写真で安倍を“たっぴらかす!(ぶっ潰したい)”

写真家・石川真生が「琉球大写真絵巻」に込めた思い 第1回
石川真生

写真展に対する思いを語る石川さん

「基地の街」のバーで働く女たち、母国を遠く離れた「オキナワ」の米兵、自衛隊、沖縄芝居の役者、そして、沖縄に生まれ育ち、カメラのファインダーを通じて沖縄と正面から向き合い続ける「自分自身」の姿……。44年にわたって一貫して「沖縄」をテーマにした作品を撮り続けてきた写真家、石川真生さん。彼女が4年前から全力で取り組んでいるプロジェクト「大琉球写真絵巻」の写真展が、2月10日から埼玉県東松山市にある「原爆の図丸木美術館」で始まった。

 琉球王国の時代から、薩摩藩の侵攻を経て「日本の一部」となり、悲惨な沖縄戦と戦後の米軍占領時代から本土復帰、そして現代に至る沖縄の歴史を、沖縄に暮らす友人や知人に「演じる」という形で再現してもらいながら、巨大な布にプリントし、パート1~4の全4巻、全長120メートルに及ぶ壮大な「写真絵巻」として再現したこのシリーズ。
撮影者と被写体が「故郷・沖縄の歴史」を追体験しながら、時にユーモアを交えて描きだされた作品からは、沖縄≒琉球の人々が、長年にわたり抱えてきた深い悲しみと怒り、そして、幾度となく踏みにじられながらも、決して失われない「誇り」が浮かび上がる。

 私がこのシリーズの構想を思いついたのは、第二次安倍政権が発足した2012年終わり頃。安倍政権になったとたん、普天間基地の辺野古のキャンプシュワブへの移転を進める、オスプレイを沖縄に配備する……と、次々に言い出したのに、ものすごくショックを受けて、「馬鹿野郎!」って怒りが燃え上がったの。

 なぜ、今の日本が優しさや思いやりのない国になってしまったのか? どうして沖縄に酷いことしかしないのか……。そういう怒りや哀しみを抑えきれなくなった時、私は写真家で、写真でしか表現することしかできないから、「写真で安倍を“たっぴらかす!(ぶっ潰したい)”」って思った。

縦1メートル、横30メートルの布に琉球・沖縄の歴史をつづった「大琉球写真絵巻」

安保法制、米軍基地問題など、アメリカベッタリの安倍政権への怒りが、大琉球写真絵巻のきっかけだった

 

 こうして、私が安倍政権と米軍に怒っているシリーズが始まったんだけど、そこでまず最初に決めたのが「デカい写真にしよう」ということ。私、NHKの「日曜美術館」って番組が好きで良く見ているんだけど、日本の屏風絵とか襖絵って、バーンと大きくてカッコいいじゃない? あと「絵巻物」っていうのもいいなぁと思っていたので、縦1メートル、横30メートルの写真用の布に写真22点または23点をプリントして、絵巻物みたいに「巻き巻きしちゃう」という形態を思いついたのね。そうすれば、運搬も楽だから、どこでも簡単に持って行って展示できるし。

 次に自分でも沖縄の歴史を改めて勉強し直してみた。私、勉強大っ嫌いだし、本もあんまり読まないんだけど、周りを見渡したら、幸い、友達に琉球国時代に詳しい人、沖縄戦に詳しい人、戦後の米軍占領時代や、今に繋がる基地問題に詳しい人たちがいたのね。その人たちにファーストフード店でおごったりしながらレクチャーしてもらって、それを必死にノートに書き留めた。

 琉球王国として独立していた時代から、1609年に薩摩に侵略され、明治政府による琉球処分で強制的に日本に併合された沖縄が、その後言葉を奪われ、文化を奪われ、太平洋戦争で唯一の悲惨な地上戦を経験し、戦後は日本の「人身御供」としてアメリカに差し出された……。私はその占領時代に生まれたわけだけど、それは本当に酷い“植民地時代“だった。だから、1972年に本土復帰したら、基地もなくなり、平和になると思っていたら、現実は全く違って、沖縄だけに犠牲を強いる歴史は今もずっと続いている……。

 

返還前の沖縄では、子どもからお年寄りまで大勢の沖縄人が米兵に轢殺されたが、無罪になることもしばしばあった

 

 私が子供の頃、沖縄の学校では基本的に「日本史」しか教えなかった。一応「郷土の歴史」の副読本みたいなものはあったけど、少しの時間しか勉強しなかったので何を習ったか全然覚えてない。だから、こうして改めて沖縄の歴史を振り返ると、自分でも知らなかった、誰も教えてくれなかった史実がボコボコと出てくる。私ぐらいの年齢ですらそうだから、大学生ぐらいの若い子たちが展示会場で、「琉球国」時代の写真を指差して、「これ、何?」と、私に聞いてきた。かつて沖縄が独立国だったことすら知らないのよ。そうやって沖縄は自分たちの「歴史」まで奪われたんだということも、この作品を作りながら改めて実感した。

 そうやって発見した歴史的な事実を、単に写真という形で復元するだけじゃなくて、そこに私の「思いのたけ」を込める。実際にあった史実に、私の怒りや、哀しみや、叫びを込めて「創作写真」の形で表現したのが、この「大琉球写真絵巻」のシリーズなの。写真の中で沖縄の歴史を演じてくれているのは、ノーギャラでこのプロジェクトに協力してくれた私の友人や知人たち。プロの役者じゃないよ。以前、沖縄芝居のシリーズを撮っていたこともあるから、その時の知り合いに衣装を貸してもらったりね。

 

2月10日の写真展初日には多くののお客さんが集まり、石川さんの話を熱心に聞いていた。写真展は3月4日まで開催。2月21日まではパート1・2が展示され、22日からはパート3・4の公開が始まる。3月3、4日には再び石川さんのトークショーがある。詳しくは「原爆の図丸木美術館」(http://www.aya.or.jp/~marukimsn/kikaku/
2018/mao.html)まで。(写真/原爆の図丸木美術館)

 

  これまで44年間、沖縄人と沖縄に関係ある人だけを撮ると決めて、本当にいろんな人たちと出会い、写真に収めてきたことが、いろんな形で私の血となり肉となって、この「大琉球写真絵巻」の制作に活きている。これは沖縄を虐げ続ける安倍政権や米軍への「怒り」が原動力となって始まったプロジェクトだし、作品を作りながら怒りや哀しみはもっと深まっている。けれど、その一方で「人のつながり」がこのシリーズを支えていて、制作を進める中で「人のつながり」がどんどんと広がっているのは、楽しいコトでもあるんだよね。

                                              取材・文・撮影/川喜田研

第2回:沖縄の怒りと悲しみを「演じる」ことの意味

プロフィール

石川真生

1953年、沖縄県生まれ。写真家。主な作品に『熱き日々in沖縄』(フォイル)、『石川真生写真集 日の丸を視る目』(未来社)、『石川真生写真集 FENCES,OKINAWA』など。現在、「大琉球写真絵巻」のパート5を作成中。

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