連載:座間9人殺害事件裁判 第7回

座間9人殺害事件裁判「目撃されていた遺体解体」

共同通信社会部取材班

日本犯罪史上まれに見る猟奇的な大量殺人「座間事件」。白石隆浩被告が死刑判決を受けるまで、計24回の公判をすべて記録した記者たちによる詳細なレポート。 

白石隆浩被告はA、B、Cさんを殺害後、行動が大胆になっていく。これまで入念に施していた被害者の失踪工作をしなくなり、部屋に一時期同居した女性が遺体の解体現場に居合わせても、「口封じ」をせず帰宅を許した。3人を殺しても警察が来ないことに、安心し始めていた。

※白石隆浩被告は2021年1月5日に死刑判決が確定し、呼称は「白石隆浩死刑囚」に変わりましたが、この連載では変わらず「被告」と表記します。

 

2017年11月、東京地検立川支部に入る白石隆浩被告。写真提供 共同通信社/ユニフォトプレス

 10月21日午前、第10回公判が始まった。この日から4番目の被害者Dさん殺害について審理されるが、法廷ではその前に、別の女性にスポットライトが当たる。白石被告が以前の公判でその存在を明かし、この連載の第5回に登場した2人の「生き残り」の1人、Yさんだ。

 白石被告とは2017年9月12日ごろからLINEでやりとりを開始し、初めて会ったのは2017年9月14日。被告のアパートの部屋に入ったが、殺害されずに23日まで被告と過ごし、無事に部屋を出て帰宅した。Yさんは当初、「本当に死ねますか」と被告にメッセージを送っており、自殺やその手伝いをきっかけに知り合った点では他の被害者と同じだ。なのになぜ殺害されなかったのか。検察官がYさんとの関係について尋ねる。

 検察「あなたの家に来たんですか」

 白石「はい」

 検察「連れてきた理由は何ですか」

 白石「お金になるか、ならないか、見極めるため」

 検察「結果はどうでしたか」

 白石「お金になると思いました」

 検察「どういう点からそう思ったんですか」

 白石「Yさんの個人的な情報、色んな悩みを聞くうちに、収入があると分かり、お金になると思いました」

 

 Yさんの職業が「夜の商売」であることを聞き出した白石被告は「月50(万円)以上は稼いでいそうだな」と推測。レイプや殺害をせず、金を引き出させようと考えた。

 被告はさらに、Yさんが10日ほどアパートに泊まっていた間、性的な交渉を一度もしなかったと答えた。性欲を犯行動機の一つと公言する被告にとって意外と言える。その理由を、こう説明した。

「夜の仕事をしていると、色んな男性から体を求められることが多く、プライベートで求められるとうんざりする女性がスカウト時代にいました。Yさんはそういう人だと思いました。した方が親身になれる女性と、しない方が親身になれる女性がいることは経験で分かっていて、Yさんはしない方が金を引っ張れると思いました」

 スカウト時代の経験が、一連の犯行を語る中でたびたび出てきている。特に女性の心理を把握する上で、その経験は相当生かされているようだった。白石被告はYさんの滞在中に飲食費や生活費として3万円ほどを出してもらったという。

 被告が同時期に連絡を取り始めたのが、Dさんだった。ツイッターやLINEでのやりとりは、被告がYさんに会う前日の9月13日ごろから。Dさんは大学の成績で悩んでいた。15日、アパートの最寄りである小田急線の相武台駅前で白石被告と待ち合わせた。

 被告が誘い出した理由はこれまでと同じだ。女性を失神させてレイプしたいという強い願望があるものの、Yさんに対してはできない。だから別の女性で発散させようとしていた。あるいは今後、Yさんとの関わりが切れて金を引き出せなくなった時のことを想定し、別の金づるとしても期待していた。

 ただ、アパートの部屋には既にYさんが泊まっており、このままでは2人が鉢合わせする。そこで被告はDさんを部屋に招く前に、Yさんを一時的に外出させた。Yさんには「友人が遊びに来る」とうそを言い、駅前のカラオケ店で一晩を過ごすように頼んだ。Yさんはその説明に不審を感じることもなく出かけたという。

