コロナ禍の憂鬱な日々を元気よく跳ね除け、『完全解説 ウルトラマン不滅の10大決戦』が出版された。
本書は「集英社新書プラス」にて2020年9月から2021年1月にかけて連載された「ウルトラマン不滅の10大決戦 完全解説」を元に、大幅に加筆・修正(連載時には秘められていた多くのエピソードを収録)したもの。
内容はウルトラマンvs怪獣・異星人との戦いにフォーカスし、その戦いが繰り広げられた背景、繰り出された技の数々を吟味、それらを踏まえつつ、史上最強の決戦ベスト10のランク付けにトライした意欲作だ。そこから、我らがウルトラマンとは、いかなる正義のヒーローであったかも模索している
出席者は“ウルトラマンになった男”、俳優でありスーツアクターの古谷敏と、小学生時代にウルトラマンの本放送を観て以来の大ファンであり、今回の「10大決戦」を選出した、漫画家・やくみつる、そして、司会進行を務めさせていただいた私、ライターの佐々木徹の3人が、あっちゃこっちゃ余談を飛散させながら、深掘りしていった一冊でもある。
連載を楽しみながら読んでくださった上に、すでに本書を手に取ってくださった方はおわかりだと思うが、前述したように、本書は加筆の部分、未発表のエピソードがてんこ盛り。いや、わかっております。だったら、連載時に出し惜しみせず書けよ、との指摘には大きく頷くしかありませんけども、それは構成上、泣く泣く落とすしかございませんでしたとしか言いようがない。しかしながら、本書ではしつこくなるが、今度こそ、ドドーンとすべてを御開帳。どうかひとつ、丸ごとワクワクドキドキしながら読んでいただけると、ありがたや。
と、書いているくせに、すまぬ、まだ秘められていることがあったりする。
というのは、本書は、やくみつる氏がいわゆる独自のこだわりに基づき、ウルトラマンvs怪獣・異星人との戦いのベスト10を選出した(注/独自のこだわりとはいっても、本書内でちゃんと選出のエビデンスを本人が解説)もので、そのランク付けに同意できないウルトラマンファンも大勢いらっしゃるはず。かくいう私だって「やくさん、栄光の1位にそれはないでしょ」と今でもご本人にツッコミを入れているくらいだ。
それでも、本書が他の特撮関連本とは一味違った刺激性に溢れているのは、この独断性が重要な役割を担っているからだと思う。やくみつるのこだわりと偏屈(?)さが、結局は古谷氏の記憶回路までも刺激し、これまで語られることのなかった、懐かしくも新しいウルトラマンの一面を浮き彫りにしている。
ただ、連載中にふと、やくみつる氏の強いこだわりだけで「ウルトラマン不滅の10大決戦 完全解説」を終わらせてよいものか……と思ったのも事実。
そこはひとつ、実際に怪獣・異星人と戦った、古谷氏にも個人的なベスト1を選んでいただくべきではないだろうか、と閃いた。
というわけで――ボーナストラックとして――。
めでたい『完全解説 ウルトラマン不滅の10大決戦』発刊を記念し、この場をお借りして「古谷敏が選ぶ、栄光の1位決戦」を、ドドーンと発表させていただこうと思っております。
つまり――。
古谷敏、やくみつる、佐々木徹の語らいは、まだ終わっていなかった――ということなのだ。
佐々木 いやはや、なんとか、1位まで無事にたどり着きましたね。
やく 完全に私の独断で選定しましたので、「それは違うなぁ」とか異論もございましょうが…。
古谷 ありがとうございました。面白かったですねえ。
佐々木 と、お礼をおっしゃる前に。
やく ん?
佐々木 古谷さんにも、栄光の1位を選んでいただきたい、と願っております。
やく おおお。ひょっとして私の選んだトップ10に入っていなかったとか?
