トランプはロシアと結託して米国民主主義を壊そうとしている?

米国ニュース解説「トランプ弾劾・解任への道」第5回
矢部武

「ロシアのおかげでトランプは当選した」

 さらに懸念されるのは、米国の民主主義が外国からも攻撃を受けていると指摘されていることである。

 情報当局者としての長いキャリアとトランプ政権下の米国への懸念などについて述べた新著『Facts and Fears(事実と恐怖)』を刊行した、ジェームズ・クラッパー前国家情報長官(DNI)は5月23日、PBSニュースの番組で、「ロシアの介入のおかげで、トランプ氏は勝利したと思う」と驚くべき見解を述べ、理由をこう説明した。

「2017年1月に我々が正式に情報機関として評価を行った時、ロシアが選挙結果に影響を与えたかの判断はしませんでした。その権限や能力もありませんでしたから。しかし、政府の仕事を辞めたいま、一市民としてこれまでに得た情報に基づき、考えうる限り、ロシア側の大規模な動き、その影響を受けた人たちの数、選挙結果を左右するために彼らが行なった様々な取り組み、そして3つの激戦州でわずか8万票未満の差で、選挙結果が決まったという事実を考えると、ロシアが選挙に影響を与えなかったというのは、私に言わせれば信じたくても論理を飛び越えています。ロシアが選挙結果を決めたと私は思っています」

 さらにクラッパー氏は「ロシアの目的は米国の民主主義の土台となる制度を弱体化させることにあるのではないか」と警告し、こう続けた。

「この国の制度はいま、内側と外側の両方から攻撃にさらされている。外側はロシア、内側はトランプ大統領です。大統領は、長い間米国のために重要な役割を果たしてきた制度を攻撃しています。このような制度はもろいのです。時間をかけて育んでいかないと、なくしてしまう恐れがあります。今の状態は政情不安定な小さな国とあまり変わりません」

 クラッパー氏の見解をもとに考えると、ロシアの介入のおかげで大統領になったトランプ氏がロシアと「結託」して米国の民主主義を壊そうとしているように思えてくる。はたしてそれを防ぐ手立てはあるのか。

 前出のシフ議員はABCの番組で、「大統領の立場を利用し、次から次へと嘘をまき散らす大統領と、それを喜んで支える共和党主導の議会、それに対抗する方法は1つです。“くだらない奴ら”を追い出すしかない。極めて非倫理的な大統領のしたい放題にさせる勢力が多数を握っている現状を変えなくてはならない。我々はそのために闘っていきます」と決意を新たにした。

 11月の中間選挙で民主党が下院の過半数を奪還すれば、トランプ大統領の弾劾訴追案が可決される可能性が高くなる。あるいは過半数を取れなくてもそれに近い議席を取れば、一部の共和党議員の賛成によって訴追案の可決が可能となる。

 ウォーターゲート事件では1974年7月27日、下院司法委員会がニクソン大統領の弾劾勧告案を可決したが、その時に6人の共和党議員が賛成に回ったことがわかっている。それをきっかけに議会での弾劾ムードが一気に高まり、下院本会議で弾劾訴追案が可決される見込みになったが、その前にニクソン大統領は辞任したのである。その時の様子やプロセスについては、拙著『大統領を裁く国 アメリカ』で詳しく説明しているので、参照されたい。

 今回もガウディ議員のようにトランプ大統領にはっきり異議を唱える共和党議員はいるので、共和党の協力を得られる可能性はあるのではないか。すべてはモラー特別検察官の最終報告書で、トランプ大統領のロシア疑惑と司法妨害に関する確たる証拠が示されるかにかかっているように私は思う。はたして歴史は繰り返されるのか。

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プロフィール

矢部武

矢部武(やべ たけし)

1954、埼玉県生まれ。国際ジャーナリスト。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。銃社会、人種差別、麻薬など米深部に潜むテーマを描く一方、教育・社会問題などを比較文化的に分析。主な著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)『大麻解禁の真実』(宝島社)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)。

 

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