対談

国際社会とタリバン政権の対話に必要なこと

内藤正典×山本忠通

2021年8月、米軍がアフガニスタンから撤退するや、20年ぶりにイスラーム主義組織のタリバンが政権を奪取したアフガニスタン。タリバン復権の理由や、国連とアフガニスタンの関係、女性の権利の問題、アフガニスタンと日本など、さまざまなテーマについて論じた対談『アフガニスタンの教訓 挑戦される国際秩序』(集英社新書)を上梓した、元国連事務総長特別代表の山本忠通氏と、イスラームに詳しい学者の内藤正典氏が、アフガニスタンの最新情勢も踏まえ、タリバン政権と国際社会、そして日本は、どう向き合うべきかについて語り合った。

構成=稲垣收 写真=三好妙心

――今回は、特にタリバン自体がどのようにアフガニスタンをまとめていけるのか、国際社会はどのようにかかわるべきなのかについてお話しいただければと思います。

内藤 その前にまず、山本先生にお聞きしたいのですが、アフガニスタン南東部で6月22日にマグニチュード5.9の地震があり、大きな被害がありましたが、これに対する国際的な人道支援はどうだったんでしょう?

山本 すぐに各国が支援しました。インド、カタール、トルコ、パキスタンなど周辺国が皆すぐに動きました。日本や韓国、ヨーロッパも、すぐに動いた。ただ、非常にアクセスが難しい場所でしたので、実際には赤十字が物資を届けるという形で行ったようです。そういう意味での国際協調は働きました。アフガニスタンに対する人道支援に関しては、いまだに国際協調でやっています。タリバン政権としては若干不満でしょうが、タリバン政権に対してではなく、現地へ直接支援しているという感じだと思います。

内藤 そうですか。

タリバン最高指導者の強硬姿勢と変化

山本 この本のために対談してから実はいろんな動きがあって、その一つに、つい最近、7月1日のウラマー(イスラーム法学者)大会議というのがありました。

 これは、幅広くアフガニスタンの国民の声を聴く場所として期待されていたのですが、この会議でタリバン最高指導者のハイバトゥラ・アクンザダ師が非常にきついことを言ったのです。まず、国際社会に対する自分たちの勝利をかなり強い言葉で喜び、「これでイスラームを推し進めることができる」と。そのために、出席者の一部が3日目には退席してしまう事態となりました。

 ところが先日(7月6日)、イード(イスラームの祝日)のメッセージでは、さすがにウラマー会議でそういうことになったのを反省したのか、「もう少し国際社会との関係を強化し、きちっとしたものをやっていきたい」ということを言いました。

 7月1日の時点で、最高指導者がそうした強硬な意見を述べたことに表れているように、ここ数ヵ月の動きはよくありません。まず、3月23日に本来開始されるべき女子中等教育が開始されなかった。しかもその決定が伝えられたのが23日当日の朝らしく、女子生徒が学校に行ったら、「授業はないから帰れ」と言われて、泣いて帰る子が出るような状況だったそうです。

 また、報道の自由も非常に厳しく制限され、自由な報道ができなくなっています。「外国のメディアの報道内容を伝えるのはけしからん」と言って制限するというようなこともあります。ガーニ前政権のときのアフガニスタンは、インドより言論が自由で、「あの地域では一番自由化が進んでいる国」と言われていたのですが、見る影もない有様です。

 それから、いわゆる「包摂的(インクルーシブ)な政治」についても、タリバン内部の権力闘争がまだ収まっておらず、タリバン内部でパシュトゥーン人が他の民族を圧迫するようなことが目立つなど、保守への回帰のような動きがありました。

 理由を考えてみたのですが、一つにはタリバン復権当初は、せっぱ詰まった人道的な危機があったのです。しかし国際社会の人道支援もあって非常に厳しい冬を何とか乗り越え、いまだ厳しい人道危機は続いているものの、少し落ち着いてきた。そういう流れの中で、タリバンは「自分たちの権力をまず確立させねば」という気持ちを持ったのではないかと思います。

 それに加えて、国際社会も、周辺国以外は非常に厳しい対応を続けています。特にアメリカは、アメリカ政府が押さえているタリバンの中央銀行の資金のうちの35億ドルについて、「アメリカ国内で訴えがあった場合に備えて、保証金にあてるために差し押さえる」というようなことまで言って、タリバンを含むアフガニスタンから非常に強い反発を買っています。

