フィギュアスケートは、女子選手のピークがとても早くやってくる。そして、ピークの時期は総じて短い。
ロシアの現状を言えば、残酷でさえあると思う。才能の宝庫ではあるが、「若さ」に頼る危うさを併せ持つ。
勝てるときに勝っておかないと、次から次に新しい「天才」が現れて、過去に追いやられてしまうのだ。
十代前半の選手の拮抗には、目を見張るものがある。育成の成果はすばらしい。一方、フィギュアスケートの美しさは技術だけではない。
私は、エリザベータ・トゥクタミシェワ(1996 年生まれ)の演技が好きだし、年齢を重ねたあとのアリーナ・ザギトワ(2002 年生まれ)の演技を楽しみにしている。たとえば、そういうことだ。
ところで、「人生が止まった」あと、トルソワは新しい道を歩くことにした。
名伯楽エテリ・トゥトベリーゼのもとを離れ、皇帝エフゲニー・プルシェンコのもとへ移籍したのである。
この件については次回に綴るが、アレクサンドラ・トルソワの人生は、彼女のものだ。自らの信じる道を進めばいいと、私は考えている。
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ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。
プロフィール
宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。