トランプ大統領の注意は今、外交的には米朝首脳会談、内政的にはロシア疑惑捜査の2つに向けられているが、本稿では後者のテーマに焦点をあててレポートしていこう。
トランプ大統領は就任以来、司法省やFBI、情報機関などを激しく攻撃し、米国の民主主義制度の基準や規範、法の支配を危険にさらしている。特に攻撃対象にしているのは、ロシア疑惑などを捜査しているモラー特別検察官、その捜査を監督するローゼンスタイン司法副長官、モラー氏の捜査に協力するレイFBI長官などだが、大統領がここまで現在進行中の捜査に干渉し、脅しをかけているのは「ウォーターゲート事件」で辞任に追い込まれたニクソン大統領以来だと言われている。はたしてトランプ大統領は「ニクソンの二の舞」となるのか。
「米国史上最大の魔女狩りだ」
モラー特別検察官が任命されてからちょうど1年が過ぎた5月17日、トランプ大統領はこうツイートした。
「アメリカよ、おめでとう。米国史上最大の魔女狩りが2年目に入った。共謀も司法妨害も見つからず、選挙に勝てない民主党の結託が明らかになっただけだ」
「共謀」とは2016年の大統領選でトランプ陣営がロシアと協力して、対立候補のクリントン氏にダメージを与えようとしたのではないかという「ロシア疑惑」、「司法妨害」はトランプ大統領がロシア関連の捜査を止めさせるためにコミー前FBI長官を解任したのではないかとするものだ。
コミー前長官が解任された8日後に、政治的に独立性の高いモラー特別検察官が任命され、「ロシア疑惑」と「司法妨害」の捜査は現在に至っているが、トランプ大統領のツイートとは反対に新たな事実がどんどん出てきている。
これまでロシア人13人が、米大統領選でトランプ氏に有利になるような手段で介入したとしてモラー特別検察官に起訴され、また、トランプ大統領の元側近ら6人が共謀、偽証、詐欺、資金洗浄などの容疑で起訴されている。さらにトランプ大統領の長男ジュニア氏が、2016年6月にトランプタワーでクリントン候補に不利になる情報を得るためにロシア人弁護士らと面会していたことが明らかとなり、大統領がその事実をいつ知ったのかが問題となっている。
このように数々の展開があったわけで、大統領がモラー氏の捜査を「でっち上げ」とか「魔女狩りだ」と非難するのは全くの的外れだ。
プロフィール
矢部武(やべ たけし)
1954、埼玉県生まれ。国際ジャーナリスト。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。銃社会、人種差別、麻薬など米深部に潜むテーマを描く一方、教育・社会問題などを比較文化的に分析。主な著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)『大麻解禁の真実』(宝島社)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)。