 もっとも、アメリカ政府は、その一方で、経済制裁による資金の流れに関しては、「人道支援についての資金の流れは認める」と言って、財務省令を出しました。ところが、アメリカ政府自体は、その言葉どおり実行しているのですが、民間銀行からすると「一体何が緩められて、何が緩められていないのか」の判断が結構難しいということで、ヘタに緩めてお金を流して、それが後で実は違った、ということで、アメリカの制裁対象になって取引ができなくなる事態を恐れています。そういうことで、現在は銀行の自主的な規制がかなり厳しく、日本のNGOなども、人道支援のためのお金を送るのに、苦労しているという実態があります。

 状況は厳しい方向に向かってきたと言わざるを得ません。そうした流れの中で今、近隣国は、日々の活動の必要性からタリバン政権との関係をきちんと持たなくてはならないということで、会議を開いたり、いろいろ努力を進めてはいます。7月も、ウズベキスタンが国際会議を開き、アフガニスタン問題について、国際社会との関係を含め話し合いが行われました。

 しかし西側は依然としてアフガニスタンに対しては非常に消極的です。ウクライナ戦争によってアフガニスタンへの関心が失われつつある、ということも、あるかもしれませんが……。

「タリバンがある程度妥協してこないことには、自分たちの方からは動く状況にない。今はとにかく人道支援を継続して様子を見ていこう。状況が改善されたら、それに従って対応しよう」という感じで、圧力を依然として強く維持しているのが現状です。

 そういう中でタリバンはどうすべきか? この辺は内藤先生のお話も伺いたいと思うのですが、彼らは確かに、イスラームに基づく社会を作りたい。そのこと自体は今、誰も反対していないと思います。しかし、それが全てのアフガニスタン国民に利益を及ぼすという形になって、みんながある程度「自分たちの政府だ」と思えるようにするには、どうしたらいいのか?

 そして、同じイスラームの仲間の国々も、今のタリバンのあり方というものをかなり気にしていると思うのです。イスラーム諸国がもう少し積極的に、前向きな、建設的な対応を取るためには、タリバンは何ができるのかを提言できるといいのですが……。

 一つ、希望が持てるのではないか、と思うのが、国連です。国連は、私の後任だったアフガニスタン特別代表が6月で辞めて、新しい代表が近々選ばれる運びになっています。新たに着任したばかりの政治担当の副代表はドイツ人で、もともと駐アフガニスタン大使をしたり、ドイツの特使を務めたりして、アフガニスタンに詳しい人物です。私もよく知っている人ですが、人間的にも円満な人なので、彼が積極的に動ければ、新しい特別代表が選ばれた際に、今のように西側が様子見で、周辺国は「アメリカやヨーロッパとの関係を台なしにするわけにいかないから、あまり動けない」という状況のときに、中立的な国連が具体的な方向性を示していくこともできるのではないか、と思います。

 そのときにできれば日本も、西側諸国との関係は維持しつつも、西側と一緒になっているだけでなく、国連と一緒に話をして、「これを動かすには、こういうふうにしたらいいんだ」と道筋を示していけたらいいな、と思います。

タリバンの価値観と近代国家システムのすり合わせには時間がかかる

内藤 タリバンが動くには、この本の対談でも言いましたが、時間がかかり過ぎるんですよね。多数決でものを決めるということを否定してしまったので。延々と話し合って合意に達しなければいけないし、その合意というのが一々「イスラーム的に正しいか」というところに(さかのぼ)って審議する。それをやっていると非常に時間がかかるし、アドミニストレーション(行政・国家運営)が動かない。これは彼らもだんだん自覚すると思うんですが、彼らに自覚させる時間が必要なんです。

 先ほどおっしゃっていたウラマーの会議もそうですが、さんざん意見が出て、結局はまとまらないということを繰り返すだろうと思います。ただ、一度これをやらせないと、どうしようもないでしょうね。「気が済むまでやってごらん」と。「それでアドミニストレーションが成り立つかどうか?」結局、そういうことです。

「イスラームでもって一つの国家を運営する」ということ自体は、別に否定することじゃないですが、現実に、タリバン政権以外の全てのイスラームの国々は、近代的な国民国家のシステムで動いているわけです。もちろん、そういう国民国家システムでも、ウクライナ問題などが起きるわけですから、問題点は当然あるんですが……。

