韓国カルチャー 隣人の素顔と現在 第5回

映画『リトル・フォレスト 春夏秋冬』イム・スルレが描く、生きとし生けるもの

伊東順子

 世の中、あんまり明るくない。

 重苦しい空気の理由は様々だ。仕事のこと、家族のこと、友人関係のこと、あるいは社会や国家のことなど。一見バラバラなのだが、実は見えないところでつながり、影響しあっている。お天気のようなシンプルな例がわかりやすい。すっきり晴れたら前向きになれそうだとか、激しい雨を見ていたら気持ちが落ち着ついたとか。

 4月に韓国に移動して、ちょっと落ち込むことが続いていた。そんな時、偶然『リトル・フォレスト 春夏秋冬』(イム・スルレ監督 2018年)という映画を見た。日本漫画が原作の韓国映画。映画版は先ず日本で2部作が作られて、2015年に韓国でも公開された。それを見た韓国人の映画製作者が「ぜひ韓国でリメイク作品を」とイム監督に懇願し、韓国版が製作されたという。

 「映画の製作者が個人的につらかった時期に、偶然その映画を見てものすごく癒やされたと、私に監督の話を持ちかけてきたんです」

 ということを、ちょうど別件の翻訳作業をしていたイム監督のインタビューで知った。翻訳の参考にと、配信サイトを検索してみたら、イム監督の映画作品がいくつかヒットした。そのうちの一つが『リトル・フォレスト 春夏秋冬』だった。

 翻訳仕事のかたわら、「ついでに映画も」と軽い気持ちだったのだが、なんということだろう、1本の映画を毎晩のように見ることになってしまった。自分でも驚くようなハマり具合なのだが、連続ドラマを徹夜で完走するのとは全く違う。疲れた時にちょっと見るだけでもホッとする。まさに「癒やし」の映画だった。

 「まるで温かな重湯が沁みわたるように、身体の内側から癒やしてくれる……」

 インタビュー記事の筆者は、そんなふうにイム監督の話し方について表現していたが、上手な例えだなと思った。映画もまさしくそんな感じだった。これまではヒーリングとか癒やしというものに一切関心がなく、ストレスはスポーツで解消するタイプだった私が……、世の中には不思議な出会いがあるものだ。

 今回はそんな出会いを記念して、映画『リトル・フォレスト』とイム・スルレ監督について書こうと思っている。

 

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プロフィール

伊東順子

ライター、編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』(集英社新書)好評発売中。

 

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