──ジンバブエの歴史的政変は、他のアフリカ諸国にはどのような影響を与えうるとお考えですか? アフリカには”独裁”といわれる国がまだまだ存在しますが、たとえば「アラブの春」のように、ジンバブエで起きた変革が周辺の国々に広がっていくといったことは起こりうるのでしょうか。
赤道ギニアやウガンダ、カメルーンなど、ジンバブエの周辺にも同じ大統領が20〜30年留まり続けている国はありますが、個人的には「アラブの春」のようにドミノ倒しで変革が起きていくようなことは起こらないと考えています。ただ少なくとも、今回の一件が周辺国のリーダーたちに緊張感を与えていることは間違いないでしょう。
37年続いたムガベ政権は、世界でもまれな長期政権でした。それがいとも簡単に、こんなにあっさりと退任を迫られて政変が起きてしまった。もちろん、政変が起きる前には長い間国民の不満が溜まり続けていたという状況があってのことですが、今回の政変は、「失政を続ければ政権は滅びる」ということを周辺国にまざまざと見せつける結果となりました。ソーシャルメディアのようなツールが出てきたことで市民によるムーブメントは起きやすくなっていますし、今後も、些細なきっかけで政変は起こりうるでしょう。
──朝日新聞の記事では、大統領がムナンガグワ氏になったからといって国に民主化がもたらされるわけではないとの懸念もある、という街の声を取り上げられていました。今後のジンバブエ社会について、ウォッチしておくべきことはなんでしょうか?
ムナンガグワ氏は、ムガベ氏の長年の側近として仕え、反政府勢力の弾圧にも関与したと言われています。国民の間には「強権支配は続く」という懸念の声があるのは事実です。いま国民がいちばん求めているのは、経済の回復と雇用の増大です。ジンバブエは金やダイヤモンドも採れる資源の豊富な国ですし、タバコや綿花の栽培が盛んな農業国でもあります。「ビクトリアの滝」など世界的観光地もあるので、国としてのポテンシャルは高い。なので政治がうまく回れば、国民全体に恩恵を与えていくことも可能だと思います。新政権が、欧米諸国からの投資を呼び込みながらいかに経済の舵をとっていくのか。また、ムガベ政権末期に関係を悪化させてしまった中国といかにうまく付き合っていけるかという点にも注目をしています。
そして南アフリカのアパルトヘイトや、ルワンダのジェノサイドのときと同様、ジンバブエでも国の状態が悪化した期間に多くの優秀な人々が国を離れています。今後国の状況が好転することで、海外で教育やスキルを得たジンバブエ人が祖国に戻り、活躍していく──そうした好循環を生み出していけるのかというところにも注目しています。
──日本ではなかなか詳しく報道がされなかったジンバブエ政変ですが、BBCやCNNといった世界各国のメディアでは大きく取り上げられていました。国際社会の観点から考えると、今回の政変にはどんな意味があったといえるのでしょうか。
今回の政変をクーデターと呼ぶかどうかは評価が分かれるところですが、個人的には軍が主導している点でクーデターといえると思います。そしてそのクーデターが平和的に行われ、37年続いた政権を終わらせることに成功したというのは特筆すべきことです。人を誰も死なせずに独裁者を退陣させたというのは、極めて奇跡に近い。権力は絶対的なものではないと示したことは、国際社会にとっても意味のあることでしょう。
経済面でも、大統領が交代したことで、今後は海外企業がジンバブエに進出しやすくなる可能性はあります。実際、今回の政変後、欧米の企業関係者は続々とジンバブエに視察に訪れ、農業や観光、医療分野などでの投資を検討しています。南アフリカの実業家は、地元メディアに「12億ドル以上をジンバブエに投資しようと思っている」と発言しました。豊富な資源をもつジンバブエが、グローバルビジネスの新たなフロンティアになれるかもしれません。可能性に満ちたジンバブエの今後を、私も見守っていこうと思います。
(取材・構成/宮本裕人)
プロフィール
1981年生まれ。朝日新聞ヨハネスブルク支局長。ロンドン大学東洋・アフリカ研究学院修士課程修了。長く所属していた大阪社会部では、学校法人「森友学園」の小学校建設を巡る問題などを取材した。共著に「子どもと貧困」。趣味は国内外問わず、旅行。「広い世界を見たい」と思い、記者を志した。