 しかし国際秩序という点で言えば、タリバンだけが「宗教でやります」と言っているだけで、あとの195ヵ国ではそうじゃない。その中でやっていくことの難しさは、政権奪還からまもなく1年たちますから、タリバンもそろそろ自覚するだろう、と見ています。

 結局は、イスラームのルールに従わなければならない部分と、運用上、妥協する部分、「イスラームではこうはやらないけど、妥協しなければならない」というところをどう仕分けるかなんですが、それがまだ全然できていない。

タリバンは、原則については言っていますけど、運用面はどうするのか? 運用は、タリバンが思っているとおりにはならないわけです。

 トルコやカタールといった国々も、それを分かっているから、「もうそろそろ時間がなくなるよ」とタリバン政権に警告しているだろうと思います。

 お隣のパキスタンもイスラーム的な価値と、近代的な国家システムをすり合わせています。あれを全面否定できるのかというと、タリバン自体がずっとパキスタンにある意味頼っているところがあったわけですから、できないはずです。

だから、自分たちの理想郷計画は、自分たちだけではできないということを悟らねばならない。でもこれを一度に全部、その考え方で妥協できるかというと、できませんので、そこですごく時間がかかるんですよね。

「専門家の価値を認める」とタリバン最高指導者が言い始めた

山本 それに関連して、実はハイバトゥラ師が昨日(7月6日)のスピーチの中で言った改善点が一つあります。以前は、「専門家というものを認めない」ということを言っていたのですが、専門家の価値を認める発言をしました。

 7月1日のウラマー会議では、むしろ「あまり価値を置かない」ようなことを言っていた。これに対して、相当批判を浴びたのだろうと思うのですが、これを変えて、そういうプロフェッショナルに対する価値を認め、「彼らに帰ってきて、国の建設に協力してほしい、彼らが大事だ」ということを言っています。

 おっしゃるとおり確かに時間がかかるのかもしれないですが、時間がかかるときに、タリバンも「時間がかかるので待ってくれ、実はこうなので……」と説明すればいいのでしょうが、そうじゃなくて突っ張ったままやっているので、西側の一般大衆はタリバンに対して厳しい見方になることが心配されますね。

内藤 そうですね。

山本 何人か現地の西側の大使の人たちと話をすると、「とにかくもう待つしかない」という感じでした。確かに、ここで縄を締めるようなことをしなければいいのかもしれませんが、そうだとすると、待つ間、タリバンはどういうふうに国を運営するのか、国が悪くならないようにしていくのか、若干なりとも改善しうるのか、ということになります。

内藤 特に専門家の中には、もちろん教師も入りますが、女子教育の再開が遅れている点などは、もっとタリバンに厳しく言うべき点なんです。だって「女子教育自体は否定しない」というのがタリバンの公式見解なので。ならば「さっさとやれ」と。「就学期の子供たちは二度と同じ時間を取り戻すことができないんだ」と詰め寄る分には、タリバンも「何とかしなきゃ」という方向になるはずです。

 ただ欧米のメディアが、「女子教育を認めないのは女性に対する抑圧だ」「イスラームにはその問題がある」という方向にどうしても引っ張る。そういう方向に各国の政府までが流れると失敗します。

 ただ現実に、医療にしても教育にしてもその他の技術にしても、技術に関していちいち干渉するというのは、本来イスラーム的じゃないんです。技術と一緒に価値観を持ち込むかどうかの問題ですから、西側諸国もそこは切り離してタリバンに詰め寄らないと、タリバンの改善が遅れると思います。

山本 インドネシアやマレーシアなどアジアのイスラーム諸国も心配しながら見ているようですね。タリバンがこれらの国の言うことを、どれぐらい正統性(オーセンティシティー)をもって受け入れるかという問題があるかもしれないですが、今おっしゃったように、「女子教育をやらないのはイスラームの考え方があるから悪いのだ」という発想にならないためには、イスラームの国々が「女子教育をやろう」「こういうのを一つのステップとしていこう」とタリバンにもっと強く言ったらいいのかもしれませんね。

内藤 それは必要ですね。まず、今一番やるべきなのはそれなんですが、ただインドネシアもマレーシアも、そしてトルコも、すでにイスラームと西洋的なシステムとの妥協の下で国を作っていますので。自分たちが妥協していることは自覚しているんです。で、タリバンが「妥協しない」と言っているのも知っているので、「妥協型のモデルに従え」とは言いにくいんです。

