カルチャーから見る、韓国社会の素顔 第11回

『賢い医師生活』で知る、韓国の人々の幸福感や倫理観

伊東順子

みんなが「待ってました!」という、40歳の青春ドラマ

 

 ドラマ『賢い医師生活』(tvN)のシーズン2が始まった。2020年春に放映されたシーズン1から1年余り、今回はNetflixで日本も同時配信となり、周囲からも「待ってました!」という声が聞こえてくる。その一人はこのコラム連載を担当してくれている集英社の編集者さんであり、また仲良しの韓国人留学生クンなどもこのドラマがイチオシだと言っていた。

 「日本の人は『愛の不時着』や『梨泰院クラス』みたいに、派手でドラマティックなストーリーラインが好きですよね。でも僕はちょっと違っていて、もっと身近な、まるで自分のすぐ隣にいそうな人々の物語が好きです。彼らの気持ちに共感しながら見られるドラマ、たとえば『応答せよ』シリーズとか、『刑務所のルールブック』とか、『賢い医師生活』とか……」

 ちなみに彼があげた三つのドラマはもれなく、脚本家イ・ウジョンと演出家シン・ウォンホという名コンビによるもの。イ・ウジョンさんはバラエティー番組を作っていただけに、笑わせるタイミングも泣かせるタイミングも絶妙である。その合間を、韓ドラ特有のハラハラシーンが引っ張る。

 ユーモアセンスが光る新たなヒューマンドラマの新形式を作った名コンビは、最新作『賢い医師生活』でなんと、恋と友情と夢という青春ど真ん中のテーマに、40歳のエリート医師たちをぶつけてしまう。どこまでも青く、清々しいドラマなのである。

  今回もシーズン途中ということで、ネタバレはなしでドラマの背景についてみていきたいと思う。まずはメンバー紹介、そして韓国の医療制度について。なかでも医療サービスにおける格差と臓器移植の問題。さらに軍隊や宗教など日本とはずいぶん違う社会環境なども。それらを通して韓国の人々が大切にしているもの、その幸福感や倫理観などに迫れたらと思う。

 実は『賢い医師生活』というドラマのタイトルは、小学校の授業科目に由来している。1980年代から2000年代初頭まで、韓国の小学校の1、2年生で使われていた『賢い生活』という教科書は、韓国人にとって馴染み深いものだ。ちなみにこのシリーズ前作にあたる『刑務所のルールブック』もまた、韓国語の原題は『賢い刑務所生活』だった。

 郷愁を誘うのはタイトルだけではない。お医者さんたちのバンドが演奏する90年代の懐かしのヒットメロディー。

 「聞いているだけで涙が出そう。学生時代を思い出します。あの頃はみんなお金がなくて、貧乏なのも恥ずかしくなかったし……」

 当時を懐かしむ人々との話は盛り上がる。

 ノスタルジーを喚起しながら、爆速の経済発展を遂げた現在の韓国を俯瞰する。私たちは今どこにいて、何をしているのか。それは果たして、子どもの頃に学校で習ったような「賢い生活」だろうか?

 

『SKYキャッスル』は「賢くない医師生活」だったが……。

 

 『賢い医師生活』はジャンル的にいえば、手術シーンがひんぱんに登場する「医療ドラマ」である。ソウル大医学部卒の同級生5人が、ひょんなきっかけで同じ病院で働くことになる。シーズン1の時代設定は2019年現在、韓国年齢で40歳となった5人は、それぞれ立派な専門医となっている。

 

イ・イクジュン(チョ・ジョンソク)肝胆膵外科助教授、バツイチのシングルファーザー

チェ・ソンファ(チョン・ミド)脳神経外科准教授、独身

アン・ジョンウォン(ユ・ヨンソク)小児外科助教授、独身

キム・ジュンワン(チョン・ギョンホ)胸部外科准教授、独身

ヤン・ソッキョン(キム・デミョン)産婦人科助教授、バツイチ、子どもなし

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カルチャーから見る、韓国社会の素顔

「愛の不時着」「梨泰院クラス」「パラサイト」「82年生まれ、キム・ジヨン」など、多くの韓国カルチャーが人気を博している。ドラマ、映画、文学など、様々なカルチャーから見た、韓国のリアルな今を考察する。

プロフィール

伊東順子

ライター。編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房、斎藤真理子訳)の解説を担当。

 
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