 

 ▽油断

 同じ日の深夜、正確には日付をまたいだ16日未明、白石被告は駅でDさんと合流。一緒に部屋へ行き、レイプして殺害した。

白石隆浩被告が被害者Dさんと一緒に歩いた可能性がある、最寄り駅とアパートを結ぶ道

 出会ってから犯行までの時間は、これまでの被害者3人より圧倒的に短い。時間がかからなかったのは、Dさんについては「失踪工作」をまったくしていないからだ。

 検察官に理由を尋ねられた被告は「深夜で電車もなかったし、Yさんも待たせていたので、工作せずにやってしまおうと考えました」と淡々と答えた。

 2番目の被害者であるBさんに白石被告が初めて会った時は、一緒に防犯カメラに写らないよう駅や公園でわざと距離を取って歩いていた。だが、Dさんの場合はそれもしていない。

「3人を殺害しているのに警察の調べが一切なく、聞き込みさえなく、心の中で油断が生まれたためです」

 2人で部屋に入った後、白石被告はDさんから金を引き出せそうか見極めようと話しかけたが、早々に見切りをつける。

「Dさんがすごく無口なので、仕事ぐらいしか聞けませんでした」

 大学生のDさんは飲食店でアルバイトをしていたが、被告はDさんの口ぶりや雰囲気から、収入が少なそうだと感じ取った。レイプして殺害すると決めた白石被告は「Dさんを口説きながら悩みを聞いて、酒や睡眠薬を勧めた」。床に手をつき、眠そうな様子を見せたDさんに襲いかかった。

 殺害後、Yさんが帰宅する前に遺体の解体を終えるつもりだったが、途中で眠くなり寝てしまった。16日朝、帰ってきたYさんが玄関の呼び鈴を鳴らした際は、まだ解体中だった。

 ドアを開け、Yさんを迎え入れた被告は解体場所であるトイレ側を見ないように告げ、ロフトに上がらせ、解体を続けたという。

 しかし、被告のここまでの説明は少しおかしい。ロフトを除けば狭いワンルームの部屋で、人間の遺体を解体していれば気付かないわけがなく、何事もなかったかのように2人が振る舞えるはずがない。

 検察官もこの点について疑問を投げかけた。

 検察官「友人が来て何をするか、Yさんに話した記憶はありますか」

 白石被告「推察になるが、ツイッターの人と会い、もしかしたら自殺を手伝って解体するかもしれないと事前に話をしていると思います」

 

 これまで、事件の発覚を恐れていた被告からすればとてもリスクが高い行為だ。

 検察官「Yさんから警察に伝わり、捕まるとは考えなかったのですか」

 白石「Yさんの状態を見て大丈夫だと思いました」

 検察官「状態というのは」

 白石「知り合って時間がたち、信用、信頼、恋愛、依存の感情を私に向けてきたので。警察に言えば私が捕まっていなくなり、Yさんが困ると思いました」

 検察官「Yさんに(自殺の手伝いや解体を)話して、反応はどうでしたか」

 白石「驚くこともなく『そうなんだ』と普通に聞いていた気がします」

 

 だから通報されることはないと思ったと被告は言うが、やはり信じ難い。知り合って時間がたったといっても、実際はまだ数日だけだ。

 それに、Aさん殺害の発覚を恐れ、Cさんを「口封じ」のために殺害するほど慎重だった白石被告が、Yさんの感情という不確かなものを根拠に生かしておいたのが、どうも分からない。

 被告は、Yさんが戻ってきた際の状況を改めて問われると「Yさんに『お風呂で解体しているからこっち見ずにロフトに上がって』と言いました。おそるおそるロフトに上がり、その後不安感を訴えたので安定剤と睡眠薬を渡しました」と具体的な説明に変えた。

