ジンバブエの独裁者を追い落とした「妻への愛」

朝日新聞ヨハネスブルグ支局長・石原孝氏インタビュー【前編】
石原孝

2017年11月、ジンバブエを37年率いたロバート・ムガベ氏(93)が退任した。
この歴史的政変はいかにして起きたのか。
ニュースでは伝えられていない、政変の裏に隠された人間ドラマとは。
現地を取材した朝日新聞ヨハネスブルク支局長・石原孝氏に訊いた。

──まずは、ジンバブエの政権交代が起きた経緯をあらためて教えてください。

車上で歓声を上げるハラレの若者たち

ムガベ氏の退陣を受け、 首都ハラレは興奮のるつぼと化した(撮影/石原孝)

背景としては、ムガベ氏という、ジンバブエが1980年に独立したときからずっと実権を握っていた人物の後継者選びをめぐって与党内で対立が起きていました。ところがムガベ氏は、大統領に立候補をしていた妻グレース氏に肩入れをして、ムナンガグワ副大統領(当時)を11月16日に突如解任。それをきっかけに、ムナンガグワ氏と関係の深かった国軍が反乱を起こすことになります。その結果、国民や与党、そして退役軍人の会までもがムガベ氏に「NO」を突きつけ、辞任に追い込んだというのが経緯になります。

──政変の起きた2017年11月21日、ハラレの街はどのような様子だったのでしょうか? 37年続いた政権が変わった瞬間というのは。

ホテルから街に出た瞬間に、人々がジンバブエ国旗を掲げている光景を目にしました。アジア人の私に対しても、こぶしを突き上げて、「自由だ」「インディペンデンスだ」と言って、ハイタッチを求めてくる人もいました。みんながハイになっていて、知らない人同士でも抱き合ったり、握手をしたり。踊り出す人や喜びを歌う人、そしてなぜか腕立て伏せをしている人も(笑)。他人のクルマの上に乗って騒いでもその日はもうご愛嬌という感じで、「お祭り騒ぎ」とはまさにこういうことを言うのだと思いましたね。

アフリカでは、治安当局からにらまれるのを避けるため、カメラを向けられるのを嫌がる人が多いのですが、その日はむしろ、自ら「写真を撮ってくれ」と言う人が多かったのも印象的でしたね。日本の記者だと私が言うと、「この歴史的な日を世界に伝えてくれ」と。政変に対する人々の期待の大きさを肌で感じ、歴史的な瞬間に立ち会えたことに私自身も興奮しました。

──それから3週間ほど経ち、現在の街はどのような様子なのでしょうか?[編注:この取材を行ったのは2017年12月上旬]

日常を取り戻したハラレ中心部

ムガベ氏の退陣表明から3週間後、平穏を取り戻したハラレ市内(撮影/石原孝)

ハラレ中心部でも、地方でも、政変の起きた日はお祭り騒ぎでしたが、その翌日にはもう普段通りの平穏が戻っていました。ムナンガグワ氏は、37歳以下の、つまり大多数のジンバブエの人々にとっては初めての「新しいリーダー」になります。新政権に対する期待は大きいけれど、国民もまずは冷静に様子見をしている、というのが現状かと思います。

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プロフィール

石原孝

1981年生まれ。朝日新聞ヨハネスブルク支局長。ロンドン大学東洋・アフリカ研究学院修士課程修了。長く所属していた大阪社会部では、学校法人「森友学園」の小学校建設を巡る問題などを取材した。共著に「子どもと貧困」。趣味は国内外問わず、旅行。「広い世界を見たい」と思い、記者を志した。

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