2017年11月に起きた、ジンバブエの歴史的政変。
政変がアフリカ諸国に、そして国際社会に与える影響とは何か。
現地を取材した数少ない日本人、朝日新聞ヨハネスブルク支局長の
石原孝氏が、ジンバブエの革命を読み解く。
──石原さんが政変の日にハラレの街の様子を撮られた動画では、多くの若い世代が歓喜の声をあげている姿が映されていました。南アフリカやケニアではデジタルネイティブであるミレニアル世代が国に新しい価値観をもたらしているといわれていますが、ジンバブエでも、世代間の価値観の違いは大きく表れているのでしょうか?
そうですね、政変当日に街に出ていたのも、国立競技場で行われた新大統領の就任式に参加をしていたのも若い世代が多かったです。40〜50代くらいの人に話を聞くと、高望みはしない、今の生活を安定できればいいと言う人が多いのに対して、若者はもはやそれだけでは満足できない。長いこと同じリーダーのもとで国が疲弊してきた状況のなかで、若い世代のほうが変革を求めていたというのは確かだと思います。
大学を取材したときにも、学生たちは「ムガベ氏の退陣が決まるまでは授業に出ない」とデモを行っていました。そうした光景を見ると、アフリカの若者には、日本の同世代以上に将来に対する飢餓感、ハングリー精神があるように思います。政治に限らずクリエイティブやテクノロジーの分野でも、そうした若者たちのハングリー精神がいま、大陸の状況を変えつつあるように思います。
──取材中に出会った若者たちから聞いた言葉で、印象に残っていることはありますか?
「表現の自由がない」という声はよく耳にしました。こちらでは取材を行っていても、コメントをしたくない、あるいは名前は明かさないでほしいと言う人がいます。それは政府批判をした人が警察に拘束されるといった出来事が、人々の身近なところで起きているからです。
そのためジンバブエでは、新政権に対して、経済回復と同時に表現の自由を求める人々も多くいます。言いたいことをもっと言える国にしてほしい、と。若者たちは、InstagramやFacebook、Twitterといった「自分を表現できる媒体」がすでに数多くあるにもかかわらず、本当に思ってることが言えないという状況に鬱憤を感じている。当たり前のようにトランプ米大統領の批判をしている欧米の姿を見て、その状況をうらやましく思っているところはあると思います。
欧米に対する嫌悪感も、いまの若い世代にはそこまでないように思います。ムガベ氏は、イギリスをはじめとした欧米諸国を「敵」とみなすことで自国民を団結させるような政治戦略をとってきましたが、若者たちにとっては相手が白人でもアジア人でも関係ない。いまの10〜20代は植民地時代を知らない世代であり、彼らのなかには、世界の国々ともうまくやっていかなければいけないという意識があるように思います。
プロフィール
1981年生まれ。朝日新聞ヨハネスブルク支局長。ロンドン大学東洋・アフリカ研究学院修士課程修了。長く所属していた大阪社会部では、学校法人「森友学園」の小学校建設を巡る問題などを取材した。共著に「子どもと貧困」。趣味は国内外問わず、旅行。「広い世界を見たい」と思い、記者を志した。