 Yさんは、ロフトから被告が解体している場面を目撃していたらしい。「刑事さんからは、取り調べ中に『Yさんは見ていた』と言われました」

 10月26日に開かれた第11回公判では、Yさんが解体を口外しない根拠について、裁判官が改めて被告に質問した。

 白石被告は「信用、信頼、恋愛、依存などの感情を感じ取れました」と繰り返し、「しっかり口説けていたので大丈夫だと思いました」と答えるだけだった。

 被告は以前、自身が女性から「好かれるのは早いが、飽きられるのも早い」という趣旨の発言もしていたが、Yさんに対するこの自信はどこから来ているのか。納得できる答えは見つからなかった。3人殺しても警察が来ない状況に、余裕を感じていただけなのかもしれない。

 Yさんは結局、「母親が心配しているから」と言って23日、自宅に帰った。被告は「引き留めづらかった」と法廷で振り返った。帰宅後も連絡を取り、金を無心したが、振り込まれることはなかった。

 白石被告の見立て通り、Yさんは警察に解体を通報しなかったとみられる。なぜ通報しなかったのか、通報しないことに被告がなぜ自信を持ったのかは、Yさんの証言を聞かないと分からないのかもしれない。だが、Yさんはこの後も出廷することはなく、詳しい供述が法廷で紹介されることもなかった。

 

 ▽頭を下げないわけ

 ところで、公判回数が10回を超えたこの頃になると、公判中の白石被告の動作に一定のパターンがあることが分かってきた。中でも印象的なのは、被告が裁判官や裁判員に頭を下げないことだ。

 通常、刑事裁判では審理開始前に、先に着席している被告や弁護人、検察官、傍聴人らが、後から入廷した裁判官と裁判員に対し、立ち上がって一礼する。審理終了後も、先に退廷する裁判官と裁判員に一礼して見送る。

 しかし、白石被告だけは起立こそするものの、毎回、1人だけ頭を下げず、周囲よりも先に着席した。裁判官らに反感を抱いているわけではなさそうなのは、裁判官の質問に丁寧に答えていた様子でも分かる。方針が合わない弁護人に対するような、質問を無視したり、回答を拒んだりということはしない。悪態をつくこともない。

 ではなぜ、頭を下げないのだろうか。

 後日の審理で、精神鑑定を担当した医師からヒントになりそうな言葉が出て来た。医師は白石被告について「成果を求め、成果を見通す力があり、いわゆる無駄な努力を避ける」と評した。一礼することも「無駄なこと」と思っているのではないか。

 エピソードを一つ紹介したい。白石被告は過去に別事件で裁判を受けた際、倉庫会社に就職した。理由は、「裁判官に更生していることをアピールするため」だ。裁判官の心証をよくし、できるだけ刑を軽くするために就職した。その証拠に、判決言い渡し後にすぐ辞めている。

 今回の裁判では、白石被告自身は起訴内容を全面的に認め、死刑判決を予想し、裁判が早く終わることだけを望んでいる。頭を下げない被告を見て「今さら心証が良くなろうが悪くなろうが、死刑は回避できないので頭は下げない」と言っているように感じた。

(つづく)

 

執筆/共同通信社会部取材班

 

 

 

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プロフィール

共同通信社会部取材班

※この連載は、2020年9~12月の座間事件公判を取材した共同通信社会部の記者らによる記録です。新聞を始め、テレビ、ラジオなどに記事を配信している共同通信は、事件に関連する地域の各地方紙の要請に応えるべく、他のメディアと比較しても多くの記者の手で詳細に報道してきました。記者は多い時で7人、通常は3人が交代で記録し、その都度記事化してニュース配信をしました。配信記事には裁判で判明した重要なエッセンスを盛り込みましたが、紙面には限りがあります。記者がとり続けた膨大で詳細な記録をここに残すことで、この事件についてより考えていただければと思い、今回の連載を思い立ちました。担当するのは社会部記者の武知司、鈴木拓野、平林未彩、デスクの斉藤友彦です。

 
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