福島、中間貯蔵施設ルポ

異常な公共事業の実態―――井戸川前町長に同行取材

日野行介(ひの・こうすけ)
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「30年後にどうなっているのか、それを見定めるまで俺は死ねない」

 井戸川さんと中間貯蔵施設を巡る因縁は深い。双葉町は事故で被災した市町村で唯一、福島県外に住民を避難させ、埼玉県加須市の旧県立騎西高校に役場と避難所を設けた。井戸川さんにとって、これは事故の早期幕引きを目指す「国策」との孤独な闘いの始まりだった。
 住民の被ばく対策として、避難よりも除染に舵を切った政府は、事故から半年後には中間貯蔵施設を双葉に押し付けようと動きを本格化させる。関係する政治家や官僚、そして福島県の幹部たちがあの手この手で井戸川さんの説得を試みる。当時は表向き予定地も決まっておらず、福島県も正式には受け入れを表明していない。しかし実際には内堀雅雄副知事(現知事)が旧知の環境省幹部と裏で交渉しており、保管期間を「最長30年」と区切り、名称に「中間」を入れるよう話を付けた。最初から受け入れを前提とした「出来レース」だったのだ。
 魑魅魍魎とも言える政官界において、唯一本音で話せると感じていた大臣から、井戸川さんはこう耳打ちされた。
 「井戸川さん、中間貯蔵施設を受け入れたら、国はこの事故から手を引くぞ」
 中間貯蔵施設の役割は、物理的な「放射能のゴミ箱」より、この事故を形ばかり終わらせる「幕」にあった。
 井戸川さんは、将来的に帰還を待つため町民がまとまって暮らせる「仮の町」構想を掲げ、一人抵抗を続けた。
「なぜ双葉が放射能ごみを引き受けなければならないのか」「汚染者負担の原則を守れ。東電の責任で処分しろ」
 だがウソだらけの国策に正論は通じない。同じ立場であるはずの周辺市町村の首長たちからも「うちが早く復興するため引き受けてほしい」と見放された。
 筆者は2012年10月16日、旧騎西高校を訪れ、初めて井戸川さんに会った。被ばく影響を調べる県民健康管理調査(現県民健康調査)の「秘密会」問題を毎日新聞紙上で報道した直後で、紙面を貼ったスクラップブックを前に、「ありがとう、ありがとう」と、涙ながらに握手を求められたのを今も覚えている。
 折しも国と福島県の包囲網が強まっていた。同年11月20日、福島県の東京事務所で佐藤雄平知事(当時)と2人だけで面会。中間貯蔵施設の受け入れを強く求められた。井戸川さんは断固拒否を貫き、話し合いは決裂した。当時つけていたノートにはこう書かれている。
 「『何で双葉町なんだ』『被ばくを放置している』と言うが答えない。放射能が濃いからといって除去して弁済せずにさらに放射能の貯蔵という美名の下で住めなくされることに断固反対する。県民のための県庁ではない」
 井戸川さんはさらに追い込まれていく。足元の町議会が同年12月、「双葉町だけが復興から取り残される」として、不信任決議を可決。井戸川さんは町議会解散に打って出た。だが状況好転の兆しは見えず、13年2月、ついに辞職を余儀なくされる。
 井戸川さんは2015年5月、たった一人で東電と国に対する損害賠償訴訟を起こした(東京地裁で係争中)。中間貯蔵施設についても、「国と東電の責任を不問に付し、双葉町に転嫁する以外の何物でもない。町の生活環境を長期破壊し、帰還の願いに反する」と厳しく批判している。

 それにしても、この原発事故と中間貯蔵施設を巡る経緯を振り返ると、100年以上も前に明治憲法下で起きた足尾鉱毒事件と酷似している。田中正造らの必死の抵抗もむなしく谷中村は遊水地の底に沈み、農民たちは散り散りになった。ウソと押し付けで公害の幕引きを図る為政者の有り様は変わらない。
 筆者が足尾鉱毒事件について触れると、井戸川さんはいつもより多弁になった。
 「田中正造の一途な思いは共感できるよ。あの『押し出し』は一揆みたいなもんだ。でも、ああはなりたくない。町民を巻き込みたくないから裁判も一人でしているし、最後は俺だけになると思う。実はあそこに新しく家を建てるつもりなの。世界のニュースになるでしょ。100歳まで生きなきゃならない」
 井戸川さん独特の偽悪的な表現で分かりにくい。でも本音はきっとこうだ。
 「30年後にどうなっているのか、それを見定めるまで俺は死ねない」
 たった一人の闘争継続宣言だった。

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除染と国家 21世紀最悪の公共事業

プロフィール

日野行介(ひの・こうすけ)

1975年生まれ。『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』著者。毎日新聞記者。九州大学法学部卒。1999年毎日新聞社入社。大津支局、福井支局敦賀駐在、大阪社会部、東京社会部、特別報道グループ記者を経て、水戸支局次長。福島県民健康管理調査の「秘密会」問題や復興庁参事官による「暴言ツイッター」等多くの特報に関わる。 著書に『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』(いずれも岩波新書)、『原発棄民 フクシマ5年後の真実』(毎日新聞出版)等。

『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』

 
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