山本 なるほど。確かにそうかもしれない。

内藤 トルコはヨーロッパとアジアのちょうど中間にいますから、ヨーロッパ的な価値観とイスラーム的な価値観が、非常に研ぎ澄まされた形で衝突してしまう。アジアのほうがもうちょっとうまく、ソフトにマネジメントできるんですけど、トルコはできなかった。それが度重なるクーデターとか、いろんな形で出てきて……。で、現エルドアン政権は、だんだん強権的になっていきました。

 しかしそのトルコも、いまだに「世俗の国だ」という建国以来の憲法原則は外さない。与党はイスラーム主義的な政党ではありますが、じゃあ、イスラーム政党で行くのかというと、そんなことは言わない。国民がついてこないから。イスラーム的に正しいかどうかより、国民がついてこないことには、国は運営できない。

 アフガニスタンだって同じことです。その点において、我々は誤解しがちなんですが、実はイスラーム教徒はイスラームのことをよく知っているわけじゃないんです。

山本 そうですね。我々だってほとんど自分の宗教のこと知らないですからね。

内藤 我々が仏教や神道のことを知らないのと同じ、あるいは、ヨーロッパの人だって、キリスト教について詳しいかと言うと、そうでもない。それと同じです。

 ただ1979年のイラン革命以来、イスラームが“西洋の敵”として立ち現れてくるプロセスの中で「彼らは皆狂信的だ」と思い込んだ。それが抜けてないんです。でも「イスラーム世界だって、敬虔なイスラーム教徒といいかげんなイスラーム教徒でできているんだ」ということを前提にすればいいんです。タリバンが突出的に過激なことを言っても、アフガンの人が皆それに従うとは思えません。

山本 現にすごく反発がありますよね。アフガニスタン内では。

内藤 そうです。逆に、「女の子に教育はいらない」などというのはイスラームではなくても、どの地域においても保守的な家庭では皆言うんです。日本だって戦後しばらくずっとそうで、女性の大学進学率が上がってくるまで60~70年かかった。欧米は自分たちが先導役で「彼らは何十年も遅れている」という見方をしやすいですが……。

山本 それはやめないといけない。

内藤 ええ。そうした姿勢ではタリバンを説得できない。そしてタリバンが、やらなきゃいけないことのプライオリティをつける際に、女子教育が高くないとしたら、「それは間違っている」と伝えなくてはいけない。それは外側が言っても全然問題ない点です。

山本 よく分かります。確かに、時間がかかるということを前提とするなら、どこに集中して何ができるのか、どういう良いメッセージが伝わっていくのかということを考えて、タリバンが耳を貸すところが話していく。

 そういう中で、先ほど私、イスラームの国々の働きかけについて申しましたが、同様に国連と日本も本当はやったらいいと思います。特に日本は、インドネシアやマレーシアとも非常に近い国ですから、一緒になってやろうと思って、本気になって話そうと思えば話せる。現に、民間団体の中では、インドネシア、マレーシアに話をして、「女子教育についてアフガニスタンに働きかけてくれ」と言っているところも、既にあります。

 彼らは努力していますが、政府レベルでそれをやるともっと効果があるし、そういうことを国連にも話して、一緒にやったら良いと思います。新しくUNAMA(国連アフガニスタン支援ミッション)に来る人たちは、多分、人選的にも、ある意味でより融通性のある人たちを選んでくると思うので、そういう人たちと話をしてやったらいいと期待します。

内藤 なるほど。この本でも詳しくお話ししましたが、西欧の価値観を一方的に押し付けるのではなく、イスラームの原則や文脈をふまえつつタリバンの強硬派も耳を傾けやすいところから提言を行い、徐々に穏健なガバナンスに落ち着いていけると良いですね。(了)

関連書籍

アフガニスタンの教訓 挑戦される国際秩序

プロフィール

内藤正典

(ないとう まさのり)

1956年東京都出身。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。
一橋大学名誉教授。
『限界の現代史』『プロパガンダ戦争』(集英社新書)『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』(集英社)著書多数。

山本忠通

(やまもと ただみち)

1950年広島県出身。
在大韓民国及び在米国大使館公使、外務省広報文化交流部長、ユネスコ常駐代表、在ハンガリー特命全権大使などを歴任。
国連事務総長特別代表、国連アフガニスタン支援ミッションの長を務めた。

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国際社会とタリバン政権の対話に必要なこと