なぜ極右の躍進は止まらないのか フランスから考える 第4回

なぜ富裕層は極右を支持するのか?(下)

森野咲

昨今、日本では排外主義や自国第一主義を掲げる政党が選挙で議席を伸ばしている。ヨーロッパをはじめとする世界各地での極右政党躍進の流れが、いよいよ到来したとの見方もある。では、極右の「先進地」とも呼べるヨーロッパでは、極右はどのように勢力を拡大してきたのだろうか? フランスの大学院で哲学を学ぶ森野咲が、現地での最新の研究や報道の成果をもとに、極右の成長、定着の背景やメカニズムを明らかにする。極右と経済界の接近を分析した前回に引き続き、今回は極右の経済的思想・政策の変容を探る。

極右の経済イデオロギーの柔軟さ

 EU脱退や反グローバリズムを主張する極右は、長らく経営者層からはタブー視される存在であった。2002年のルペンショック時からしばらくの間、財界は極右の経済プログラムを保護主義、通貨・金融の不安定化、対外イメージの悪化を招く「ビジネスリスク」と見なしていた。しかしそんな極右が今日、大衆的な支持のみならず財界からの一定の承認も得るようになっている。ではなぜ財界は極右に歩み寄るのか。その背景には、極右の経済イデオロギーに見られる「柔軟さ」がある。

 典型的なのはFrexit(ユーロ離脱・EU離脱)の完全放棄である。国民連合は、ジャン=マリー・ルペン時代に掲げていたFrexitという最も恐れられていたカードを今では引っ込めている。「フランスを守る」は残し、EUとの「喧嘩」は強調しつつも、実質的にはEUへの残留を前提にしているのである。さらに2017年以降、国民連合はビジネスに適合するために、経済プログラムを減税・規制緩和の方向性に再設計している。たとえば国民連合は「生産税の引き下げ」をはっきり擁護するが、これはMEDEFや大企業ロビーが長年求めてきた要求そのものである。

 2024年に、国民連合党首のバルデラは「中小企業の経営者も大企業の経営者も、経済再建には皆さんの力が必要です。私の野心は、成長の足かせをすべて外すことです」といった発言をしている。この発言を見ると、「小さい・大きい」企業を一括して抱き込むレトリックに、「成長の制約を外す」という超典型的な新自由主義フレーズが重ねられていることがわかる。

ジョルダン・バルデラ(左)とマリーヌ・ルペン(右)
ジョルダン・バルデラ(左)とマリーヌ・ルペン(右) 写真:AFP/アフロ

 とはいえ、極右の経済路線は単なる新自由主義よりも可変的である。たしかに、極右のなかには新自由主義傾向の強い勢力も存在する。たとえばエリック・ゼムール率いる「再征服」は、医療を含むあらゆる分野での民営化を推進している。一方、国民連合は高速道路の国有化を唱えながらも、同時に公共放送の民営化を主張するなど、その経済政策は振り子のように揺れている。

 極右がこうした柔軟な経済政策を取りうるのは、経済が彼らにとって中核的な理念ではなく、あくまで「排外主義」「権威主義」「ポピュリズム」という三要素――極右を定義づける核心的な価値(詳しくは第一回を参照)――を実現するための「道具」として位置づけられているからである。極右にとって経済問題は一次的ではなく二次的な論点にすぎず、経済は常に国民(nation)に奉仕すべきものだとされる。ゆえに、自由主義的議論は既成政党の力を弱めるために使われ(例:既成政党が支配する公的機関の民営化)、社会的措置は国民を保護・強化するために支持される(例:農業や家族への補助)。

 さらに、多くの極右政党はほぼ恒常的な野党という、制約や検証されることの少ない立場で投票最大化を志向する政党であるため、「大盤振る舞い」を行う――企業や中間層には減税を、(自国の)社会的弱者には給付拡充を、といった具合に。その帰結として、一見矛盾した公約が並立することになる。すなわち、下層の有権者に対しては「国民優先の福祉」を掲げる福祉排外主義を訴え、上層・財界に対しては「市場経済の容認」を示す二重構造が生まれる。たとえば2023年にバルデラは、「勝利のためには、エリートの一部を大衆ブロックに結びつけなければならない。『成功しているフランス』に語りかけ、安心させる必要がある」と発言している。言い換えれば極右とは、「大衆」と「エリートの一部」をナショナリズムの名の下に結合させるプロジェクトなのである。

