学びを能力主義から解きはなつ[前編]

勅使川原真衣×鳥羽和久「学びは誰のもの?」対談
勅使川原真衣×鳥羽和久

観察は因果を見つけるためではない

勅使川原 今の話って、観察の重要性の話でもありますよね。

鳥羽 そうですね。竹端寛さん(兵庫県立大学教授、福祉社会学者)との対談にもありましたね。

勅使川原 『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』対談2ですね。国民的名探偵になぞらえた観察の極意。

鳥羽 竹端さんに「観察すること、ちゃんと聞くことはなぜ重要なんですか? どうすればいいですか?」と聞かれた勅使川原さんがすぐに即答しているのがかっこいいんですよ。「想像しない、予測しない」って言ってるんですよね。まさにそれだと思います。

最近、観察するのは大事なことだと広まってきましたけど、とても大きな誤解も生まれています。観察する=うまく解釈しなくちゃいけない、分析しなくちゃいけないって思われています。でも、それってむしろ気詰まりや硬直化の原因になりますよね。

勅使川原 観察眼みたいなものがどこかにあると思われてるんだ。でも、予測しないために見るって感じなんですけどね。

鳥羽 そうですよね。さっきドゥルーズの話をしましたが、彼が精神分析に対して特に批判したのは、「欲望を解釈するな」ということでした。欲望はそこで動いてるんだからそれを見るだけなんだ、と。それを解釈したら、物語的回収になって、そこで膠着化して、同じ人生が回り続けてしまうから。

ただ、観察するっていうのは、忍耐が必要だから、言うほど簡単ではないんです。

勅使川原 特に我が子は見ちゃいられないですよね。いや、すごく難しい。

鳥羽 そうなんですよ。観察した結果、むしろ因果で片付けようとしてしまうっていうことが、めちゃめちゃ起こってる感じます。

勅使川原 どこで?

鳥羽 真面目なお母さんとかがよくやります。真面目な人ほど。もうね、切実ですよ。生きてるって感じはしますけど。

勅使川原 因果が欲しいんですよね、安心するんですよね。わかるなあ……。

撮影:畑中潤 
構成:大岩有理奈

(後編につづく)

次回の後編は、7月中旬に公開予定です。鳥羽さんが塾を続けるなかでの責任の考え方や、特権性と能力主義の相似形についてお二人が語りひらいていきます。お楽しみに!

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関連書籍

働くということ 「能力主義」を超えて

プロフィール

勅使川原真衣×鳥羽和久

勅使川原真衣(てしがわら まい)
1982年、横浜市生まれ。組織開発専門家。おのみず株式会社代表。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。ボストンコンサルティンググループ、ヘイグループなど外資コンサルティングファームでの勤務を経て、2017年に独立。企業をはじめ病院、学校などの組織開発を支援する。また、論壇誌やウェブメディアなどにおいて多数の連載や寄稿を行っている。著書に、紀伊國屋じんぶん大賞2024で第8位となった『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)、新書大賞2025の第5位に入賞した『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)のほか、『職場で傷つく─リーダーのための「傷つき」から始める組織開発』(大和書房)、『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』(編著、東洋館出版社)、『格差の”格”ってなんですか?―無自覚な能力主義と特権性』(朝日新聞出版)、『学歴社会は誰のため』(PHP新書)がある。2020年に乳がんと診断され、闘病中。

鳥羽和久(とば かずひさ)
1976年、福岡県生まれ。株式会社寺子屋ネット福岡代表取締役。学習塾「唐人町寺子屋」塾長、単位制高校「航空高校唐人町」校長、オルタナティブスクール「TERA」代表として、150名あまりの十代の子どもたちとかかわる日々。著書に『君は君の人生の主役になれ』(ちくまプリマ―新書)、『「推し」の文化論』(晶文社)、『おやときどきこども』(ナナロク社)など。編著に『「学び」がわからなくなったときに読む本』(あさま社)。専門は精神分析、日本文学。

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