宮古島・陸自ヘリ墜落現場では何が起こっていたのか

取材・文・写真/大袈裟太郎
大袈裟太郎

島民の不安をよそに着々と進むミサイル配備

5月初頭、民間のサルベージ船によって機体が引き上げられ、あまりにも無惨な事故機の姿が露わになった。乗員6名の遺体は発見されたが、残る4名の遺体は今も見つからないままだ。沈没した機体を引き上げるサルベージ船を自衛隊が所有しておらず、民間に受注した事実にも一抹のさびしさがあった。命を賭けることを前提として隊員となった自衛官たちだが、その彼らの命を救うことは想定されていないのではないかという現実を垣間見た気がした。

行方不明者の遺体の引き上げがあった宮古島、平良港を出る自衛官は笑顔を見せた

「365日3食無料」が自衛官募集のキャッチコピーになる今、「経済的徴兵制」という言葉が現実味を帯びている。貧困や教育制度の不備を理由に選択肢を制限され自衛官になる者もあり、彼らもまたこの構造の犠牲者であるという視点も忘れてはいけない。雇用先の少ない島嶼部では、公務員の職に就くことは、重要な収入源だという現実がある。

自衛隊への反対運動を続ける宮古島市議の下地茜さんに話を訊いた。

「島を出なければならなくなるかもしれないし、戻ってこられるのかもわからない。そういう感覚を島外の人にわかってほしいんです。

この島で生まれ育ち、何十年も住んできた、この風景やリズムは自分の生き方そのものです。それが壊れるのは、先祖だったり、いろんなものを奪われる感覚で簡単な話ではないんです。そこに後から基地を作ったのが島外の皆さんです」

「ジュネーブ条約に基づけば、非戦闘員である民間人は保護されなければならない。有事が起きれば、逃げ場を失うこの島々に基地を作るということは、それと矛盾します。自衛隊がいたら国際法上、逆に住民を守れなくなる。今、広まっている自衛隊が助けてくれるという考え方は、理解がひっくり返っている。そういう誤解の上に基地が誘致されてしまっています」

自衛隊基地賛成派の60代女性にも話を聞いた。

「デニー知事は中国と外交するなんて、お人好しだ」と激しく批判しながらも、「この陸自ヘリの事故は、何も情報が公開されない。私らに納得のいく説明なんてきっとされない。裏に何があるかわからない。不安でしょうがない」と本音を口にした。

今回の事故や防衛省の情報公開に対する不満と不安感。その疑念だけはこの島に暮らす人々に共通していた。

墜落機のフライトレコーダーの情報公開が待たれる中、この事故から1ヶ月が経過した。

この間にも、宮古、石垣、与那国を取り巻く状況は目まぐるしく変化している。

4月22日、浜田防衛大臣は北朝鮮の偵察衛星に備える破壊措置準備命令を出し、石垣、宮古、与那国へのPAC3の配備を決定した。このうち、石垣島だけが駐屯地外(市街地に近い港湾地域、先月ミサイルが搬入された埋立地が有力)に配備されるとの懸念がある。合理的な配備ではないことはすでに専門家たちによって指摘されている。

4月25日、石垣島では、自衛隊駐屯地に関わる石垣市有地が無断で使用されているとして、住民側が市を相手取った損害賠償裁判に勝訴した。法的根拠や住民との合意形成を無視した、なし崩しの基地建設の一端が法廷で明るみになった形だ。

5月7日、与那国島の自衛隊駐屯地の拡張(ミサイル部隊の配備)が計画されている地域に16世紀の集落の遺跡があることが判明した。

5月11日、政府は土地利用規制法に基づく「特別注視区域」に、石垣島、宮古島、与那国島の自衛隊施設などを指定する方針を固めた。土地規制法は、私権の制限や恣意的な運用の懸念があり、この法案自体への「注視」が必要だ。

同じ頃、米誌「TIME」の表紙に岸田文雄首相が登場し、「岸田氏は平和主義を捨てて、日本を真の軍事大国にしたいと望んでいる」というタイトルがつけられたが、外務省からの申し入れでこの文言は変更された。

政府自民党は、東日本大震災の復興のための震災復興税を防衛費に流用できる法案を今週中にも可決する見込みだ。

5月15日、与那国島では防衛省の説明会が開かれ、ミサイル基地配備が明らかにされた。少し前まで「懸念」だったことが次々と具体化されている。

人口5万5千人、この島々で生まれ育ち、生きると決めた人たちの気持ちを私たちはどれほど想像できるだろうか。

石垣島、与那国島、宮古島とまわり、島の行方と自分の人生が一体となった人々の価値観や存在について、私自身も突きつけられる取材となった。

住む土地を好き勝手に選んだ私のような根無し草の大和人移住者には到底理解できない感覚、島の風土が自分のアイデンティティと混ざり合った人々の言葉に私は、大きな隔たりを感じ、ショックを受けた。しかし、その価値観の隔たりを知ることこそ理解の入口なのかもしれない。

今の社会の構造を決定しているのは、私のように愛する土地を持たない都市部の人間たちが大多数だ。島外の私たちは島々で暮らす人の気持ちを、逃げ場所がない人々の気持ちをどこまで背負えるだろうか。少なくとも彼ら彼女らから決定権を奪っている現在の構造を私は肯定することができない。

池間島から見える陸自ヘリ墜落現場
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プロフィール

大袈裟太郎
大袈裟太郎●本名 猪股東吾 ジャーナリスト、ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。
やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 
2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、2020年は米国からBLMプロテストと大統領選挙の取材を敢行した。「フェイクニュース」の時代にあらがう。

 

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