12月5日から8日まで、イタリア・トリノで開催されたフィギュアスケートのグランプリファイナル。
私としては「結果」以上に熱い「期待」を受け取ることができた大会でした。男子シングルと女子シングル、そしてジュニア男子のシングルを、選手ごとに振り返りたいと思いますが、今回は、羽生結弦に関して、私が大いに心を動かされたことを綴らせていただければと思います。
- 羽生結弦
羽生結弦の今シーズンのショートプログラム『Otonal』、そしてフリー『Origin』の演技の振り返りは、この連載の第17回、NHK杯についてのエッセイで、自分なりに詳細に綴っているつもりです。
https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/column/skate2/7584
ですので、今回は「新しい羽生結弦」から受け取ったものを書かせていただきたいと思います。
ショートプログラムで2位発進した後の、フリーに向けての公式練習中にトライした、4回転のアクセル!
ニュース番組で見た限りでは、空中の回転軸がブレていない。そのことに何より驚きました。ニュースでは3回のトライアルの様子を映していましたが、3回のジャンプがすべて、「軸が確かだった」ように見えました。
これだけの高さと回転スピードを出していれば、強烈な遠心力で軸が斜めに振れてしまっても、それはまったく不思議ではない。それが真っすぐな状態をキープしている。本当に、本当に驚きましたし、ワクワクしました。
なんと言えばいいか……。
「羽生結弦というスケーターにとって、4回転アクセルは単なる『夢物語』ではなく、『モノにできる可能性が十二分にある技』である。そのことを見せてもらえた」
という印象を強く受けたのです。
正直、私はこの練習の様子を見るまで、「4回転アクセルは、どのように跳び、どのように回れば可能なのか」ということが、微塵もイメージできませんでした。それが、
「ここから何かの扉が開いて、『あと少しの高さ、あと少しの回転』がもたらされれば、羽生結弦が最初の4回転アクセルの成功者になれる」
というイメージができるようになりました。それがこのグランプリファイナルで、もっとも嬉しいことのひとつでした。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。