 多くの論者は、こうした「二重人格的」社会経済アジェンダを極右のアキレス腱とみなしてきたが、いくつかの実証研究は(少なくとも短期的には)この戦略が奏功する可能性を示している。すなわち、極右はネオリベラルと福祉排外主義の政策・レトリックを併用することで、経済的嗜好の異なる有権者群を同時に惹きつけるのである。自営業者と労働者という相反する両集団は、それぞれ極右の矛盾する経済政策のうち、自らにとって魅力的な側面を根拠に「正しい党」に投票していると思うことができる。このことは、彼らが政権を担い政策を実施する段階になれば問題になるが、多くの場合それは理論上の問題にとどまる。なぜなら現実的に、彼らは政権の座から遠いからだ。

極右の経済プログラムの軸

 ここからは具体的に極右の経済綱領を見ていこう。

 第一の特徴として挙げられるのは、企業や富裕層の優遇を恒常化しようとする傾向である。極右勢力の経済政策は、雇用主負担の社会保険料や生産税の軽減・廃止、法人税の引き下げ、相続税や贈与税の優遇措置、さらには富裕税の廃止を示唆するなど、一貫して上位所得層や大企業に有利な方向へと設計されている。国民連合が掲げる「賃上げ」政策も、その名とは裏腹に、実質的には雇用主負担の免除を通じた企業支援策であり、低賃金層の底上げよりも経営側の負担軽減を主眼としている。前述した、より新自由主義的傾向の強い「再征服」のプログラムを見ると、生産税や中小企業への課税を各種「非課税化」することで事業者の手取りを増やす一方で、社会保険の財源は縮小させる構造を伴っている。

 第二の特徴は、「経済愛国主義」という看板と実態との乖離である。極右はしばしば「再工業化」を訴えるが、その内容は減税や補助金、「産業特区」の設置などの優遇措置の列挙にとどまり、どの産業をどのような目的で育成するのかという明確な戦略を欠いている。さらに、「大衆に寄り添う」イメージとは裏腹に、こうした産業重視の姿勢は住宅などの社会的ニーズを後景化させている。2024年の国民連合のプログラムでは原子力の推進を「再工業化」の軸としているが、税負担の軽減や規制緩和を通じて企業競争力を高めようとする基本方針は連続している。

 第三に、「国民優先(préférence nationale)」の制度化が挙げられる。極右は雇用、住宅、社会給付の分配において外国人を排除または制限しようとする立場を取る。さらに、国や自治体の発注においても国内企業を優先するなど、保護主義的な措置を主張する。家族政策では出生主義的な発想に基づき、「フランス人」家族の優遇を打ち出している。なお、これらの「国民優先」措置はEU法や憲法上の平等原則と抵触する可能性が指摘されており、少なくとも現行の法制度の下では法的実現可能性には大きな疑義がある。

 最後に、公共部門のイデオロギー的な再編が進められる。コロナ禍以降、病院の「擁護」を掲げながらも、極右は公共サービス全般について、「需要には最低限応えるが、国家統制や民営化によって主導権を握り直す」という両義的な姿勢を取る。特に教育分野では国家の統制強化を志向し、公共放送については民営化の方向を明確に打ち出している。つまり、全体としては国家による統制の強化と社会の市場化を、同時に進めようとするのである。

 総じて、極右の経済・公共政策は、選別的な再分配と「自国民ファースト」を軸に、統制強化と民営化を併用する構造をもっている。極右は市場優先・減税・社会保険料削減といった新自由主義的処方を、「国民優先」「経済的愛国主義」といった排外的ナショナリズムと結合させる。これは単なる新自由主義とも反資本主義とも異なり、「排外主義を基盤とした柔軟な経済ナショナリズム」と言えるだろう。

