橋爪大三郎 中田考著

西洋近代主義vsイスラーム 緊張感に満ちた、火花の出るような対談──白井聡

白井聡

 今日、イスラーム世界の内在論理を知ることが待ったなしの課題であることは、言うまでもあるまい。そして、一体それがどのような点で西洋由来の近代主義と衝突を起こすのかを知ること。日本には中田考という特異な知性が存在するおかげで、私たちは、イスラーム世界との接触が歴史的に薄かったにもかかわらず、これらの課題に翻訳を介してでなく直接取り組むことができる。このことは僥倖(ぎょうこう)と呼ぶべきだ。
 他方、対話の相手を務める橋爪大三郎は、社会学・政治学・宗教学等々にまたがる博覧強記的な知識を援用して、近代主義の原理、まさにそのエッセンスを抉(えぐ)って取り出してみせる。そして、同意できない部分についてはきわめて明確にその意を表明しているが、同時にそれはもちろん近代主義(つまりは西洋中心主義)を正当化するものではない。これほど緊張感に満ちた、火花の出るような対談を読んだのは、実に久方ぶりの経験であった。
 しかも、対談のテーマは「戦争」である。その戦争はすでに始まっており、私たちもそれに関与している。例えば、日米安保条約による米軍への基地提供といったかたちで。今日の悲惨な日本の政治的現実からすれば夢物語のように聞こえてしまうであろうが、本来ならば、「文明の衝突」(サミュエル・ハンチントン)において、西洋でもイスラームでもない日本は、文明間の緩衝材、もっと言えば、媒介者・調停者として機能しうる潜在力があるはずだ。現に、中田が在籍していた同志社大学は、2012年にタリバンを含むアフガニスタンの諸武装勢力の代表者とアフガン政府当局者を京都に集め、「アフガニスタンにおける和解と平和構築」という国際会議を催し、成功させた。こうした力を活用できるかどうかは政治の意志次第であるが、その意思形成のためには、「文明の衝突」の内在論理を私たちは理解しなければならない。
 二つの知性の格闘は、何とかして最悪の衝突を避けなければならない、という切迫感に満ちている。この感覚が広く共有されるとき、右に述べた夢物語は夢物語ではなくなるはずだ。

しらい・さとし●政治学者

★「青春と読書」1月号「本を読む」より転載

 

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