特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第18回

NHK杯の名演技と、羽生結弦の『春よ、来い』に感じた「世代をつなぐバトン」

高山真

  • 山本草太(総合5位)

 山本草太の今シーズンのプログラムのことは、このエッセイの第16回で綴っています。

https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/column/skate2/7322

 そのプログラムを会場で見られたことはもちろん大きな喜びです。スケーティングの「一歩」の大きさ、端正なスケーティングと、背中に「よくしなる芯」が一本入っているかのような美しい上半身のムーヴ、その融合を心から堪能しました。

 私にとって、今シーズンの山本草太に関していちばんうれしいのは「北京オリンピック出場」という明確な目標を口に出してくれたことです。ケガからの復帰に賭けてきたこの数シーズンで、ある程度の手ごたえを得たからこそ、「もっと大きな目標に向かって歩き出せる」という、次の段階へ進めたのではないか。だからこそ、大きな目標も口に出せるようになったのではないか……。そんな推察ができることが、本当にうれしい。

 病気を得ている私自身の経験にすぎませんが、肉体であれ精神であれ、調子というものは、いつも必ず右肩上がりの線を描くとは限らない。短期的、一時的に、下降線を描くことも当然あります。しかし、少し長いスパンで見たときに、「〇か月前よりもいい感じ」と思えたら、それが「うまくいっている」証明になると思っています。

 山本草太の、フィンランディア杯の素晴らしいショートプログラム(2019 Finlandia Trophy SP)を、私はすでに滂沱の涙で鑑賞しました。あの位置に到達できた山本です。数年後にさらなる高みに上がれるはず……と確信しているのは、ファンの欲目だけではないと信じます。

 ただただ、体を大切に。それだけを願ってやみません。誰よりも山本自身が強く願い、目指している道。その道を順調に歩けますように!

 

  • 島田高志郎(総合9位)

 テレビは、人間の体を実際よりはるかに「横に大きい」サイズに見せるメディアだと思います。今までの仕事柄、芸能人にインタビューしたり、ドラマや映画の製作発表に行ったことは何十回とありますが、そのたびに、芸能人が目を疑うくらいに細かったり小顔だったり、という現場に遭遇してきました。

 フィギュアスケートの選手たちも、テレビで見るよりはるかに細い。その中でも島田高志郎は「全選手中でトップ」と言えるほど、ギリギリに研ぎ澄まされた体型をしています。加えて、試合で見るたびに身長が伸びているような……。

 全身の骨格と筋肉のバランスが常に変わっていく、そんな中で自分のスケートの調子を合わせていくことは本当に大変だと思います。少し前まで、かなりの成長痛に悩まされていたことも、ファンの方々はよくご存じでしょう。

 前シーズンのショートプログラムには入れていなかった4回転トウを組み入れるなど、着実にプログラムの難度を上げてきているチャレンジングな姿勢に感銘を受けました。

 ドラマティックな上半身の所作と、スピード豊かなスケーティングを高い次元で融合させようという意志を感じましたし、ステップで転倒はあったものの、その「意志」は徐々に形になってきている、と確信しています。

 コーチのステファン・ランビエールとの厚い信頼関係を築いている様子が、キス&クライから遠い私の席にも伝わってきました。この明るさのまま、ますます伸びていってほしいと切に願っています。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

関連書籍

羽生結弦は捧げていく

プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

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NHK杯の名演技と、羽生結弦の『春よ、来い』に感じた「世代をつなぐバトン」