宮古島・陸自ヘリ墜落現場では何が起こっていたのか

取材・文・写真/大袈裟太郎
大袈裟太郎

ネット上で巻き起こった他国の攻撃説について

事故当初、ネット上を賑わせたのは他国からの攻撃説だった。この説は防衛省が公式に否定している。ミサイルやドローンなどの外部からの攻撃の場合、爆発音がするはずだが、その爆発音を聞いた者がいないことが大きな根拠だ。また、2019年に宮古島駐屯地に配備された第7高射特科群は、中距離地対空誘導弾を使用し、他国の艦船からのミサイルを迎撃する部隊であるため、攻撃があった場合、この部隊がいち早く察知するであろう。

事故直後から、宮古島-沖縄島間の中国艦船の通過とこの事故を結びつけるような報道があったが、公海を通過しただけの違法性のない行為を違法かのように、危機を煽るメディアには不信感を覚えた。

個人的な現場での体験を合わせると、捜索現場で自衛官が白い歯を見せて笑うことがあったり、夜の繁華街で私服の自衛官たちが焼肉を食べながら談笑する場面にも遭遇した。仮に他国からの攻撃を組織的に隠蔽しているとしても、そんな非常時に自衛官たちが焼肉を焼きながら乾杯するとは思えない。もちろん、九州以南のトップと宮古島駐屯地のトップが同時に事故で亡くなり、依然事故原因も判明せず行方不明者がいる状態で焼肉を焼く自衛官たちにはいささかの違和感があるが、現実とは案外そんなものなのかもしれない。

捜索を続ける自衛官たち。池間島

元自衛官に今回の事故の話を聞いた。事故原因については、「例えば鳥がヘリの尾翼にぶつかるだけで墜落の恐れはある」と話す。また、現場で笑顔を見せる自衛官の存在については、「普段の駐屯地施設内の作業から解放された安堵感あるのではないか。一概に自衛官と言っても立場や所属部隊によって、教育内容や意識は全く異なる。現在の自衛隊内部の構造では、国防を担っているという自覚のない、ただ上司の命令を聞いているだけの者も多い実状がある」と分析する。さらに「自衛隊幹部でなければこんなに大規模な捜索にはならなかったでしょうね」とも寂しげに語った。

島にリゾートバイトとして訪れ半年になる飲食店アルバイトの20代女性は、「自衛官のお客さんも多く、駐屯地開設4周年のお祭りに私も参加した」と言う。

「店が暇な時にネットで情報を集めている。お客さんとして飲みに来た隊員かもしれないなあと不安になる。あの事件以降、夜の飲食店に自衛官は来なくなった。今は遺体が流れてくるかもしれないから怖くて海には行けない。こんなことはあまり言ってはいけないけど、海に落ちてまだ良かったかもしれない。街に落ちていたらもっと巻き込まれて死者が出たかもしれない」と、ため息まじりに心情を語った。

島で観光業を営む50代の男性は、「観光業なのでキナくさい話にはできるだけ関わりたくない」と前置きした上で、「島の中ではできる限り自衛隊車両とすれ違いたくないが、この1週間で一生分の自衛隊車両とすれ違った」と話す。

「中国の撃墜とか、攻めてくるとか、いい加減にしてほしいですね。防衛省が予算を増やすための口実でしょう」と周囲を気にしながら言う。

「前市長が自衛隊誘致がらみで逮捕されたのも島民としては恥ずかしい限りです。かといって今の市長も、市長になりたかっただけの人に見えますが……」と前市長の逮捕に触れた。これはとても重要な話だ。

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プロフィール

大袈裟太郎
大袈裟太郎●本名 猪股東吾 ジャーナリスト、ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。
やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 
2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り、2020年は米国からBLMプロテストと大統領選挙の取材を敢行した。「フェイクニュース」の時代にあらがう。

 

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