11月22日~24日、札幌市の真駒内で開催されたフィギュアスケートのNHK杯、私は幸運にも現地で観戦することができました。
このNHK杯、「羽生結弦のショートプログラムとフリー」、そして「それぞれのカテゴリーおよびエキシビションで、心に残った選手たちの演技」を2回に分けて書き綴っていけたらと思います。
■羽生結弦
◆ショートプログラム
前シーズンから継続して演じている『Otonal』、ライブで鑑賞すると、あらためて羽生結弦のスケーティングの圧倒的な伸びに感嘆するばかりです。
拙著『羽生結弦は助走をしない』の中で、私は羽生のスケーティングの魅力をこういうふうに表現しました。
「厳密な体重移動を実現しているため、瞬間的に正しいエッジに乗っている。そのため、乗った瞬間より、流れの中でスピードが速まる」
「信じられないほどのスピードを出しつつ、本来あるはずの体重をまるで感じさせない。そんな『エアリー感』を実現させている」
「体重がかかっていないわけではありません。体重がかかっていなければ、そもそもあんなにスピードは出ませんし、『1歩』の距離も伸びるはずがないからです」
今回、『Otonal』は、そのスケーティングの凄みをただただ堪能しました。
要素の実施順に綴っていきます。
- イナバウアーから左右の足を踏み替えてのステップ、そしてインサイドのイーグルからさらに左右の足を踏み替えてのステップ。リンクの短辺部分を往復するほど長く、なめらかなトランジションから跳ぶ4回転サルコー。
着氷時の右足のバックアウトサイドエッジが、フォアのアウトサイドエッジに切り替わり、イナバウアーへと移行していく。バックからフォアへと切り替わってから、エッジのスピードが上がること。そこからイナバウアーまでの、圧倒的な距離の出方。4回転ジャンプを跳んだ後のトランジションであることが信じられないほどのクオリティです。
こういったスケーティングのスピードや距離の出方を体感できること……、私にとって、選手の演技を会場で見られる醍醐味のひとつです。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。