特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第18回

NHK杯の名演技と、羽生結弦の『春よ、来い』に感じた「世代をつなぐバトン」

高山真

  • 三浦璃来&木原龍一(総合5位)

 2位のムーア=タワーズ&マリナロのスピードと情感を両立させた演技も、3位のミシナ&ガリアモフの、サイドバイサイドのトリプルサルコー~シングルオイラー~トリプルサルコーの3連続ジャンプにも心からの拍手を送りつつ、三浦&木原組の素晴らしさを綴らせてください。

 ショートプログラム、フリーとも本当に素晴らしい演技でした。今年の7月末にペアを組むことを決めたというのが信じられない!

 もちろんこれは、「お互いが以前に組んでいたパートナーとくらべて、今のパートナーがすぐれたスケーターである」ということでは決してありません。そうではなく、

「アイスダンスにせよペアにせよ、『パートナーと滑りの相性が合うかどうか。技に入るタイミングが合うかどうか』は、本当に重要なんだ」

 ということを再認識したのです。

 木原龍一は、平昌オリンピックでは須崎海羽とペアを組んでいました。そのときのサイドバイサイドジャンプはトリプルルッツを目玉にしていました。ただし、ジャンプに入るまでの軌道がふたりで大きく異なっていました。単体でも難しいトリプルジャンプを、技に入るタイミングや空中での回転速度、ランディングの姿勢まで合わせていくことは本当に大変でしょう。だからこそ、「もともとのクセが似ている」ことは「ギフト」といってもいいほどの幸運である、と思ったのです。

 三浦と木原のサイドバイサイドはトリプルトウ。ジャンプに入る前から着氷後まで、そのユニゾンに、私は「ギフト」を感じました。

 カナダで、ほかのペア選手たちと一緒に練習ができていることも、大きくプラスにはたらいているのは間違いないでしょう。

 結成3ヶ月ほどで、素晴らしいポテンシャルの高さを見せてくれたこと。そして、ショートでもフリーでも、点数が出た瞬間、ふたりして喜びを爆発させていた様子に、目頭が熱くなりました。

 本当に、本当に、続けることを決心してくれて、ありがとう。

 

■アイスダンス

  • ガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン(総合1位)

 競技スケーターであることは間違いないのですが、なんと言いますか……。

「勝負としての、競技としての演技と、『観客を心ゆくまで楽しませる。酔わせる』という目標。そのふたつを、どれだけ高い次元で両立させるか」

 ということにフォーカスを定めているような感じさえします。

 リズムダンスでは、競技者に共通して課せられているパターンダンスを実施していても、際立って「1歩」が大きく、なめらかでスピードがあるため、客席からの俯瞰で見たときに、何か違う軌道を描いているような気さえします。

 加えて今シーズンの使用曲『フェイム』と、そのコスチューム! 80年代のカルチャーをリアルタイムで知る者としては、ひれ伏すほどの喜びです。そんなサービス精神が、「幽玄」と表現したくなるほどのスケーティングと結びついている……。

 男子シングルのエイモズについての感想で書きましたが、フランスのスケーターの

「どこまでも自分の世界観、自分のフィギュアスケート観にこだわることで、個性を発揮してきた選手」

 の中には、アイスダンスの名カップルであるマリナ・アニシナ&グウェンダル・ペイゼラももちろん入っていますが、パパダキス&シゼロンも、すでにそんなレジェンドスケーターに並ぶ位置にいるような……。

 ここから先、どんな世界を創出してくれるのか。競技スケーターにそこまで求めてるのは、もしかしたら「違う」のかもしれません。ただ、パパダキス&シゼロンなら、それを可能にしてくれる……と期待している私もいるのです。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

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NHK杯の名演技と、羽生結弦の『春よ、来い』に感じた「世代をつなぐバトン」