これを書いているのは、かろうじて2月だ。
緊急事態宣言はまだ続いている。一都三県は、3月に入ってからの解除が検討される。
生真面目に自粛を続け、私はだいぶ太っている。ちなみに、宣言前も決して痩せてはいなかった。暗澹たる思いがする。
それでも、罹患が避けられていること、他者に感染させずにいられることに感謝している。
都築章一郎コーチには、まだ会えてはいない。緊急事態宣言が解除になるのを待って、訪ねられればと考えている。
その前に、過去の話を少し紹介しておきたい。
たくさん話を重ねてきたので、私のノートには都築の言葉が、熱さを失わず、残っている。彼自身についての話を除けば、ほとんどが羽生結弦にまつわる言葉だ。
たとえば、プログラムについて、こんな話をしている。
「羽生さんは、『SEIMEI』と『バラード第一番』を『いちばん自分らしいプログラム』、『自分が自分であるための作品』だと仰っています。指導者の立場からご覧になっていかがですか?」
都築は答えた。
「『SEIMEI』というのは、日本人ですよね。日本人である羽生が、日本の美、心を表現するという意味では、いちばん合っていたのかも知れません。
自分の心や身体にぴったりくる作品は、たしかにあります。
羽生の場合、あれだけのスケーターですからね。彼がいかに感じるかによって、音楽の解釈もずいぶん変わってきます
羽生なりに解釈をして、いろんな曲で演技をする。そうした中で、自分には『これが合う』という感覚を得ているのではないでしょうか」
この話をしたとき、都築には世界最高得点を記録した四大陸選手権(2020年韓国)でのショートプログラムを見てもらっている。むろん「バラード第一番」を、である。
羽生は演技前の状況を「音楽が自分の中にすーっと吸い込まれるように入ってきた」としている。
ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。