画「沖縄スパイ戦史」(大矢英代との共同監督作品、2018)は、文化庁映画賞他8つの賞を受賞した。著書に『証言 沖縄スパイ戦史』(集英社新書)、『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』『風かたか「標的の島」撮影記』(ともに大月書店)等。

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戦後も少年ゲリラ兵たちから慕われていた陸軍中野学校出身の2人の青年将校。そんな人間偏差値の高い彼らが、加害者になってしまったのはなぜか?