11月22日~24日、札幌市の真駒内で開催されたフィギュアスケートのNHK杯、前回の連載では羽生結弦のショートプログラムとフリーを私なりに振り返りました。今回は、ほかの競技スケーターのプログラムや、羽生結弦を含めたエキシビションのプログラムで特に心に残った演技を振り返りたいと思います。
■男子シングル
- ケヴィン・エイモズ(総合2位)
フランス人の友人知人には、個人の美意識や感受性を突き詰めるタイプが多いと感じます。そんな国民性は、フィギュアスケートの選手たちの中にもおおいに息づいていると感じる私です。
フランスの男子シングルの選手というと、伝説のフィリップ・キャンデロロをはじめ、ブライアン・ジュベール、フローラン・アモディオ……、「どこまでも自分の世界観、自分のフィギュアスケート観にこだわることで、個性を発揮してきた名選手」が多いと言いましょうか……。エイモズもその系譜の中に入る、見ごたえのある演技でした。
特にショートプログラム、プリンスの「粘りとキレ」が融合したようなボーカルとメロディラインによく合った、氷にエッジを密着させつつスピードを出していくスケーティングを堪能しました。
コンビネーションジャンプのトリプルルッツの余裕のある高さ、そして足替えのキャメルスピンのポジション変化にもうなりました。キャッチフットの際にフリーレッグが落ちるのを最小限にとどめ、キャッチした瞬間にスッと回転スピードを上げているのも、非常に繊細なテクニックを要するものだと思います。
- セルゲイ・ボロノフ(総合4位)
現役選手としての活動期間が短いといわれるフィギュアスケート。選手の体にかかる負担の大きさ、そして「現役選手は『プロスポーツ選手』ではないため、獲得賞金や年俸で生活していくことが難しい」という事情など、困難は幾重にも取り巻いている状況です。そんな中で32歳の現在も現役選手を続けてくれていること自体、ありがたさしかありません。
ショートプログラム、4回転トウとトリプルトウのコンビネーションジャンプが決まった瞬間、すでにこみあげるものがありました。
選手にはそれぞれにさまざまな事情があるのは理解しているつもりですから、「〇歳まで続けてほしい」という希望を持つことは控えようと思っていますが、「ボロノフ自身が納得できる選手生活を送ってほしい」と願わずにはいられません。本当に会場で鑑賞できてよかった、と思わせてくれる選手です。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。