法律というルールを知ればもっと強くなれると思った

田村淳の“青学生失格”戦記 前編
田村淳

──踏み間違えると、警察沙汰になりますから(笑)。

 そうそう(笑)。僕が路上で警察とモメたことにしたって、あのときは少し法律に興味を持ち始めた時期だったので、騒動の一部始終をカメラに収め生配信することに関してはルール違反じゃないと知ってはいたんです。ただ、そのやりとりの中で婦警さんに向かって「クソババア!」と暴言を吐いたことについてはモラルに反しているだろ、と注意を受けたわけで。

 だから、あのときもっとルールを学んでいれば謝罪の方法も変わっていただろうし、謝るなら謝るで自分が納得できたと思う。逆に、もしかしたらルールを踏まえた上で謝らなかったかもしれない。だけど、あの騒動のときは結果的にいろんな大人に囲まれ、謝罪を要求され頭を下げてしまって……。

──当時は全然、納得していなかった、と。

 だから僕、腑に落ちていなかったんですよ、ルールに対しては。あれから調べれば調べるほど、「あれ? あの騒動は僕が悪かったのか? 違うな、悪くねえじゃん」と思うようになったし。僕は昔からムカつく年上の女に「クソババア」ってさんざん言ってきたし。

──いやいや、それはモラル的にダメでしょ。

 そうなんですよね(笑)。モラル的にダメだから、それに関して謝るとしても、警察とのやり取りを生配信するのがルール上は問題ないんだったら、それについて謝る必要はなかったな、と今では思っています。

 それなのに世間の声というか、それまで偉いと思っていた大人たち、あるいは当然ルールを知っているであろうと勝手に僕が思い込んでいた大人たちが、こぞって謝罪しろというから、謝らなきゃいけないのかなあ、と思っただけで。意外に偉いと思っていた大人たちはルールを何も知らないんだなってわかりました。

 ルールを知らないから、僕みたいな表現者でも何かヤバいことが起きそうなときに、突っ走らずに手前でブレーキを踏んじゃう。そんな過去のあれこれもあって、法律を学んでいれば、これまで不審に思ったこともすべてクリアになるんじゃないかなと。

──しかし、田村淳が法律知ったら鬼に金棒というか厄介というか手に負えなくなるというか……ある人にとっては迷惑この上ないかも(笑)。「これ法律にダメって書いてないんだから、やっちゃってもかまわないッスよね」って感じで動きそうですもんね。

 そういうふうに動いていきたいですよね(笑)。
 
──いやでも、ルールを知らないって恐ろしいですよね。

 怖いですよ。多くの人がこの場合に何を調べればルールに辿り着くかも知らないんです。もっと言うと、ルール作りの根本とか、誰がどんな目的でこのルールを作ったのか、それによって誰が得をして損をしているのか、そういうことが理解できて自分の中で腑に落ちたら、その知識を多くの人に自信を持って発信できるじゃないですか。

 それこそルールを踏まえてメディアを通して発信できたなら、これまでとは比べものにならないくらいに説得力あるものを発信できるし、芯のある発信者になれると思ったんです。そのためには繰り返しになりますけど、大学できちんと法律を学ぼうというわけで、大学受験しようと決めたんです。

──そういえば、『日本人失格』でも、小学6年生のときに児童会長に立候補した理由もルールを問題にしてましたね。なぜ廊下を走っちゃいけないか。そのルールに納得できなかった淳少年は先生たちに、そのルールの根本を改めて問おうとして選挙に打って出た。

 でしたね。そう考えると12歳のころから僕は変わってないですね。やっぱり廊下を走るなルールはおかしかったし、自分の中で腑に落ちませんでした。普段は廊下を走るなって先生たちは怒るけども、雨の日の部活動では走ってもいいということになる。これ、道理に合ってないでしょ。そういうどっちつかずの曖昧さが昔から嫌いだった(笑)。結局は、「廊下は時には走ってもいいことにする」ってルールに変えましたからね。

──ちなみに、なぜに目指したのが青山学院大学だったのですか。

 僕が上京したときに初めて住み始めたのが神宮前で、表参道の交差点にあるTSUTAYAでバイトしてて。そこにキラキラしている青学の学生たちがビデオを借りに来て、この人たちはそのビデオを仲間や彼女、彼氏と鑑賞しながら楽しむんだろうなって、店のビデオを整理しながら憧れていた18歳の田村淳がいたんですよ。

 ま、そういうエピソードがありつつ、現実問題として受かった場合、テレビ局への移動がラクだし、青学が一番、地の利があるなと。それと青学の法律に住吉雅美教授がいらっしゃって、この先生の法哲学が面白そうだったんですよ。

──具体的にどこらへんが面白そうなんですか。

 住吉教授は、「法律の記述はなんでもかんでも長くてやたらと難しく書かれてある。これはおかしい。本来、法律というものはもっと端的にわかりやすく表現されていなければいけない」という信念なんです。それと教授はゼミ「タブーに挑む法哲学」で「多数意見に流されずに様々なことに疑問を持ち、自分の目で批判的に物事を見ることで社会の中で働かせられる触角を持つことができる」とおっしゃってるんですが、この言葉に感銘を受け、「あ、この先生の下で法律を学べば、自分は伸びそうだ。このゼミで学びたい」と強く感じたわけです。こういういろんな要素が重なって青学にしました。

 もちろん、法律を学ぶなら中央大学という評判も聞こえてはいたんですが、住吉教授と一緒に学びたかったんですよ。まあ「淳が青学? チャラいだけじゃねえか」って見方も、それはそれでアリかなと思ってましたけど。

──中学生の女の子が「あそこの高校の制服がかわいいから受験したい」って理由とさほど変わらないような……。

 いいんです、それで。大事なことは学ぶことですから。法律を学べればいい。ただ正直、その住吉教授の存在は僕の中では大きかったのは確かです。青学を受験したいという根拠にはなっていました。

 

取材・文/佐々木徹  写真/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

後編:法律を学ぶベストな環境を求めて浪人します!(3月20日配信予定)

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関連書籍

『日本人失格』

プロフィール

田村淳
1973年山口県生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。タレント「ロンドンブーツ1号2号」として、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)『緊急SOS!池の水全部抜く大作戦』(テレビ東京)などバラエティ番組から、『田村淳の訊きたい放題!』(TOKYO MX)のような情報番組まで多彩なジャンルの M Cを務める。著書に『日本人失格』(集英社新書)等。

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