著者インタビュー

「非言語コミュニケーション」を使わない現代人の危機

『人生は「声」で決まる』著者・竹内一郎氏インタビュー
竹内一郎

──重要なことを伝えるものなのに、自分の声が嫌いだという人も多いですね。

 そうなんです。自分の声が好きじゃないという人は非常に多い。というのも、普段は自分の声は骨を伝わって聞こえる「骨導音」として聞いています。それが、録音された自分の声を聞いたりすると「えっ? これが私の声なの? イヤだ」となってしまう。空気を伝って鼓膜を震わせる「気導音」で聞くと、自分の声と違うように聞こえるからです。

 ──本人も嫌いに思わない、いい声とはどんな声でしょう?

  いい声の定義は本当に難しい。まずは声のトーン、話し方から声を磨いてほしいと思います。

 最近、特に年配の方の間で、朗読サークルの人気が高いそうですが、興味深いのが、自分の朗読を録音したものを聞くと、みんな「何を言っているのかわからない」と言うんだそうです。文節、強調、声質、声量といったものがメチャクチャで、朗読になっていないんですね。活字を音読するスピードが、いつも自分が読むスピードのままなので、読んでいる本人には意味はわかっても、人に伝える読み方ができていないんです。

   もっとも声を磨いてほしいのは、政治家です。安倍首相は一国の長としては声がお粗末です。発語、発音が明瞭でないため、幼児語で話しているように聞こえます。石破さんもていねいに話しているように聞こえますが、そのせいか声に力が感じられない。声に力があったのは小泉元首相ですね。聞いている者の心を高揚させるような力がありました。

  決して好きではないけれど、アメリカのトランプ大統領の声には力がある。大統領選は2年前の中間選挙から実質スタートします。スピーチや討論を繰り返すなかで、ふさわしい表現力を持っている者が選ばれます。大統領にふさわしい声を持つ者がその地位に就くと言っていいでしょう。

   クリントン候補に競り勝ったのには何らかの理由があるはずです。言葉ではない声そのものから、大統領としての強力なメンタルなのか、指導力なのか、何かを感じ取ったアメリカ国民が大勢いたということなのだと思います。

──人を動かす声の力という点では、オレオレ詐欺は悪い意味での声の使用例でしょうか(笑)?

 演劇的な手法の悪用と言っていいでしょう。しかし、相手が信じてしまうように悪い意味で声を磨いているのは事実だと思います(笑)。

──声は肉体と密接な関係がありますね。朗読サークルの人気も健康面との関連がありそうです。

   声は身体と密接に関係していますから、健康へのいい影響は大いにあります。声帯の筋肉はもちろん、腹筋、背筋も使うからです。筋肉を使うことが肺にもいい影響を与えるんです。オペラ歌手、能役者、狂言師、声を使う仕事の人たちはみんな姿勢がいい。

 声を出すということは呼吸を整えるということでもある。ガス交換が行われますから心身ともにリフレッシュされて、ストレス解消になります。心の健康にもいい。しゃべらなくなり、声を出さなくなると、年寄りジワもできやすいですよ。

  みんな何かに急いでいるんです。やはり、ここでも効率です。それが読み方、話し方にも出ている。

 それに耳の問題もありますね。昔の作家と今の作家の作品を比べて読むと、昔の作家のほうがはるかに文章は美しい。美しい音韻と音素を選んでいます。それは声によるコミュニケ―ションが基盤にあったことで、耳がよかったせいではないでしょうか。鋭い耳の感覚が朗読、音読して美しい文章を生み、音韻の美しい文章を生んだのでしょう。

  今、ネット上で美しくない文章が横行しているのも耳のせいかもしれません。炎上も非言語コミュニケーションの欠如によって声を磨かなくなったことからではないでしょうか。

 私たちは、もう一度声の伝達力の豊かさに目を向けて、楽しい語らいの時、豊かな恋愛、腹芸のあるビジネス、などコミュニケーションの「深み」に目を向けてもいいと考えています。

 

本書には効率重視の現代に対する警告の意味も込められている

       (取材・文=近藤邦雄)

 

 

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プロフィール

竹内一郎

1956年、福岡県生まれ。劇作家・演出家。宝塚大学東京メディア芸術学部教授。原案を担当した『哲也 雀聖と呼ばれた男』で講談社漫画賞受賞(筆名・さいふうめい)、『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』ではサントリー学芸賞を受賞。著書に『人は見た目が9割』『やっぱり見た目が9割』(新潮新書)、『その癖、嫌われます』(幻冬舎新書)、『優柔不断は“得”である~【人生の損益分岐点】の考え方』(扶桑社新書)、『結局、人は顔がすべて』(朝日新書)など多数。

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