佐々木 突然ですが、よろしいでしょうか。
古谷 はい。……となると……やっぱり、ネロンガ戦になりますか。
やく なんと、中島ネロンガとの一戦! これはいささか驚きました。ウルトラマン、普通に圧勝と見えておりましたもので。
佐々木 胸躍る、中島春雄さんとの初の一騎打ち!
古谷 この企画でも語ってきましたように、中島さんはすべてにおいての大先輩。顔を出しての役者としても見習うところが多かったですし、もちろんスーツアクターとしても、あのゴジラのたたずまい、迫力を生み出すために、影でどんな努力を積み重ねていたかも知っていましたしね。
やく それらの想いがネロンガと対峙したとき、溢れ出てしまったわけですね。カラータイマーの底の胸の内は、当時小2の私には察し得ませんでした。
古谷 溢れましたねえ。役者になろうと東宝の門を叩いたまではよかったけど、いざ役者部屋に入っても、右も左もわからず、ましてや将来さえも見えなかった頃に、大先輩でありながら偉ぶることもなく、遠くからなにかと自分のことを気にかけていただいていたこともわかっていましたし。いろんな場面で何気なく、さり気なくフォローの言葉をかけてくださったり。
佐々木 ええ。
古谷 そんな日々がネロンガと対峙した瞬間、溢れ出ちゃいましたねえ(笑)。
佐々木 ボロボロ、と。
古谷 中島さんとの思い出がね。
やく 中島さんも同じような感慨を抱いていたのではないですか。アイツがここまできたか、と。
佐々木 ウルトラマンになって、俺を倒そうとしてやがる、と。
古谷 ワッハハハ。
佐々木 その思い出深き一戦を振り返ってみましょう。
【バトル・プレイバック】
透明怪獣 ネロンガ
全長/45m 体重/4万t
発電所で暴れるネロンガを倒そうと光線銃で戦ったホシノ少年を救い出し、ウルトラマンに変身。両肩を軽く回し、戦いの準備万端のウルトラマンに、ネロンガは角から電気放射攻撃! それを、腰に手を当て仁王立ちのまま胸で受け止めるウルトラマン。「そんな攻撃全然効かないぞ!」と言わんばかりに、右手で2回胸を叩き、ファイティングポーズをとる。
そこにネロンガ、立ち上がりながら突進。左にかわして突き飛ばし、発電所の鉄塔群に転倒させるウルトラマン。怒ったネロンガ、そのまま尻尾を振り回し反撃すると、それがウルトラマンの左肩にヒット。倒れるウルトラマン。この一撃がかなり効いたようで、よろけるウルトラマンに襲いかかるも、ウルトラマンがかわしたため、ネロンガ、発電所横の小山に激突。
山に覆いかぶさるネロンガの背中にしがみつくウルトラマン。しかし、体を反転されて、転がり落ち、山のふもとでネロンガにマウンティングされてしまう。カラータイマーはすでに赤だ(このシーンで、当時のナレーション担当・石坂浩二氏がカラータイマーの解説をしてくれる)。なんとかネロンガを引き離し、両足キックで吹っ飛ばし、両者立ちあがって向かい合う。突進するネロンガをかわし、左脇でフロントヘッドロック。その体重に押され気味になるも、気合いで右上手投げ。
立ちあがり、またも突進してくるネロンガの下あごと(サイのような鼻先の)ツノをつかみ、そのまま下に振り下ろして膝蹴り(ニーアタック)。ツノが折れ、痛みでのたうちまわって、仰向けにひっくり返ったネロンガを、お姫様だっこのように抱え、そのまま重量挙げのように頭上に持ち上げ、2回転してから投げ飛ばす! あの細いボディで4万tものネロンガを持ち上げるとは、すごいなウルトラマン。
ひっくり返ったネロンガは、暴れるカエルのように両手足をバタバタさせて苦しみ、やがてうつ伏せになって動かなくなった。その背中に、とどめのスペシウム光線。ネロンガが粉々に砕け散ったのを腰に手を当て見届けて、ウルトラマンは飛び立っていった。
(この頃から、ウルトラマンとハヤタの関係をなんとなく怪しむイデ隊員であった)
佐々木 いかがですか、改めてネロンガとの一騎打ちを振り返ってみると。
古谷 いやあ、強かったですね、中島ネロンガ。
やく なんたって「師範」ですからね、スーツアクション道の。
古谷 どうせ最後はウルトラマンが勝つんだから、それまでは俺が格好よく暴れさせてもらうぜって感じだったんですよ、中島さん。
佐々木 おいしいとこはもっていくぜ、という感じ?