極右は新自由主義の最後の砦

 単なる新自由主義とも異なるとはいえ、やはり極右の経済政策の中核には、国家の縮小、減税、民営化、社会保障削減など、従来の新自由主義的方針が維持されている。国民連合はそれらの要素を否定することなく、むしろ制度として引き継ぎながら、「国民保護」や「経済的愛国主義」といったレトリックで再包装している。極右台頭を支える一つのメカニズムは、新自由主義的改革が生んだ不満を動員しつつ、その政策枠組み自体は実質的に継承するというパラドックスを、巧みに処理している点にある。

 新自由主義のパラドックスを抱えたまま権力を獲得するためには、保護を求める大衆層と市場の自由を望む経営者層という相反する期待に同時に応えながら、矛盾する利害をひとまとまりに編成する戦略が不可欠である。実際、極右は異なる利害を持つ層を結合させることで、その支持基盤を段階的に拡大してきた。1980年代には小ブルジョワジー層を中心とした支持層、1990年代以降は社会的地位の低下を恐れる下位中間層を取り込み、近年では富裕層や大ブルジョワジーの一部にも浸透している。こうした三段階の支持拡大の波を経て、極右は今日、より広範な社会的支持を形成するに至っている。

 こうして形成された階級的に異質な支持層のブロックは内部に緊張を抱え込んでいる。そこには経済的にも社会的にも矛盾する利害、すなわち、ブルジョワジーの利益と大衆階級の不安が共存することになるからである。では、極右はどのようにして、このように相反する利害をもつ階級を束ねているのか。

 鍵になるのは、「新自由主義」が政策としてだけでなく、世界観・道徳感情としても共有されているという点である。彼らの共通点とは、「怠惰な被扶助層」への反感や「国家依存の否定」といった新自由主義な自己責任論を内面化していることである。さらに、極右はこうした新自由主義的世界観をレイシズムへ変換する。すなわち極右は、新自由主義的な枠組みを維持したまま、そのコストや犠牲を最も社会的・経済的に不安定な「人種化された集団」、すなわち移民、非白人、ムスリムなど「本当のフランス人ではない」とみなされる集団に転嫁することを約束するのである。この点、2024年にマリーヌ・ル・ペンが経済紙『レ・ゼコー』に寄稿した論説は示唆的である。金融市場に向けて「責任ある財務規律」を強調し公的赤字削減を掲げるその緊縮政策の中身は、「社会保障における不正との闘い」、企業に対する規制撤廃、国家機構の整理といった新自由主義的な常套句に、外国人嫌悪的言説やフランス企業を公共調達で優先する「国民優先」原則を重ね合わせたものになっている。

要するに、極右は新自由主義的秩序を否定するのではなく、それをレイシズムによって補強することで、受け入れ可能なものにしているのである。よって、レイシズムとは極右が大衆階級を分断させ、「人種化」されたスケープゴートの階級に新自由主義のコストを押し付ける政治戦略のための、必要条件なのである。

新自由主義との断絶を目指す左派

 今日のフランスの政治は、以下のような三つ巴構造によって特徴づけられている。

  • ブルジョワ・ブロック:親欧州的・管理主義的で、新自由主義的改革を明示的に擁護するが、社会経済的には上層の一部に凝集しているため、構造的には少数派にとどまる。
  • 極右ブロック:大衆的・アイデンティティ重視の動員を行い、象徴的な「大衆の保護」を約束するが、経済的には新自由主義的枠組みを実質的に受容している。
  • 左派ブロック:左派連合を軸に構成され、新自由主義への適応と断絶のあいだで緊張を抱える。

 今日のフランスの三つ巴政治の硬直は、新自由主義的地平が揺らぐなかで、いずれのブロックも安定したヘゲモニーを確立できていない点に由来する。ブルジョワ・ブロックと極右ブロックはこの地平の内部に位置するのに対し、左派は断絶を試みるが、ヘゲモニーの不足と制度の制約に直面している。

