2019年春、ロシアで。取材こぼれ話3

宇都宮直子
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 少し話が逸れますが、日本人やアメリカ人は、どうして『時差が無い』がごとく振る舞うのでしょう。時差については、もっと深く掘り下げて考えるべきです。
 自分で認めていようと認めていなかろうと、時差は明らかに存在します。でも、偉大な選手は、時差に勝る目標があれば、時差ぼけの感触をぬぐってしまう。
 だけど、時差ぼけを調整する日々は、とても危険な日々なのです。それを、コーチも選手もなかなか理解しない。どうしてその危険性を理解しないのか。私にはそれこそ、まったく理解できません。
 外国に行って、頭痛がしたり、眠くなったりするのは、人間にとって自然のことなのです。
 これまで、千回以上、口を酸っぱくして説明をしてきたのですが、私の言うことは理解されませんでした。
 羽生には、最大限の注意を払ってほしいと思っています。どうか、怪我を繰り返さないでほしい。祈るような思いです。
 今、羽生と競える資質を持っている選手は世界に数人しかいません。ネイサン・チェンと宇野昌磨だけだと思います。
 そのうちの誰がオリンピックに勝つのか。蓋を開けてみないとわかりません。とても楽しみです」
 タラソワの言葉は、常に理性的だった。情熱的でもあった。フィギュアスケートへの愛で溢れていた。
「愛は、対象が何であってもかまわないのです。人はいつでも愛に対して準備ができていなければなりません。
 愛より強いものは、存在しない。この世でいちばん大きなエネルギーが愛なのです。祖国に対しても、家族に対しても、全部が『愛』なのです」
 自分はそもそも人間というものを愛しているのだと、タチアナ・タラソワは話した。  

 

 

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プロフィール

宇都宮直子

ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また4月には『三國連太郎、彷徨う魂へ』が刊行されている。

 

 
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