『世界を戦争に導くグローバリズム』 中野剛志著

緊張感高まる世界の因果をとく名著 森 健

 ウクライナ、中東、東アジア ……。世界各地で緊張が高まっている。日本ですら、いつ不測の事態が起きてもおかしくない状況だ。世界が不安定化した背景には、中国の台頭やクリミア半島問題などさまざまな理由がある。だが、もっとも大きな要因は米国の凋落だろう。冷戦終結後、比類なき超大国として君臨した米国は急速にその地位を落としつつある。
 では、なぜ米国は衰退し、国際秩序は混迷化しつつあるのか。
 今回中野剛志が取り組んだのがこのテーマだ。視点の核としたのは、米国の外交政策における「理想主義」と「現実主義」という二つの戦略構想だ。理想主義は自由や民主主義といった理念のもとに外交戦略を進める考え方で、現実主義は軍事や経済のパワーバランスを重視して無理はしない考え方である。
 じつは理想主義を掲げた大統領は実際の外交においてほとんど失敗している。代表例はイラク戦争に突き進んだブッシュ前大統領だ。「十字軍」のように中東の民主化を掲げたが、現実にはフセイン時代よりもイラクを悪化させた挙句、中東全体をも混乱させた。理想主義は十九世紀に始まる「門戸開放」政策にも通じるが、米国は自ら門戸を広げると他国に自国と同じ価値観を押し付けてきた。それこそグローバリズムの原点でもある。
 本書で著者は、日米中、中東、ロシアと混迷する地域を指定し、各地域での国際関係の経緯と因果関係を豊富な知見によって明かしていく。多くの中野の本と同様、本書でも「なぜ起きたのか」という原理を捉えようとする知的試みは旺盛だ。いま世界にある緊張は、どのような国家の関係でなぜ起きているのか。事実に潜む関連性からその因果関係を明らかにする。その論理構成にはすぐれた推理小説を読むようなおもしろさがある。
 ただし、本書における中野の憂いはいつになく濃い。とりわけ日本については「中国による武力攻撃を抑止できないという可能性」はこれまでになく高いという悲観的な考察に至っている。では、どうするべきかという議論は、ジョン・ダワーらの著作(『転換期の日本へ』)にも接続する問題だが、本書での言及は示唆に留めている。そこにもまた著者らしい慎重な姿勢がある。

もり・けん ● ジャーナリスト

青春と読書「本を読む」
2014年「青春と読書」10月号より

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