 経済的ヘゲモニーの中心であったマクロン派ブルジョワ・ブロックが求心力を失ったことが、極右の躍進を後押しした。つまり、経済格差の拡大と社会的分断の深化により新自由主義ヘゲモニーが衰弱したことで、ブルジョワ・ブロック内部の一部が動揺し、「支配的秩序を維持できる唯一の勢力」として極右へ合流する動きが進行しているのである。

 極右は、あたかも資本主義と敵対しているようなレトリックを使い、「資本主義と社会主義という対立を超える第三の道」だと自称する。だが実際に想定される極右の統治とは、言わば資本主義の「ファシスト的管理」である。つまりそれは、政治的自由や民主的権利――とりわけストライキ権や自由な組織化の権利――を抑圧し、例外的な国家形態のもとで資本主義を運営するあり方である(プーランツァス(*1)の言う「例外的な資本主義国家」)。

「反リベラルな民主主義よりも、リベラルな独裁を好む」と述べたのはハイエク(*2)だが、ブルジョワ・ブロックと極右ブロックは、その社会的構成こそ異なるものの、こうした新自由主義的パラダイムを共有している。この共通点こそが、現在のフランス政治において極右を体制外勢力ではなく、むしろ新自由主義秩序の権威主義的延命装置として機能させている。

 したがって、左派が対抗しているのは極右ブロックだけではない。極右が利用している不満の源泉――格差の拡大や生活不安――を生み出してきた政策枠組みが温存されるかぎり、ブルジョワ・ブロックと極右ブロックは接続しうる。左派が断絶を目指すべきは、まさにこの接続を可能にしている新自由主義的枠組みそのものなのである。

*1 ニコス・プーランツァス(Nicos Poulantzas, 1936-1979)は、マルクス主義の立場から資本主義国家の構造と機能を分析した理論家。「例外的な資本主義国家(exceptional capitalist state)」とは、資本主義の危機局面において、議会制民主主義の「通常形態」では統治が困難になった場合に出現する非常化・強権化した国家形態(例:ファシズム、ボナパルティズム、軍事独裁など)を指す。
*2 フリードリヒ・A・ハイエク(Friedrich A. Hayek, 1899–1992)は、新自由主義を代表する経済学者・社会思想家である。主著『隷従への道』では、経済計画が政治的自由の制約へと連鎖しうると論じ、新自由主義的な政策の構想に理論的影響を与えた。

参考文献

Cas Mudde, Populist Radical Right Parties in Europe, Cambridge University Press, 2007.
Les Économistes Atterrés, Un décryptage des programmes de l’extrême droite, 2022.
Bruno Amable, Stefano Palombarini, L’illusion du bloc bourgeois : alliances sociales et avenir du modèle français, Liber/Raisons d’agir, 2017.
Rassemblement National, Programme – Élections 2024(2024年国民連合プログラム綱領), PDF, 2024.
Grégoire Chamayou, La société ingouvernable, La Fabrique, 2018.
(『統治不能社会——権威主義的ネオリベラル主義の系譜学』, 信友建志訳, 明石書店, 2022 (電子書籍版).)
Nicos Poulantzas, Fascisme et dictature, Seuil/Maspero, 1974.
(『ファシズムと独裁』, 田中正人訳, 社会評論社, 1978.)


 第3回
なぜ極右の躍進は止まらないのか フランスから考える

昨今、日本では排外主義や自国第一主義を掲げる政党が選挙で議席を伸ばしている。ヨーロッパをはじめとする世界各地での極右政党躍進の流れが、いよいよ到来したとの見方もある。では、極右の「先進地」とも呼べるヨーロッパでは、極右はどのように勢力を拡大してきたのだろうか? フランスの大学院で哲学を学ぶ森野咲が、現地での最新の研究や報道の成果をもとに、極右の成長、定着の背景やメカニズムを明らかにする。

プロフィール

森野咲

(もりの さき)

1996年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、大杉栄や石川三四郎に憧れて渡仏。パリ郊外サン=ドニにあるパリ第8大学哲学科の修士課程2年に在籍中。専門はフランス現代哲学。現在、『ふぇみん』に「極右とフェミニズムの不幸な結婚」を連載中のほか、自身のnoteで「極右の傾向と対策」と題したマガジンを発表している。

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