宇都宮直子 スケートを語る 第23回

クリスに贈る

宇都宮直子

 さて「長靴を履いた猫」だが、素晴らしかった。

 岡崎隼士のスタイルに沿ったプログラムで、コリオグラファー、クリス・リードの才能を思った。情熱を感じる。

 クリスが生きていたら、今年はどんなプログラムを作ったのだろう。あらためて、早すぎる旅立ちが残念でならない。

 岡崎の演技には、驚いた。リンクを広く使えるスピードがあり、足のさばきもスムーズだ。

 NHK杯が終わった後、キャシーと電話で話をした。

 彼女は笑っていた。弾んだ声で、嬉しそうに言う。

「隼士くん、素晴らしかったですね。表現力がある。テレビで観ていたんですが、すごくよい滑りをしていて嬉しくなりました。

 クリスが言っていました。『彼はすごい才能がある』って。私もそう思います。

『飲み込みが早くて、振り付けがやりやすい』とも言っていました。

 隼士くんはほんとうに才能があります。

 まだ10歳だけど、すごく大人っぽくて、スピリッツの見えるスケートをする。

 曲をよく聴いて踊っています。動きが合っている。すごいですよ。あの感覚は10歳の選手にしたら、けっこうレアだと思います」

 私は訊ねる。クリスのプログラムを岡崎が選んだ経緯について。

 キャシーは、また嬉しそうに言った。

「NHK杯は、日本の人たちも海外の人たちも見る試合ですよね。

 そういう場所で、もう一度クリスの振り付けをみんなに見てもらいたいと、隼士くんが考えてくれました」

 披露にあたり、キャシーはクリスのプログラムを「ちょっとブラッシュアップした」。その作業中には、クリスのスピリッツを感じた。愛を思った。

「なので、NHK杯はめっちゃ嬉しかった。隼士くんもすごくいい経験が出来て、喜んでいました。

 あんなに大きな試合で滑ったことがなかったし、素晴らしい選手たちとたくさん会えたし。

 若い子が有名な選手と話して、目の前で演技を見られるのはほんとうに大事です。そこでパッションが生まれ、大きなモチベーションができます。

 隼士くんには、とても強い気持ちがあります。フィギュアスケートが大好きで、頑張りたいと心から思っている。

 これからアップダウンはあると思いますが、彼が将来、オリンピックに出てくれたら嬉しいな。今はそう思っています」

 

 岡崎隼士は初めての大舞台で、クリス・リードのプログラムを踊った。クリスのことが好きだった。

 私は「長靴を履いた猫」に魅せられた。だから、このエッセイをそのままクリスに贈ろうと思う。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

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 第22回
第24回  
宇都宮直子 スケートを語る

ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。

関連書籍

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プロフィール

宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。
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