1970年代から最近までの日本人の結婚観をたどった新著『日本婚活思想史序説―戦後日本の「幸せになりたい」』(東洋経済新報社)が刊行された。約半世紀の間に、日本人の結婚観はどのように変わったのだろうか?
著者の佐藤信さん(東京大学先端科学技術研究センター助教)にお話をうかがった。
――最初のご著書が1950年代に社会党委員長として活躍した鈴木茂三郎の評伝(『鈴木茂三郎 1893-1970』藤原書店)で、二冊目が60年代に関する研究『60年代のリアル』(ミネルヴァ書房)です。今回の『日本婚活思想史序説』では70年代から現在までを扱っていますが、問題意識になにか連続性はあるのでしょうか?
佐藤 いえ、最初の二冊は政治学研究者としての本業で、今回のような「結婚」とか「婚活」についての研究は本業の傍らで行っている「夜店」のつもりで始めました。調査や執筆も、当初はあくまでも研究時間外に取り組むようにしていました。
僕のこの研究室の本棚にも、専門である政治学に関する書籍が並んでいますが、その裏に隠すようにして婚活本が置いてあるときがあります。実は二重構造になっている(笑)。
――あっ、本当だ。よく見ると佐藤栄作の研究書の後ろに「婚活本」がある!
佐藤 なので連続性はありません……というのはさすがに言い過ぎですが、純粋に内容面で考えても、連続というよりは断絶の方が大きいという風に言えると思います。
例えば、60年代論では特に政治運動・学生運動に注目して、80年代生まれの自分にとって「60年代がわからない」ということが動機となっていました。今でこそ反原発や安保法正反対のデモに若者も参加していますが、私が大学に入学した2007年当時は、学生がデモに行くなんて珍しいことでした。
逆に、60年代の若者を見ていると、デモに行かない方がおかしいという空気がある。現在の状況とは大きなギャップがあるわけですね。この違いは何で生じるのだろう、という極めて強い違和感からスタートしたのが60年代の研究です。
それとは逆に「夜店」の『日本婚活思想史序説』では、70年代、とりわけ80年代からは、いわゆる「婚活」という言葉は無いけれども、事実上「婚活」みたいな考え方や行動が生まれていて、それが現在に繋がっているということを論じています。歴史の遠さではなく、歴史の近さに注目しているわけです。
プロフィール
政治学者。1988年奈良県生まれ。2015年より東京大学先端科学技術研究センター助教。専門は日本政治外交史。著書に『鈴木茂三郎 1893-1970』(藤原書店)、『60年代のリアル』(ミネルヴァ書房)、共編著に『政権交代を超えて 政治改革の20年』(岩波書店)、共著に『天皇の近代 明治150年・平成30年』(千倉書房)など。