『スノーデン 監視大国日本を語る』 エドワード・スノーデン/国谷裕子 他 著

我々はスノーデンの警鐘を有意義に活かせるか 山崎雅弘

山崎雅弘

 米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)などが世界各国で秘密裏に行う、電子的手段による市民の監視について、同局の元上級職員という経歴を持つエドワード・スノーデン氏が衝撃的な内部情報の公開を行ったのは、今から五年前の二〇一三年だった。だが、日本では一時的にメディアを賑わしたものの、彼が明らかにした情報や、彼が鳴らしたプライバシー侵害への警鐘が持つ深い意味が、国民の間で共有されているとは言いがたい。
 本書は、昨年集英社新書より刊行されて大きな反響を呼んだ『スノーデン 日本への警告』の続編ともいうべき内容で、国谷裕子氏のスノーデン氏へのインタビューをはじめ、二〇一七年十月に東京で行われたシンポジウムでの、人権保護団体代表や国連特別報告者などの講演を収録している。特に興味を惹かれるのは、NSAが「【XKEYSCORE/エックスキースコア】」と呼ばれる国民監視の電子的ツールを制限付きで日本政府に提供したという指摘で、日本政府はこの絶大な威力を持つ道具を手に入れるという目的もあって、特定秘密保護法や共謀罪など、担当大臣ですらその必要性を論理的に説明できない法案を慌ただしく成立させたのだという。
 現在では、通話やチャット、メールなどのコミュニケーションに加え、健康管理などもスマホのアプリで行う人が増えているが、それらが政府に盗み見される可能性を心配する声はほとんど聞かれない。本書は、この問題の危険性を改めて考える上で重要な論点を多く含んでいる。
 顔認証技術の進化で、防犯カメラの画像に映る個人を高い精度で特定することが可能となった今、ジョージ・オーウェルがSF小説『1984』で描いた悪夢のような「監視社会」が、世界中で形成されつつある。しかし多くの人はその隠された危険性に気付かず、PCやスマホのカメラレンズをシールで塞ぐことすらしていない。
 一人一人の市民がプライバシーを自分で管理することの意味を、スノーデン氏は我々に問いかけるが、我々は彼の警鐘を有意義に活かせるだろうか。

       やまざき・まさひろ ●戦史・紛争史研究家

★「青春と読書」9月号 「本を読む」より転載

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