古谷 そうです(笑)。
やく やる気が角の先から放電されていたくらいですし(笑)。
古谷 俺は格好いい転び方をするし、格好いい死に方を見せるから、古谷、お前は邪魔すんなよって(笑)。
やく ネロンガ、雄弁!
古谷 と、言いながら、本番前から、いろいろとね、お前はこう動け、こんなリアクションをしろと指導してくださってね。お前がこう動けば俺はこんなふうに動く。それがカメラに収まると、茶の間の子供たちにこんなふうに伝わると丁寧に導いてくれましたよ。
やく 格闘シーン撮影前の緊張感がよみがえってまいります。
古谷 確かネロンガ戦は3作目だったんじゃないかな。
佐々木 1966年7月31日放送の第3話『科特隊出撃せよ』です。
古谷 撮影が始まった頃ですし、自分がウルトラマンとして、どう動けばいいのかもよくわからない時期に、中島さんが指導してくれたことにより、その基礎? ウルトラマンの動きの基盤みたいなものがネロンガ戦によって形成されたような気がするんですね。あの頃、手探り状態で苦しかったですけど、中島さんがほんの少しこじ開け、光を放ってくれたというか。ちょっとだけ自信の二文字を持たせてくれたような気もします。
やく その光を大きく輝かせるのも、あとは自分の努力次第だぞって、中島さんはネロンガの中で古谷さんの心に語っていたのかもしれませんね。
古谷 そうだと思います。いやでも、ウルトラマンの動きの基盤を作ってくれたという意味では、ネロンガが最強の怪獣かも(笑)。
佐々木 戦いにおける、お師匠さんみたいなもんですからね。
古谷 そうそう(笑)。動きのすべてを知られているという意味でも、ウルトラマンにとってネロンガは最強のライバル怪獣でしょう。
佐々木 さらに四足だから、重そうだし。
古谷 ホント、重かった、ネロンガ。表現が適切ではないかもしれませんけど、映画用に作られたので、作りが細部にわたってちゃんとしているんです。その分、重かったんですよ。
やく 映画用というと?
古谷 首から下がバラゴンの流用なんですよね。
佐々木 1965年に公開された映画『フランケンシュタイン対地底怪獣』にバラゴンが登場しています。ちなみに、スーツアクターは中島春雄さん。
古谷 ああ、ウルトラマンと戦ったときは、すでに勝手知ったるネロンガってやつだったんですね。そりゃ強いわけだ(笑)。
構成/佐々木徹
撮影/五十嵐和博
素材提供/円谷プロダクション
プロフィール
古谷敏(ふるや さとし)
1943年、東京生まれ。俳優。1966年に『ウルトラQ』のケムール人に抜擢され、そのスタイルが評判を呼びウルトラマンのスーツアクターに。1967年には「顔の見れる役」として『ウルトラセブン』でウルトラ警備隊のアマギ隊員を好演。その後、株式会社ビンプロモーションを設立し、イベント運営に携わる。著書に『ウルトラマンになった男』(小学館)がある。
やくみつる(やくみつる)
1959年、東京生まれ。漫画家、好角家、日本昆虫協会副会長、珍品コレクターであり漢字博士。テレビのクイズ番組の回答者、ワイドショーのコメンテーターやエッセイストとしても活躍中。4コマ漫画の大家とも呼ばれ、その作品数の膨大さは本人も確認できず。「ユーキャン新語・流行語大賞」選考委員。小学生の頃にテレビで見て以来の筋金入りのウルトラマンファン。